ヤミギリが繭になってから、数日の時が過ぎた。
刹那は、かつて連絡を取り合っていた叔父からの連絡で、サウザンド・リーフの警察署へと向かった。
刹那の叔父、逆流は、従兄弟である修羅と共に、警察署の応接室で待っていた。彼は刹那が来たのを確認すると、書類を取ってくると言って、扉の外に出て行った。
応接室は、もうすぐ夏だと言うのに涼しく、中々快適な空間であると、刹那は感じていた。近くにはコンロなどもあり、簡易的な料理ならば作ることができる仕様になっている。
修羅は、刹那に似たような顔や体型をしているが、髪は刹那とは違い、茶髪に染めている。
「お前…茶髪だったか?」
「いや。染めたんだよ。姉ちゃんはこういうの嫌いだったから、輪廻姉ちゃんがみたら、きっと怒るだろうけど…もう生きてるはずもないのに、そんなこと気にしたって仕方ないだろ。」
「輪廻?……ああ、お前のあの、なかなか出てこなかった姉貴か。俺は会ったことなかったけどな。」
修羅は、その場から立ち上がり、何か飲むかと言って、冷蔵庫を開いだ。
刹那が任せる、と伝えると、彼はグラスを取り出し、二人分のアイスコーヒーを注いだ。コーヒーを見るたびに、ラビットと初めて飲んだあのコーヒーを思い出す。彼はそんなことを考えていた。
家族を一人失った、それは二人とも変わらない。二人とも、互いに兄弟を奪われたことへの復讐を背に今まで生きてきた。当然、修羅の姉の真実を知るものは、この部屋にはいない。
しばらくすると、逆流は部屋に戻ってきて、彼は、持ってきた書類を刹那達に見せた。
「こいつが、今回バタフライにイレイズが出されているC級の国害、クラウドバンパイヤだ。異物を含んだ雲が自我を持ったもので、下に居れば血を吸われてショック死する。場所はサウス・メトロポリスの首都がある街の端だ。住民はすでに避難しているが、まだ残っている住民も居て、危険な状態だ。」
修羅によると、彼は最近、警察による国害殲滅部隊を作り上げたと言う。それによって、国によって国害を阻止できる部隊を作り上げられれば、バタフライは機能を停止する。
そうすれば、蝶狩りなどは一切なくなり、もう輪廻などの犠牲者は出ないと言う魂胆だろう。刹那はその考えを聞いて、目を輝かせた。
なるほど、それならば誰も死なず、革命軍もバタフライを襲うことはなくなる。もう誰も傷つかぬ未来。やはり叔父は凄い。それを聞いただけで、刹那は叔父への尊敬の念を強めた。
しかし彼には、1つだけ心配があった。
「…でも、守護霊を使えない人が挑んだ所で、国害に勝てるわけ…」
「はは、ところがどっこい!そうでもないさ。最近は科学も進歩した。もう低級の国害を倒せるくらいの兵器なら、警察は持っているんだ。それに、いざとなれば俺が守護霊でお前たちを守る。お前も修羅も、まだ守護霊使いじゃないからな。守護霊は、次期に俺が教える。」
彼はそれを聞いて、まだ叔父に、自分が守護霊使いであることを伝えてないと言うことを思い出した。
しかしまあ、今のヤミギリはほとんど使い物にならない。下手に説明するよりも、勘違いさせておいた方がいいだろう。彼はそう感じて、その場では何も言わなかった。
それからしばらくして、彼らは、叔父のパトカーに乗り込んだ。今回呼び出された理由は、国害を狩ること。手柄を立てねば、政府は相手にしてくれない。
彼の後ろには、いくつものパトカーがついてくる。恐らく、彼が国害を狩るために集めた仲間だろう。
しかし、その中に1つ、列から外れた覆面パトカーがあった。中では、警察の制服を着た、緑髪の青年が一人で運転している。
「来た!父さん、またあいつだよ!」
「…あいつめ、また邪魔をするのか?くそ、おい!スピードを上げろ!」
逆流が無線で合図し、スピードを上げると、後ろのパトカーはそれについてくる。すると覆面パトカーは、その大通りから外れた。
「…彼は?」
「佐藤って奴だ。気をつけな。あいつは警帽を被った殺人鬼だ。立て篭り事件の犯人、銀行強盗…危険な犯罪者は、警告も無しに撃ち殺す。それだけじゃねえ。マフィアや詐欺集団のアジトにも単独で乗り込んで、殲滅して戻ってくる。できれば、敵には回したくないが、あいつ…バタフライを潰すために国害を狩るって俺たちが言ったら、国家反逆罪を許すわけにはいかないとか言って、俺たちを監視してるんだ。別にバタフライなんて、いないに越したことはねえってのによ!」
彼は、更にパトカーのスピードを上げる。他のパトカーも、それについてくる。
「…来たね。」
刹那たちが、国害の場所へ向かっているのと同じ時刻。小さな場所の小さな集落には、怒号が飛び交っていた。
サウス・メトロポリスに巣くっていた革命軍が、この集落に流れ込んできたのだ。彼らは、我々の革命には新たなアジトが必要であると言い、従わねばここは戦場と化すとまで言った。
戸惑う住民。しかし、彼らの前に、スーツ姿の少女が立ちはだかる。
「…そっか。君達が噂に聞く革命軍。革命って、良い人達が貧しい人達の為に戦うってイメージなんだけどなぁ。」
「なんだメスガキ!俺たちが正義だ、それに逆らう奴は、みんなバタフライの手先!リーダーがそう言っていた!さあ、集落を寄越しな!大丈夫だ。俺たちの優位ある革命軍のために、少し借りるだけだ!」
少女はそれを聞くと、くだらないと、革命軍に唾を吐いた。革命軍はそれに気付き、逆らうなら、お前もバタフライかと怒号を放ち、彼らは武器を構えた。住民はそれに怯え、彼女に、もう良いからと弱く話しかける。
しかし、彼女は後ろに下がらない。むしろ彼女は、大丈夫と言って、住民達に笑いかけた。
「…でも、奴らは武器を持ってる。話し合える相手じゃ…!?」
彼が少女に話しかけている最中、少女は、その異常な脚力を使って、革命軍の真上まで飛んだ。
慌てる革命軍。一人が撃てと言い放つと、他の革命軍はそれに続き、銃を連射した。しかし、彼女には1つも当たらない。
「ダメだよ。なんだ、革命軍なのに、かっこ悪ーい。私憧れてたのになぁ。そういう革命とかする人って、強く優しくって人達ばかりだと思ってたんだけどなぁ。」
彼女の煽りに、革命軍は憤慨し、持ってる武器を振るい、彼女を殺しにかかる。しかし、彼女には全く当たらない。
とても、スーツを着た少女とは思えない速さ。
「くそ……この!」
「ほらほら、当たらないよ?痛くも痒くもない。都会のもやしっ子は弱いなあ。いくよ!守護霊、鐘呼龍カオス・アイ!」
彼女が両腕を合わせると、白い翼に黒い羽を抱いたドラゴンが、彼女を包むように出現した。龍は咆哮をあげ、革命軍達に光線を放つ。
「出た!あの化け物!」
「守護霊か、やはりバタフライの手先!喰らえメスガキ!」
威勢だけは良いものの、革命軍達の攻撃は、まるで彼女に届かず、ドラゴンが放つレーザーによって全てかき消される。
そして、ドラゴンが再び咆哮をあげる。革命軍達はくじけずに攻撃を続けるが、ドラゴンの硬い鱗には傷一つつかない。
「行くよ、龍神様!魔界暗黒砲!」
ドラゴンは、彼女の掛け声と共に口を開け、息を吸い込む。今がチャンスと、革命軍達は口に銃を撃ち込むが、それがドラゴンの口まで届くことはない。
ドラゴンは息継ぎを終え、黒い闇の光線を放つ。すると、革命軍の半数がその光線にやられ、焼け死んだ。
残りの半数の革命軍は、それを見て怖気づき、サウス・メトロポリスへと逃げていった。
「おお、龍神様…ありがとうございます。」
住民達は、彼女のドラゴンに感謝し、手を合わせた。彼女もまた、ドラゴンに手を合わせる。ドラゴンは彼女達に笑いかえし、彼女の体内に消えた。
そう。ここは、龍信仰の雨森の里である。そして彼女もまた、その内の一人。
スーツ姿の少女。名前は雨森鈴。集落のために働き、また集落を守る仕事もしている雨森の人間。そして、雨森早月が6歳で別れた、彼女の親友だ。
「おお、鈴。ありがとうな。」
一人の老人が、彼女に近づき、彼女の頭を撫でる。彼女はその老人に笑顔を見せ、もう一人で大丈夫だよと言った。
「お爺ちゃん…早月、帰ってくるかな。どこかで死んだりしてないよね?」
「こら、縁起でもないことを言うでない。早月はきっと生きてる。きっとな…」