国害指定堕落都市   作:tesorus

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鈴との思い出

バタフライ兵の青年は、刹那から早月を受け取り、こいつも災難だったなと笑った。

 

刹那は早月を渡すと、彼から少し距離を置いた。青年からは、莫大な黒いオーラを感じたからだ。彼は一瞬で力の差を判断し、自分が敵わない敵であることを自覚した。

 

「…ん?どうした?俺があんたに何かしたのか?」

 

「いや、別に何も…」

 

刹那は警戒を緩めることなく、彼の質問に答える。彼は刹那の警戒に気づいているのか、まあ落ち着けよと刹那に諭すが、刹那は、彼への警戒を緩めない。

 

「…そうか。お前さん、守護霊を使うのか。それで、俺の中にいる守護霊のオーラを見て、バトったら死ぬかもって怯えてんのか。しかし、何の目的で?」

 

お前らが原因だよ、と言いたいのをじっと堪え、刹那は代わりに、彼から視線を逸らした。

 

ここで正直なことを話せば、それは彼と戦うことを意味する。仮にヤミギリが正常に戦えたとしても、自分に彼にかなうだけの力はない。

 

刹那はそう思い、彼らを殴りたいほどの恨みを堪え、じっと下を見た。

 

この場さえ凌げば、ラビットに全てを話し、また彼と一緒に戦うことができる。そうだ、湖真菜さんにも、守護霊のことを教えてもらえる。そんなことを考えながら。

 

「お前さん、名前は?」

 

「…闇切刹那。」

 

「そうか、なるほど。それで俺たちのことが嫌いか。なるほどね。」

 

刹那はその瞬間、彼を驚いて見て、今さっき、名前くらいなら良いかと、名前を名乗った事を後悔した。

 

理由は、名前を聞いた後の彼の反応だ。刹那はその反応を見て、彼が兄のことを知っていると判断した。でなければ、彼が名前だけを聞いて、自分がバタフライを憎んでいることなど、到底知りえないからだ。

 

「お前、兄貴を知ってるのか!」

 

刹那はすぐさま、彼にその事情を聞いた。彼は後悔こそしたものの、どうせ戦うことになるのならば、兄と彼の関係を知りたかった。もし、彼が兄を殺した本人であるならば、それは、彼が許しておけない仇であることを意味するからだ。

 

しかし、彼の口からは、刹那が予想だにしないような回答が飛び出た。

 

「え…兄貴?いや、ごめん。それは知らねえや。すまんな…いやいや!悪かったな。おっと、そろそろ時間だ。生徒長!お取り込み中のとこ悪いが、もうお暇しましょうや!」

 

彼が、ガルムにそう話しかけると、彼は反応し、もう時間か、やむを得ないと舌打ちをした。

 

その後、彼は、生徒全員を覆うほどの巨大なドラゴンを出現させ、全員に対してワープを張った。

 

「おっと、そうだ。もしかしたら、お前さんの兄貴のこと、何か解るかもしれないぜ!こっちに来ないか?」

 

「…断る。」

 

彼の誘いに対して、刹那が断ると、彼はまた意味ありげに笑い、そうかい、とだけ呟いて、ワープの中へ入っていった。

 

「よし、いっちょやるか!一体化、渇望邪竜ヨルムンガンド!闇蛇の気まぐれ!」

 

彼の守護霊の輪と共に、バタフライは、その場から消えた。革命軍の人間達は、彼らを逃すまいと、銃や弓を連射するが、彼らには届かず、弾や矢は全て地に落ちた。

 

バタフライが居なくなると、革命軍は、自分達のアジトへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

バタフライの生徒は、その全員が、蝶狩りによって徴兵された人間である。もちろん、雨森早月も例外ではない。

 

早月が生まれたのは、小さな集落であった。そこには、龍を古くから信仰する一族が住んでいて、早月もその一人であった。

 

ところが、6歳のある日、彼女は突然、生まれた集落を後にすることになる。あれは丁度、彼女の父親が死に、新しい父親が、彼女の母親と再婚したばかりの日であった。

 

その日はとても暑く、彼女は一人の友人、雨森(ベル)と共に、集落の小さい駄菓子屋にいた。

 

「ねえ、早月の新しい父親は良い人なの?」

 

「うん!とっても優しいし、お料理もできるし、良い人だよ!」

 

「そっかあ。じゃあ、早月のお爺ちゃんと、どっちがお料理美味しいかな?」

 

「ええ…そりゃあ、お爺ちゃんの方が美味しいよ。お爺ちゃんに勝てる人なんか…あれ?」

 

早月は、飲んでいたラムネのおかわりを買おうと、ポケットの中の小銭を探した。しかし、いくら探しても、小銭は見当たらなかった。よくポケットの中を探ると、ポケットには穴があいていた。きっと、歩いている途中で落としたのだろう。

 

せっかく、お父さんから貰った小銭。早月は悲しみのあまり、目に涙を浮かべた。

 

すると、鈴は早月に、一つの50円玉を差し出した。

 

「はい、早月!私が出してあげるから、もうメソメソ泣かないの!」

 

「……でも。」

 

「良いの良いの!その代わり、私の大事なお金だから、明日お父さんに言って、ちゃんと返してよね!」

 

「……うん!」

 

結局その日は、その話を聞いていた店主が、サービスでラムネを奢ってくれた。しかし、鈴はその前に、お母さんの手伝いをすると言って、家に帰ってしまった。

 

そしてその夜、早月は親から、急に引っ越しをすることを聞いた。父親の仕事の事情で、次の日、その集落を後にすることを聞いた。

 

優しいお爺ちゃんや、鈴にもう会えなくなる。それを聞いてから、その後早月は、別れの挨拶も言えずに、家から一歩も出なくなった。

 

当時、6歳の早月にはケータイもなく、彼女との連絡はできなくなってしまう。鈴を見ると、泣き出しそうになる自分が居て、そんな自分を、彼女に見せたくなかった。

 

それから数日後、早月は別の場所に引っ越した。しかし、そこで友達と思える人など、一人もできなかった。

 

新しい都会の環境に、彼女は慣れることができなかった訳ではない。しかし、彼女の背後には、鈴との別れの記憶がついて回った。

 

もし友人を作れば、またあの悲しみができてしまう。そんな気がして、彼女は、友達を作ることを拒絶した。

 

そして、そんな日々を過ごしてから七年。運命の日が訪れる。

 

早月の住んでいた街は、襲撃を受け、大量の死者が出た。

 

理由は簡単だ。彼女の父親の、さらに祖父は、革命を名乗ったテロによって大量に死者を出した犯罪者で、処刑された身であったのだ。

 

故に、彼女達はバタフライに目をつけられた。

 

彼女は思った。やはり、友人など作らなくて良かったと。

 

別れは必ず訪れる。彼女の母親は、その襲撃で死んだ。父親の消息は分かっていない。だが、彼女は父親が残した、最後のシーンを忘れられずにいる。

 

外は、燃え盛る家や瓦礫で覆われている。母親は、外に様子を見てくると言って、そのまま帰らぬ人となった。しかし、彼女達はそれを知らずに、ずっと母親を待っていた。

 

「早月…こんなお父さんでごめんな。俺さえ居なきゃ、こんなことには…」

 

「お父さんは悪くないよ…だから、お父さんは生きて…私、お父さんまで居なくなったら…本当に独りぼっちだから…」

 

父親は、早月の言葉を聞いて、涙を流し、彼女を抱きしめた。父親と早月はその後、そのままでしばらく共に時を過ごした。

 

それから数時間経つと、父親は早月と向き合い、生きてって言うなら自分と約束をしてくれと伝え、その内容を話した。

 

「早月、なら、早月も絶対に死なないでくれ。お前が死んだりしたら、俺も、もう独りぼっちだ。だから…」

 

それから、父親と早月は、別々に逃げた。互いに、互いに対して迷惑をかけたくないからと言うことで、最良の決断をした。その結果、早月は父親の消息を知らない。

 

それから数分で早月は捕まり、手錠をされてバタフライ行きのトラックに乗せられた。

 

トラックには、悪い思い出しかない。彼女はそのトラックの中で、そう思って泣いた。

 

絶対に生き延びて、鈴やお父さんともう一回会って、あの笑顔をもう一回見たい。彼女はそう思いながら、トラックの中で揺られていた。

 

車内は最悪。窓が無いせいか、揺れによる酔いが激しく、幾度となく吐き気に襲われた。トイレに行くことができたのは、その後潜水艦に乗せられ、バタフライの中に入ってからであった。

 

トイレで散々吐いた後、彼女は、狭い部屋に通され、何枚もの書類にサインをさせられ、手印も押した。

 

バタフライの制服を着せられ、好きでも無いスカートを強制され、次の日から彼女は、バタフライの兵士として、今日に至るまで訓練を受けている。

 

 

 

 

 

 

 

「…また逢えるかな。逢いたいよう、絶対に逢って、50円返さなきゃ。お父さんにも、謝らなきゃ…」

 

女子寮の中の医務室。彼女は守護霊の即死級の反動から、疲れて寝ている間にその夢を見て、また涙を流していた。




書いておいてアレですが、今回みたいな話、結構苦手なんですよね。すぐに泣いてしまう。
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