人の死臭が空気に乗り、それが煙と混じり、空気の質が最悪にまで達する、メトロポリスの一角。そこには、その死臭をさらに濃くする、革命軍の兵士が数人と、対するは、たった一人の、紫の髪を持つ少年。
しかし、その少年ラビットは、その革命軍全員のオーラを持ってしても足りないほどの、濃く、黒いオーラを放つ。
「悪いが、お前らのお遊びに付き合うほど、俺はクソガキではない。貴様らなど、蝶狩りを指揮しているバタフライの幹部と何も変わらんな。」
ラビットが怒り、言葉を吐き捨てると、革命軍からは怒号が飛び交い、貴様こそ、本当はまだ、バタフライとつるんでるのではないのかと言う声も、彼に聞こえた。
彼は、それを聞くと、そうかもな。と彼らを煽った。
そして、ラビットはチェーンソーを振りかざし、一瞬で楽にしてやると言って、一気に黒いオーラを発した。
そのオーラから感じられる彼の感情は、底知れぬ怒り。慈悲の入る隙すら存在しない、深い闇。一体、この世界のどれだけの負のオーラを集めれば、彼のオーラに勝てるのか。
恐らく、暴君に虐げられた者達が囚われた監獄へ行こうが、このオーラの前には、誰もが怯えるだろう。それくらいの、非常に暗いオーラ。
「来い、双尾之白兎!」
本来なら白い兎も、今回は真っ黒だ。それほどにまで、彼のオーラは負のオーラを含んでいる。
丁度その時、ラビットの後ろには、彼の命を狙う、二人のバタフライ兵がいた。彼らは、この革命軍とラビットとの戦闘に乗じてラビットを暗殺し、赤の十字架を刻めば、高い階へ昇進できると踏んでいた。
しかし、彼らのそんな考えは、一瞬にしてかき消された。
「気違姫之懺悔刀!」
ラビットの動きは、彼らの眼には、まったく終える代物ではなかった。彼がチェーンソーを一振りすると、黒い衝撃波と共に、革命軍達の首は吹き飛んだ。
否、革命軍達の首だけではない。ラビットの周囲にあった建物全てに、衝撃波の跡が、しっかりと刻み込まれている。
バタフライ兵の二人はしゃがんでいて、その衝撃波に当たっていれば、恐らく即死であっただろう。
「こいつは…即死級!?」
バタフライ兵の一人は、その強力すぎる守護霊の力から、それ以外ありえないと判断した。
即死級。守護霊が一つだけ有する、相手に当たれば、確実に仕留めることができる一発のことである。
しかし、その能力にはデメリットが存在する。それを使用した後は、数日の間、動くことができないほどの疲労を伴い、さらに、守護霊は回復の為に大量の欲望を欲するため、その間は、まったくの無気力状態と化す。
故に、バタフライ兵は、今以外に、彼を倒す時はないと思った。今のラビットは、恐らく疲労で動けないはず。ならば、この隙に守護霊で攻撃を仕掛ければ、簡単に彼を仕留めることができる。そう思い、バタフライ兵の一人は、彼を仕留めようと立ち上がった。
「おい…やめておけよ。簡単に昇階できるからって誘いに乗ったのに、こんなやつを狩るなんて…聞いてない…」
「何言ってんだ!今のは即死級。あんな大技を放ったラビットが、まだ動けるわけないだろ!だから今のうちに…」
そんな彼の威勢は、彼が次にラビットを見た瞬間、塵のように消え失せた。ラビットは、息切れこそ起こしているものの、倒れて動けないどころか、更なる黒いオーラを纏い、バタフライ兵の二人を睨みつけた。
「ああ、普通はそうだ。確かにこの能力、気違姫之懺悔刀は、即死級の能力。見た目だけの威力を有するが、使えば瀕死になるほどの能力だ。だが、俺は鍛えているおかげで、これを、ぶっ倒れるまで、二発までなら連射できる。そして、二発目は一発目よりも強力だ。故に二発目を食らった人間は、その攻撃を耐えようが、欲望と言う欲望全てを、本人の自我が無くなるまで、俺の守護霊が喰らい尽くす。そういう能力だ。」
ラビットの表情を見て、彼らは、ラビットの台詞が嘘ではないと確信した。このままではやられる。そう確信した彼らは、ラビットとは正反対の方向へ逃げようとした。
しかし、ラビットはチェーンソーをしまい、黒いオーラを極力抑え、彼らに、今度は殺意のない、普段の彼の声で話しかけた。
バタフライ兵の二人は足を止め、恐る恐る彼の方を向いた。
「…ああ、いや。君達と争う気はないんだ。ただ、今の俺とやりあえば、君達は死にかねん。闘うのなら、また今度にしよう。そういう意味だ。脅かして悪かったな。それと、もうすぐ、川崎が、お前達を攻めおとそうと、約数百の革命軍を率いて、お前達のところに来る。大した軍隊ではないし、そもそも守護霊使い自体が少ない兵隊だ。だが、強い奴は強い。一筋縄ではいかん。あと、お前達が探している逃亡兵もそこに…気をつけてくれ。それだけだ。」
それだけ話すと、今度は彼のほうから、二人のバタフライ兵から背を向け、走り去った。しばらく唖然としていた二人だが、すぐに我に返り、とにかく、早く本部に連絡をと相方に命じ、相方は、スマートフォンから本部に連絡した。
一方、早月は、川崎の容赦ない攻撃を受け止め、なおかつ、川崎にダメージを与え続け、彼は既に息切れを起こしている。
もちろん、川崎の攻撃が、全く効いていない訳ではない。刹那が早月の、ずっと川崎の攻撃を受け止め続けていた左腕を見ると、すでに腕の一部が凍っていて、わずかながら、他の箇所にも、凍傷と思われる怪我が見られる。
しかし、早月は眼の色一つ変えず、守護霊を憑依させたまま、ひたすら彼の攻撃を、機械的に腕でガードし続ける。
「ふん、そうこなくては、殺しがいがない。それならば、これならどうだ!氷鳥の反逆部隊!」
川崎がビルから降り立ち、オーラが川崎の背中に翼をかたどり、彼女めがけて落下する。
オーラはそれだけに留まらず、彼の周囲にいくつもの鳥を作り出し、彼を追って落下してくる。
早月の流星群によく似ている。あれは、いくつものオーラを一ヶ所に落とし、対象を滅殺する技。恐らく彼の能力も、同じような技であろう。
それ故に、早月はそれを素早く判断し、刹那の腕を掴み、空中に飛んで避けようとした。しかし、ここで早月は、あることに気づき、それを止め、その場に留まった。
もし、彼が自分達の所に落下してくるのならば、今の彼に術を放てば、百発百中で当たるのではないかと。それができれば、一瞬で勝負がつく。
しかし、代償もある。もし、彼が突撃の際に、自身を、自身のオーラによるダメージと、突撃の衝撃から身を守るために、身体全体を、守護能力のある技で守っていれば、早月の技によるダメージは、ほとんど通らない。
事実、彼はこの技を使う際、同時に守護能力を使っている。その技の採用理由も、早月の予想の的を射ている。
かと言って、全てを早月が、守護能力のあるバリアの技で守ってしまったら、彼は力の差に気づき、別の技に切り替えるために引き退るため、結果この機会を逃し、さらに、川崎に、自分の技の一つを見られてしまうため、上に逃げてしまった方が良かったと言うことになる。
何とかして、上手く薄いシールドを作り、彼の防御をもろくし、彼をその場に留まらせることはできないだろうか。
そう思ったとき、彼女の目に映ったのは、刹那の姿だった。
そうか。刹那の未熟なバリアならば、力の差を痛感させずに防ぎ、尚且つ、隙が作れる。彼女はそう思った。
しかし、先ほど自分に怯え、尚且つ、バタフライを嫌っている彼が、力を貸してくれるだろうか。そんな感情が、彼女の中によぎる。
でも、今は非常自体だ。それに、今やらねば、彼も死ぬ。そう踏み込み、早月が刹那の方を振り向き、刹那に、自分はバリアを持っていないから、バリアを出してくれと嘘をついて頼んだ。
嘘をついた理由は、この方法を使えば、川崎に対し、瀕死になるほどのダメージを与え、彼を捕らえることができるから、と言うのが一つの理由だろう。恐らく、刹那に、川崎を捕らえ、警察に引き渡すと言えば、彼は協力を拒むと彼女は踏んだのだ。
刹那は、彼女に頼まれてからわずか数秒だが、その間、様々な思いで葛藤していた。
もし川崎が、ラビットの仲間の一人ならば、ここで川崎を倒せば、彼の恩を仇で返す行為になるし、何より、それをやってしまったら、自分がバタフライへ服従するようなことになる。
《仲間は八人居た。全員、守護霊使いだった。だが、内四人は、蝶に殺された。俺が奴らと手を切ったことを、奴らはバタフライへの冒涜と言い、目の前に、同じ標的である国害が居るにも関わらず、その冒涜者である俺の仲間として、その場で処刑した。残った四人中二人は、蝶に捕まり、警察に引き渡され、拘置所に終身投獄。もう二人は、アジトに目を付けられたから、ここにはいられないと言って、拠点を別に移した。》
《おっと、知っていたか。そうとも、俺はバタフライの実践部隊の生徒。俺たちは、今は一人のリーダーの元に従い、任務を全うしている。任務とは、反逆者、ラビットの仲間の殲滅。この場所、サウザンド・リーフには、ラビットとその仲間以外の守護霊使いは居ない。つまり、守護霊使いと言うことは…》
二つの忌々しい記憶が、彼の脳みそをついばむ。そうだ、バタフライは敵。その手先である彼女の命に従うことは、絶対にしてはならない。
それに、この川崎は、ラビットの仲間とは限らずとも、バタフライを、自分と同じく敵とする、革命軍のリーダー。彼に全てを話せば、自分を革命軍として受け入れてくれるかもしれない。
彼はそれを考慮し、一瞬だけ、早月に、断ると言おうとした。
しかしその時、また別の記憶が、彼を揺さぶった。