国害、ブラック・スライムによって荒らされた、サウス・メトロポリスの市内。そこに二人、まだわずかに幼さを帯びた、少年と少女が一人ずつ。
年齢も同じ、もし、彼らが全く違う道を歩んでいれば、もっと違う出会い方をしていたのかもしれない。まあ、少女、雨森早月に至っては、そんなことは微塵にも思わないだろうが。
「そうだ!ちょっと考えたんだけどね。やっぱり心配だから、しようと思ってさ。もう一回せっちゃんに会いたかったんだ。そうしたら、バタフライから脱走者が出て、そいつらを捕まえる為に、こんな嫌らしい場所まで来たんだけど、偶然だね!本当に、会えてよかったよ!」
「しようとって…悪魔の手先が、俺に何をしようってんだ?」
「そんな〜、私、悪魔の手先なんかじゃないよ。そんな考え方するなんて、やっぱり、しなきゃダメだね。ああ、何をするかって?決まってるじゃん。」
彼女は、制服の左ポケットから手錠を取り出し、刹那に見せた。彼女はそれに、今回の要件の関係で、支給されたからね。と付け加えた。
「異端な思考をする悪いせっちゃんは、逮捕しちゃいます、みたいな!じゃあ、両手出して!」
出すわけないだろ、と彼が渋ると、彼女は彼の目の前に顔を寄せ、怖いの?と言って、彼の目を見つめる。
早月の眼は、普段は水晶のように透き通っているが、彼には、今回は、少し濁っているように見えた。一体、彼女に何があったのか、それを知る由はない。しかし、思ってみれば、彼女には、今まで自分が思ってきた蝶の人間らしさは、まるで感じられなかった。
だからこそ、彼女に惚れた。欺かれた。
本当に彼女達は、倒すべき敵なのだろうか。
刹那がそんなことを考えていると、刹那と早月の背後に、急に、炎の分厚い壁が出現した。その壁の衝撃波によって、二人は、全く同じ方向に吹き飛んだ。
早月は、少し前にその奇襲に気づいたのか、刹那を抱え、持っていた手錠で自分の右手と刹那の左手を繋ぎ、彼を自分に引き寄せた。
刹那は、引き寄せられて初めて、その炎の光線の正体に気づいた。
「…ブルーヘッド!D級の国害!」
二人の前に立つ、青白いドラゴン。四つの翼を持ち、日本足で立ち、両腕は、肉食恐竜のような腕を持ち、真っ青な頭を持つ。そのドラゴン、ブルーヘッドの口からは、灼熱の息が漏れている。
ブルーヘッドは咆哮を上げ、刹那達を探し、捕食しようとしているのか、キョロキョロ辺りを見回している。
早月は、刹那と自分にかかっている手錠を外し、自分の守護霊の名前を呼んで、体内から青いドラゴンを出した。
「お願い、龍神様!一体化、雨雪龍レイン・アイ!」
青いドラゴンが、再び早月の体内に戻り、彼女は、大量の青いオーラを纏う。
「落雷召喚!」
早月が腕を天に掲げると、空から、龍の形をした雷がブルーヘッドに落ち、ブルーヘッドの固い鎧は、バラバラに砕けた。
落雷自体のダメージも相当なもので、ブルーヘッドは痺れ、口から、血のようなものを垂らしている。
早月はこの隙を逃さず、彼の懐に忍び込み、拳をつくり、ブルーヘッドにそれをかざす。
「逆鱗!」
早月が、守護霊の能力を使用した状態でブルーヘッドを殴ると、ブルーヘッドの体内からは、大量の血が吹き出た。
返り血が、早月に降りかかる。しかし、そんなことは気にも止めず、彼女は慣れた手つきで、ブルーヘッドにひたすら痛みを与え続ける。
普段は、無邪気でヘラヘラしている彼女だが、敵を打ち倒す際の表情に、そんな表情は一切映らない。そこだけを切り取って見れば、バタフライの勇敢な女兵士に見える。
情けの隙すら入らぬ攻め方。恐らく、この表情の彼女と刹那が戦えば、彼は一瞬で肉片だろう。
ブルーヘッドは次第に弱っていき、とうとう立てなくなり、その場に倒れた。
「さて、もう終わりみたいだね。」
ブルーヘッドの、血と共に剥き出しになった心臓は、まだ、バクバクと鼓動を刻み続けている。
早月は、内ポケットから、赤の十字架を刻む用のナイフを取り出し、ブルーヘッドの心臓を貫こうと、心臓に近寄っていく。
ブルーヘッドは、微かに声を上げるが、その咆哮も弱々しく、もう戦う力も残っていないように見える。
「…やめてよ!」
早月がトドメを刺そうとしたその時、先ほど消えた青年が庇っていた、ワンピースを着た少女が、ブルーヘッドの前に立ちはだかった。
少女は涙を流し、ブルーヘッドを見て、可愛そうにと、ブルーヘッドにすり寄った。
早月は、少女を見て、また君か。とため息をついて呆れ、ナイフを内ポケットにしまった。
「それに、制服も着てないし…ってことは、君?私達が探してる逃亡者って。あのさ、そういうのやめてくれない?君のせいで、みんなに迷惑かかってるんだけど。」
てか、君まできたら、手錠一つじゃたりないじゃん。と、彼女はもう一度、深いため息をついた。
ワンピースの少女は、それを聞くと、早月に手を伸ばし、一緒に逃げよう、と彼女を誘った。
少女の腕は、泥だらけであった。その汚れっぷりが、彼女達の、脱獄後に出会った悲惨さを物語っているようで、早月は、哀れむような目で彼女を見下した。
刹那は、そんな早月の眼を、見たことがなかった。まあ、彼女に遭うのはまだ二回目なので、当たり前と言えば当たり前かもしれないが。
早月はその後、彼女を見ながら、傑作だ、と言わんばかりに爆笑し、彼女を睨み、手錠をその手にかけた。
「………!」
「…一つ聞く。世の中に、軍人を犯罪に誘うテロリストがいるか?看守を逃亡に誘う死刑囚がいるか?なあ、なあ!?」
「ちょっと…やめてよ!私、そんなつもりじゃ…」
少女は手錠から抜けようとするが、手錠はしっかりとはまっていて、全く取れる気がしない。早月は目つきを変えず、黙れ、と彼女に先ほどのナイフを突きつける。
少女は、そのナイフに怯えて黙り、早月は彼女のもう一つの腕にも手錠をかけ、仲間の元に連れて行こうとした。
しかし、その瞬間、突然背後から、耳をつんざくような咆哮が轟いた。
それを聞いて、早月はそうか、忘れてたと、一瞬だけブルーヘッドに視点を寄せ、指を弾いた。
「…流星群。」
無数の光線がブルーヘッドに放たれ、ブルーヘッドは肉片と化した。早月が視点を少女に戻した時、少女はそこにおらず、砕けた手錠だけが、その場に捨ててあった。
「二兎を追うものは一兎も得ず、か。」
早月は舌打ちをしてそう呟くと、すぐに表情を変え、刹那に笑顔で、待たせたねとはにかんだ。
刹那は、早月の恐ろしい一面を見て、内心では戦わねばと思っていても、足が竦んで動けない。
「…あ、ごめんね!怖かった?やだ、せっちゃんったら、本当に可愛いね!あ、そうだ。もう少しでお昼だね。お腹すいた?一緒にご飯食べる?」
「残念だが、お前らにそんな時間はない!」
早月が、笑顔のままで刹那を誘うと、それを遮るように、廃ビルの屋上から声がした。
声の先には、細身で白髪の青年が、先ほどのワンピースの少女と立っていた。
青年は、氷を身体にまとった白い鳥を右腕に留めている。彼の周りの一帯は凍りついていて、彼に飛んできた蛾は、彼の周りの床に止まった瞬間に凍りつき、一つの氷となって、ビルの下に落ちた。
彼を見ると、早月は再び表情を変え、刹那を庇うように、彼の前に立ち上がった。
「あいつは…?」
「多分、この辺にいる革命軍のリーダー、川崎朱雀。せっちゃん。あいつ、凄いよ。今日まだ早いのに、バタフライや国連から処刑命令が出てるって話だからね。多分、今日だけじゃない。今までにも、何人かこいつに殺られてる。素海…あんな反逆者と…絶対に許さない!帰ってチクって、当分牢屋行きにしてやる!」
早月は、刹那にそれだけ説明すると、先ほど解除をしておらず、スリープモードであった一体化を再び起動し、青いオーラをまとい、青年、川崎朱雀に向かっていった。
その頃、ラビットは、その川崎朱雀から連絡を受け、彼のアジトへ向かい、丁度たどり着いていた。
アジトには、彼の仲間が大量に蠢いていた。バットや包丁で武装するもの、拳に全てを委ねるものなど、物騒な人間しかいない。そして、その中に一人だけ居るのは、先ほど刹那と戦った、あの青年。
「お前は…?」
「お前は、とはご挨拶だな。見ての通り、この革命軍の一員だ。」
「違うな。お前からは、バタフライの人間の匂いがする。だが、どうもスパイとは思えない。逃げてきたのか?」
そうだ、と彼はあっさり答えた。さらに彼は、これからリーダーの川崎朱雀が、自分と同じく離反者である、秋村素海を連れて帰ってくるから、そうしたら仲間達を率いて、バタフライ軍を殲滅するから、お前が来たら、ラビットも来て欲しいと言うように言われたと伝えた。
彼がそう言うと、革命軍の目線が、急にラビットに集中した。彼らは、ラビットが首を縦にふることを疑いもせず、彼のその行為に、拍手喝釆を送る用意をしている。
外道が、そんなことの為に。ちょうど、国連のブルーヘッドのイレイズと重なっていたから、ようやく真面目に国害を駆除する気になったと思っていたのに。彼は内心でそう呟いて、彼に強い呆れと、彼の身勝手さへの苛立ちから、目の前にあった小石を踏みつぶした。
「どうだラビット。お前も…」
「くだらん!自分だけこそこそ逃げてきて、こんなテロリスト共とつるみ、偽善者を語るような屑に、力を貸す気などない!早くバタフライに帰れ!ブルーヘッドの除去命令が出ているぞ、正義を名乗るのならば、バタフライ兵として戦え!お前は、昨日の仲間達に対して、そんな愚かな仕打ちしかできんのか!下衆め!」
彼は、和やかに彼を誘う青年に対して、その愚行を怒鳴り、アジトの広間を出て、荒れ果てたサウス・メトロポリスの丘で水筒の水を飲んだ。
その後、彼は、すぐにサウザンド・リーフに帰るバス停へ向かおうとしたが、彼は途中で、誰かにつけられているような気を感じた。
恐らく、革命軍の人間が、仲間になってくれなかった腹いせに、殺しにきたのだろう。そう感じたラビットは、更に腹を立て、腰のチェーンソーを引き抜き、一瞬で楽にしてやるから、かかってこいと、場所の解らぬ敵に殺意を向けた。
すると、革命軍の人間が七人、廃墟の影から、銃や剣を持って現れた。