国害指定堕落都市   作:tesorus

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追憶の彼方

今から遥か昔の、1月3日。

 

刹那は小学校に入ったばかりで、まだ幼かった。その日は、正月の、親戚同士の集まりがあって、彼は彼の叔父の家で、今は亡き彼の兄、闇切諸行と、その叔父の息子である闇切修羅と三人で遊んでいた。

 

修羅には姉がいた。しかし彼女は、どういう訳か、まったく親戚同士の集まりには来なかった。叔父に話を聞くと、彼女は母親に懐いており、離れようとしないため、連れてくることができないと言う。その母親は喘息故に、いつも、こういう場には出ずに、家に籠りがちであった。

 

そして、その修羅の姉こそ、あの闇切輪廻である。彼女と刹那が、互いに面識がないのは、この理由からであろう。とは言っても、諸行は一度きりだけ、彼女達の家へ遊びに行ったので、実質、輪廻と面識がないのは、刹那だけであった。

 

刹那は、叔父を尊敬していた。彼は警察官として、サウザンド・リーフの警察署に勤めていた。彼は当時、命を張って国害から住民の命を守り、度々テレビに出演したりもしていた。

 

叔父は、刹那の誇りだった。いや、今でも、叔父を彼は尊敬している。彼が蝶狩りに遭った後でも、彼は息子と共に生きていて、共に彼をサポートしてくれた。

 

とは言っても、ラビットと組んだ後は、すっかり連絡をしなくなってしまったが。

 

その1月3日の日、彼は叔父と、こんなやり取りをしていた。

 

「ねえ、叔父さんは、テレビで、どうしてあんな怖いことをやれるの?怖くないの?」

 

刹那はいつも、叔父の出ているニュースを見ていた。国害に荒らされ、瓦礫の山から助けを請う住民を、彼は国害が目の前にいる中で救い出し、住民から感謝されていた。

 

「怖くないさ。目の前に助けを請う人間が居たら、助けるのが俺の仕事さ。そうだ、刹那君。君は、街を荒らす国害を倒すのは、正しいことだと思うか?」

 

「正しいよ。だって、悪い奴は倒さなきゃダメじゃん!」

 

刹那は即答した。実際、彼にとっては、国害は国の平和を脅かす国害は「悪い奴」であり、正義のヒーローである警察がそれを倒すのは、当たり前のことであった。

 

刹那は、もちろん叔父も、同じことを考えていると思った。だからこそ、彼は胸を張って答えた。

 

しかし、彼は、それを聞くと、そうだよなと呟き、黙ってしまった。

 

そして沈黙の末、刹那に一つ問いかけた。

 

「…なあ刹那、お前にはお父さんがいて、お母さんもいる。俺も、修羅も、諸行兄ちゃんもいる。そうだよな。」

 

「…うん。」

 

「でも、それは、国害も同じじゃないか?国害だって、昔からあんな大きかった訳じゃない。あいつらだって、昔はお父さんも、お母さんもいたはずだ。もしかしたら、叔父さんも、お兄ちゃんも居るかもしれない。それで、その国害が家に帰れば、そんな皆とご飯を食べられる。一緒に遊べる。もしも、そんな奴だったとしても、お前は同じ風に、倒せるか?」

 

「…叔父さん?」

 

まだ幼い刹那は、叔父の言うことが理解できなかった。叔父も、刹那にはまだ早いと悟ったのだろう。話を逸らし、彼との会話も、そのまま風化した。

 

 

 

 

 

 

しかし、今なら彼の言っていることが解る気がする。刹那は、そんな気がした。いくら憎い敵だからと言って、その恨みをそのままぶつけ、殺めてしまうことは正しいことではない。

 

革命などとほざき、殺戮を正当化するのは間違っている。それでは、バタフライの連中と何も変わらない。正義の反対は、また別の正義と言うが、そんなことをする者達は、正義とはほど遠い。

 

悪の反対が、正義を名乗る、また別の悪なだけだ。

 

《目の前に助けを請う人間が居たら、助けるのが俺の仕事さ。》

 

刹那は、叔父の言葉を、もう一度思い出した。そうだ、助けを請う人間を見捨てて、何が正義だ。彼はそう思い、解ったよと早月に返した。

 

「一体化、火焔黒蚕ヤミギリ!行くぜ、黒蚕の死封結界!」

 

刹那達の前に、赤いバリアが張り巡らされる。赤いバリアと無数の氷の鳥がぶつかり、鳥達は溶け、蒸発した。

 

そして、早月の思い通り、川崎本体だけはそのバリアを破り、そんなバリアは効かないと笑った。

 

早月は思った。これで、彼の息の根を止められると。

 

「残念だったね。即死級、龍神王の援軍!」

 

早月の身体が光り、彼女の服は、杖を持った皇帝のような服に変わった。そして、彼女の背後に、装飾品で着飾ったドラゴンが姿を現す。

 

ドラゴンはそれぞれ、異なる色をしており、背後の龍も含め、その全てがレイン・アイにどことなく似ている。

 

右手を上げると、八匹のドラゴンが口を開け、八色の光線を吐いた。

 

それを前にして、残った鳥は全て破壊され、川崎の翼もバラバラに砕けていく。

 

川崎は光線をもろに受け、吐血する。それでも光線は彼に降り注ぎ、彼を背後の廃ビルに叩きつけた。

 

火を噴くビル。川崎の周囲の、光線が当たった箇所のビルは焦げ、その光線がよほどの高温だったことが伺える。

 

もう十分だろと思う刹那、しかし、早月の攻撃は、それだけに終わらない。八匹のドラゴンはその場から飛び去り、融合し、一匹の巨大なドラゴンとなった。ドラゴンは八色に輝き、十六の翼を生やしている。

 

「……嘘だろ?」

 

そう言った刹那の脳内に繰り広げられた、最後の一撃は、一瞬の内に現実のものとなった。巨大なドラゴンは、咆哮を上げ、既に死にかけた川崎目がけて飛び込んだ。

 

川崎の背後の廃ビルは焼け落ち、跡形もなく消えた。

 

 

 

 

 

 

 

「早月、お前…本当に殺し…」

 

「……大丈夫だよ。革命軍のリーダーは、多分あんなんじゃ死なないよ。はぁ…でも、即死級は身体に負担が…」

 

早月の能力が終了し、服も元に戻ると、早月は疲れ果てて、刹那の胸に飛び込み、そのまま彼に力なく抱きついた。

 

「お前…」

 

「あのさ、私、もうしばらくは動けないかも…だからさ、あいつが目覚めないうちに…その…制服のポケットに、私のケータイ入ってるからさ…それでアドレス帳開いて…上から二番目の人に、助けに来てってメール送って…なんて。」

 

「…そうか、解った。じゃあケータイ貸し…え!?」

 

彼は、早月を抱えながら、彼女の頼みを聞こうとした、その時だった。わずかに下を見た、彼の瞳が捕らえた異常なものに、彼は酷く驚いた。それは、彼が予想だにしないことが、下で起こっていたからだ。

 

彼の下で起こっていたこと。それは、ヤミギリに関することであった。ヤミギリは普通、大きな毛虫のような姿をしている。刹那とヤミギリの能力に、糸に関する能力が入っていたのも、それからだ。

 

しかし、彼が見下げたヤミギリは、全く違う形をしていた。

 

ヤミギリは、黒い球体と化し、彼の周囲には、まるで彼を守るかのように、赤い炎が漂っていた。彼に目はなく、代わりに、身体に赤い筋が幾つか入っている程度だ。

 

ヤミギリがこんなになって、本当にこの先、戦えるのか。目の前に居る早月に聞いても、成長しただけだから大丈夫と、弱い声で答えるだけで、他は何も話してくれない。

 

その数秒後、そんな彼にとって、その悩みが現実味を帯びる、最悪の展開が目の前に広がる。

 

 

 

 

 

 

「リーダー!援軍を連れて来やしたぜ!」

 

「リーダー!お怪我は!?」

 

数千の革命軍が、川崎と素海の元に駆けつけたのだ。川崎はそれを聞いて、よろけながら立ち上がり、少し油断しすぎたと、口から血を垂らしながら、仲間を自分の元に引きつける。

 

手慣れな守護霊使いも、何人か居る革命軍を相手に、早月まで守って、こんなヤミギリと一緒で、一人で戦えるのだろうか。彼の出した答えは、ノーだった。

 

彼は早月を連れて、背後のビルの隙間に逃げようとした。しかし、背後から迫る別の脅威に、彼は身を震わせることになる。

 

「おお!なんだ、既にブルーヘッドは始末されてるじゃねえか!って、今度はあのテロリスト集団かよ!どうすんだ生徒長!」

 

「ふん、落ち着け。革命軍には、守護霊使いではないものも混じっている。仮に使えたとしても、大した使い手ではあるまい。それに、彼らが逃亡者を匿っているとの情報も入っている。ここで倒せば一石二鳥だ。」

 

彼の背後には、無数のバタフライ兵も押し寄せていた。恐らく、先ほどのブルーヘッドの咆哮を聞いて駆けつけたのだろう。

 

睨み合う、バタフライ兵達と革命軍。

 

当たり前と言えば、当たり前かもしれない。バタフライ兵にとっては、仲間を殺されたテロリスト集団。一方、革命軍にとっては、彼らの結束の原因である、最も憎むべき敵。

 

バタフライ兵のリーダーであり、司令官でもあるガルム・セリアーヌは、彼らへの憎しみから、右腕の拳を、強く握り続けている。しかし、彼にとっては、任務の遂行こそが本来の使命。

 

本来の目的を果たすまでは、彼らは重要な取引相手。彼はそう思い、心を落ち着かせる。

 

「…我々の生徒を返してもらおうか。」

 

彼の言葉に、革命軍は反応を示さなかった。彼と革命軍の間には、修羅の空気が流れている。

 

革命軍のリーダー、川崎朱雀は、濁った目で彼らをじっと睨み続ける。その目には殺意が溢れ、今にも爆発しそうだ。

 

ガルム・セリアーヌも、その言葉を返した時から時間が経つにつれ、中に秘めた白いオーラが沸々と蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

「……え?あ、ああ。」

 

そんな中、彼が話した言葉に対して、その中で、たった一人だけ、その言葉に、真面目に反応した者がいた。

 

刹那は、てっきり、その言葉が自分に対する言葉だと思い込み、早月を司令官の元に差し出した。

 

もちろん、この場で彼の言う「我々の生徒」とは、逃亡者である秋村素海と、心境名利のことである。しかし、背景を知らずに、単純にその言葉を受け取れば、それは刹那の抱いている早月にも当てはまる。

 

刹那は、彼らの事情を知っている。しかし、その言葉に対しての、目の前の早月の印象が強すぎるため、「我々の生徒」と言う言葉と、早月のリンクが剥がれないのだ。

 

刹那は、無視する彼の側に、ひたすら早月を渡そうともがく。しかし、彼は憎しみのせいで、革命軍以外は全く眼中になく、彼は応じない。

 

そんな彼に代わり、刹那に応じたのは、彼のそばに仕える、一人のバタフライ兵の青年であった。




早月ちゃんがやっとヒロインっぽくなったワンシーン。
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