国害指定堕落都市   作:tesorus

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How to break?

雨雲を突破するには、ヤミギリが出す結界と、それに対応する「翼」が必要だ。

 

しかし、雨雲の中は暴風雨。ヘリコプターで近づこうにも、敵わない。

 

せめて、翼を広げて飛び立てるならばと思うが、そんな術をヤミギリが持つはずがない。しかも、そんな術があったとして、同時に術が使えるわけもない。

 

やはり、頼れるのは彼の頭の中。そして、バタフライ兵である雨森早月の、人並み外れた身体能力である。

 

「なあ…早月。お前の守護霊…龍神様だったか。空を飛ぶ技とか持ってないか?」

 

「持ってるよ。でも、雲の中は暴風雨だからね。振り落とされるかもよ?」

 

早月の返答を聞いて、彼は舌打ちをし、次の作戦を練った。早月の飛行で上昇し、彼がバリアで二人を守り、体当たりで破壊する。そんな方法は、早月でも思いついていた。と言うか、それが可能ならば、早月から申し出ているだろう。

 

それならば、どうするか。練っている間に、時間はどんどん過ぎていく。彼は早月に頼んで、自分を背負い、雲の周りの街を回ってもらうことにした。

 

何か見つかり、それが作戦に使えるかもしれない。そう思ってのことであった。

 

自分の足で走るより、彼女に運んでもらった方が早いだろう。彼なりに考えてのことであった。

 

「ふふ、せっちゃん。結構重いねぇ。」

 

「……うるせえ。」

 

「ふふ。幸せな証拠だよ。さ、しっかり掴まってて、ね!」

 

彼女は刹那を背負い、物凄い速さで走り出した。まるで、全力で漕いだ自転車に乗っているような感覚だ。風が身体全身にあたり、二人の髪をなびかせる。

 

不意に警告を出され、市民達は逃げ出したのだろう。まるで、生活のワンシーンで時が止まっているかのような風景だ。電気はつけっぱなし、洗濯物は干しっぱなし。中には、混乱に陥り、車が渋滞したままになっている場所もある。中に人が一人も居ないあたり、みんな警察に誘導され、そちらの車で逃げたのだろう。

 

巡り巡る風景の中、刹那は一つの物体に視点を向けた。風が激しい街中に、ポツンと置いてある、小型の飛行機。

 

「悪い早月、ちょっと止まってくれ!」

 

「了解!」

 

早月は、速度を下げ、その場で静止した。本当にこいつは人間なのかと一瞬疑うが、彼にそんな時間は残されていない。早くしなければ、警察達がどんどん雲に突っ込み、大量の死者が出る。

 

彼はすぐに、その小型飛行機にかけより、その構造を研究し始めた。

 

「……あ〜。まあね、そりゃあ…うん。でもさ、それじゃあ…」

 

「いや、違う!そうじゃない!」

 

刹那は、早月の制止を振り切り、飛行機をいじりだした。この機械のことならば、知っている。恐らく、スカイダイビングなどを楽しむ際に、落下死を避けるために用いられるアレだ。

 

最近開発されたこの飛行機。背中に背負うことで、低速ではあるが、自力で空を飛ぶこともできる。結構な値段はするが、それだけの性能がする優れものだ。

 

「なあ、早月!お前の空を飛ぶ技、大量のオーラをつぎ込めば、雲の中で落ちないだけの威力が出せるか?」

 

「…え?ああ、多分。やったことないけど…ああ、そういうことね。良いよ、やってみるよ。」

 

刹那がそれを考えついたのは、彼女の即死級のシーンを見たからだ。恐らく、オーラをつぎ込めば、技を強化できる。だがその分、身体への負担が強くなる。

 

それならば、もし多量のオーラを使い、飛行能力を強化したら、台風並みの風から身を守り、上昇できるのではないか。彼はそう考えたのだ。

 

しかし、常にそれを保つことはできない。そんなことをすれば、早月の方が先にばててしまう。

 

そこで用意したのが、あの飛行機だ。飛行機を使って、雲の下まで急接近し、そこで早月の力を使えば、早月がバテる前に、雲の中心までたどり着くことができる。

 

もちろん、クラウドバンパイヤの核がどこにあるなど、刹那は知らない。が、何となく予想はついている。

 

見ると、中心が最も強く、そこから遠ざかるに連れて霧が減っている。恐らく、核を傷つけないために、クラウドバンパイヤ自身の自我で覆っているのだろう。

 

飛行機は、多少壊れてはいるものの、問題なく動いた。刹那と早月は顔を合わせ、笑いあった。

 

飛行機を早月に背負わせ、刹那自身は早月に抱いてもらい、血を吸われぬように、ヤミギリの赤いバリアを張る。これならば、確実に核を破壊することもできる。

 

今度は、刹那が早月に、大丈夫かと声をかける。早月はそれに嬉しそうに笑い、誰だと思っているの?と刹那に返した。

 

チャンスは一度きり。これができなければ、もうダメかもしれない。そう思うと、刹那の胸の内の鼓動が早まる。早月はそれを察し、大丈夫だよと、抱きながら彼の腹を撫でる。

 

「頼むヤミギリ、黒蚕の死封結界!……行くぜ!」

 

「うん!」

 

もう刹那は、早月が、憎きバタフライの手先であることなど忘れていた。ただ一つの目的に向かい、心を一つにする。そのことだけを考えていた。

 

飛行機のエンジンを起動すると、飛行機は唸りを上げ、目的の場所へ発進した。街の中をすり抜け、霧の中を進む。

 

霧の中には、何人もの人が、ミイラのようになって倒れていた。クラウドバンパイヤに血を吸われたのであろう。その中には、先ほどヘリコプターで突撃した警察官達の無様な姿もあった。

 

ヘリコプターが墜落し、それによって火事が起き、深い霧で消化されたのだろうか。人や街の中には、死臭と混じり、少しばかり焦げ臭い匂いが漂っていた。

 

早月は、目の前の光景に対して目を背ける刹那に、もし、これから先もこんなことを続けるのならば、こんな光景は見慣れておけと囁いた。

 

早月は、この歳で、そんなものは見慣れていた。バタフライで徴兵されたのだから、当たり前と言えば、当たり前かもしれないが、それでも彼は、そんなことを言う彼女が信じられなかった。

 

雲に急接近し、周りが何も見えなくなる。早月の言う通り、雲の中には暴風が吹いていた。それに加え、ヘリコプターの残骸も混じり、気を失えば間違えなく死ぬような状態になる。

 

早月に抱かれてはいても、彼を連れ去らんとする暴風は、その強さを増し、彼は半分パニック状態に陥りそうになる。

 

ヘリコプターの残骸が、早月の背負っている飛行機を突く。飛行機は壊れ、僅かばかりの電流を流して壊れる。

 

「さて、そろそろだね。」

 

こんな状況でも、早月は平気な顔をして、早月を片手ずつ持ちながら、飛行機を背中から降ろす。

 

刹那は身体をバサバサ揺さぶられ、目の前の感覚に、恐怖におののく。

 

「ああああああ!お…落ちる!」

 

「もう、せっちゃんったら怖がりだね!私達はこんなの日常茶飯事だから、大丈夫だよ!さて…行くよ!」

 

早月は刹那を抱き直し、昇天!と叫ぶ。

 

早月の背中から、白いドラゴンの翼が生える。普通は、昇天による羽根は二本しかないのだが、強化を施しているせいか、羽根が六本も生えている。

 

早月は、もう意識があまりない刹那を連れ、赤いクラウドバンパイヤの中心まで近寄る。

 

そして、雲やヘリコプターの残骸を掻き分け、ついにクラウドバンパイヤは、その赤い核を、彼女達の前に露わにした。その核は心臓のような動きをし、中には吸い込んだ血を大量に含み、水風船のようになっている。

 

「ふう…えいっ!」

 

早月と刹那が体当たりすると、結界が核に触れ、核からは大量の血が吹き出た。高温のバリアに触れた血は蒸発し、雲の中は血の匂いで溢れる。

 

早月達を囲っていた厚い雲は消え、空には青く澄んだ大気が姿を表す。下には血の雨が降るが、空は薄い雲が残っているだけで、早月達を包むものは、暗い雲の代わりに、太陽の眩しい光となっていた。

 

「……終わった。」

 

早月は、太陽に照らされ、六本の翼はその強さを失っていく。

 

ここで早月は、疲れが身に満ちる中、一つの疑問を抱く。

 

「…あれ、せっちゃん。これって、どうやって降りるの?」

 

刹那からの返答はない。バリアも、刹那の意識の消失と共に切れ、二人は真っ逆さまに落ちていく。

 

「ねえ、せっちゃん。何だか…あの時と同じだね。ほら、あのサウザンド・リーフの時のさ…」

 

刹那からの返答はない。早月の意識も、空気が薄いせいか、どんどん薄れていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……刹那ぁぁぁぁ!」

 

その言葉に、刹那と早月は目を覚ました。いつも聞いている、あの声。その言葉の直後、二人はその声の主の両腕に抱かれた。

 

二人の目の前には、紫色の髪をした、パーカーの少年がいた。彼は赤い翼を広げ、空中を飛んでいた。

 

「……ラビット?」

 

「刹那!それとお前…名前忘れた!一階の野郎!二人とも大丈夫か!なんだ…その…また一人でどっか行ったから、倍咲の所行ったかと思って…でも、あいつに聞いたら、クラウドバンパイヤが居るから、そこに行ったんじゃないかって…その…」

 

「ねえラビット…」

 

「お、おう!何だ?」

 

「…寒いから、早く地上に…」

 

「………あ。」

 

刹那に言われ、ラビットは気づいた。ここは雲があるような場所。ヤミギリの力で何とかはなっていても、やはり温度が低く、身体中氷漬けになっているような感覚だ。

 

ラビットはそれを聞き、すぐに二人を連れ、地上へと急降下した。早月はラビットに、このことと、インスタントラーメンの借りはいつか返しますね、と笑った。ラビットは、そうだな、と溜息をついた。

 

そして刹那は、そんな中で、悪い虫の知らせのような何かを感じていた。何か、大切なものを失ったような感覚。

 

何故だろう。早月は隣にいて、ラビットも居る。その時の刹那には、一体誰のことか、思い出せなかった。




アホの子ラビット。そういえば、この三人が揃ったのは初めてかも?
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