国害指定堕落都市   作:tesorus

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蝶に食われた森林の葉

刹那の住んでいた、サウス・メトロポリスの外れからバスに乗り、数十分眠り、目を覚ますと、美味しい空気を風が運ぶ、田舎町サウザンド・リーフにたどり着く。ラビットは普段、この場所を拠点とし、国害について調べている。

 

結局刹那は、ラビットについて行くことに決めた。彼の住んでいた街はブラック・スライムによって半壊し、彼を育ててくれた叔母は行方知れずとなった。

 

恐らく死んだか、どこかに避難しているかだろう。後者ならば良いのだが、それでも、彼の住んでいた場所が、もう住めるような場所ではないことは確かだ。彼は部屋から、スマートフォンだけを持ち、ラビットとバスへ乗った。

 

サウザンド・リーフは、サウス・メトロポリスとは違い、自然豊かで、ビルなども少ない。ここならば、バタフライなどにも目を付けられずに、快適に物事を進められると言う訳だ。

 

刹那はバスを降りると、今までに感じたことのない空気に触れた。今の季節は夏だが、メトロポリスほど暑くもなく、ヒグラシが儚い音を奏で、遠くには山が連なる。

 

こんな光景を、刹那は感じたことはなかった。刹那はしばらく目を閉じ、深呼吸をした。

 

「…何してるんだ。」

 

「え?いや、空気が美味しいなあってさ…」

 

「ふん。ここもいずれ、国害や蝶に荒らされ、二度とこんな場所には戻らなくなるかもしれないからな。それなら、思う存分堪能するが良い。」

 

ラビットは、物悲しげな顔をし、刹那に向かって、彼に聞こえるか聞こえないかの声でそう呟き、バス停を背に歩き出した。刹那は、ラビットがバス停を後にするのを見て、慌ててそれについていった。

 

「なあ、そんなことよりさ。さっきのあの兎、どこに隠してるんだよ?魔法か何かか?それとも、超能力か?俺の足も、バキバキに折られてたのに、もう何ともないし…」

 

「…後で説明する。良いから、早くついて来い。」

 

刹那は、言われた通りに、山奥の、道無き道を歩くラビットの後についた。歩道から外れ、林の中の悪路を通り、天然の洞窟を抜け、川沿いを歩く。そうしている内に、夜は明け、日が昇ってきた。

 

その後、歩くこと数十分。ラビットは、一つの廃工場の前で足を止めた。

 

「…ここが、お前の住処か?」

 

「ああ。俺が昔、バタフライと手を切ったばかりの頃は、もっと、国害を狩る仲間が住んでいた。自分の土地くらい自分で守ると、サウザンド・リーフの人間だけで結成したグループに、俺も入れてもらっていた。」

 

「そうなのか…じゃあ仲間は、まだ中で寝てるのか?」

 

「仲間は八人居た。全員、守護霊使いだった。だが、内四人は、蝶に殺された。俺が奴らと手を切ったことを、奴らはバタフライへの冒涜と言い、目の前に、同じ標的である国害が居るにも関わらず、その冒涜者である俺の仲間として、その場で処刑した。残った四人中二人は、蝶に捕まり、警察に引き渡され、拘置所に終身投獄。もう二人は、アジトに目を付けられたから、ここにはいられないと言って、拠点を別に移した。二人とは、今も連絡ができるが、死んだり捕まったりした仲間の話になると、すぐ喧嘩になる。」

 

「……。」

 

刹那は、衝撃を受けた。それと同時に、バタフライと対することは、どのようなことかを理解した。バタフライを敵に回せば、世界の全てを敵に回すことになる。そう思うと、刹那の右目に、涙が沸いた。

 

「まあつまり、あれだ。バタフライと戦うには、守護霊の使いにならねば、まともに戦うことすらできない。そういうことだ。バタフライだけではない。国害も、守護霊抜きで戦えるものは、ごく数パーミンにすぎない。この程度で怯えるようなら、すぐに死ぬぞ。」

 

ラビットはそう言って、彼の住処である廃工場へと刹那を案内した。

 

中へ入ると、デスクトップのパソコンが、何台も机の上に置いてあり、床には、剣や銃など、いくつもの武器が置いてあった。

 

これを使って、ラビットの仲間は、蝶や国害と戦っていたのだろうか。刹那はその光景を見ると、心がズキズキと痛むような感触を覚えた。

 

「やめろ。俺の仲間は、そんな風に消えていった訳じゃない。それに、その武器は、全て俺の物だ。俺やフォレスト・フォースの能力は、武器を用いらないと発動しない能力が存在する。それに使っていただけだ。」

 

彼は刹那にそう話した後で、フォレスト・フォースとは、この廃工場に居た、仲間達のチーム名だ。と付け加えた。

 

「そうか、守護霊の説明がまだだったな。守護霊とは、自分の心中の、希望や欲望を食って育ち、代わりに、自分を絶望や苦しみから守る、生命エネルギーでできた生き物だ。」

 

「え、エネルギーでできた生き物?」

 

「ああ。よく、絶対のピンチに居る時ほど、頭がよく回ったり、絶望のどん底に居る時ほど、何か希望にすがりたくなるだろ?それが、体内の守護霊が、精神的なダメージから身体を守っている証拠だ。それと、昔は狂おしいほどに欲しかった物だったのに、今となっては全く欲しくなくなってたりもするだろ?それは、守護霊が欲望を食っている証拠だ。」

 

ラビットは空いている椅子を三つ見つけ、一つを刹那に渡した。その後、ラビットは、本棚の資料に埋もれたコーヒーメーカーを取り出し、パソコンの隣にあった冷蔵庫からペットボトルを取り出し、ペットボトルの中の水をコーヒーメーカーに入れた。その後、パソコンのキーボードの上に山積みになった袋を開け、中の挽いたコーヒー豆を入れ、コンセントを電源に刺し、コーヒーを淹れだした。

 

「…それは、守護霊とどんな関係があるんだ?」

 

「いや、ない。俺が飲みたかっただけだ。」

 

「……。」

 

「守護霊は、誰もに宿っているが、それを使って攻撃をすることは、容易ではない。長い鍛錬と、守護霊と心を通わすことが必要だ。」

 

「…そんなことは、分かってる。と言うか、昨日のお前を見てればわかる。一朝一夕にはできないってことも。だから、もっと具体的に…具体的に教えてくれないか?何をして、何を成せば良いか…」

 

早くラビットの強さの秘密を知り、自分の物にしたい。刹那はその一心で、ラビットにかじりついた。ラビットも、刹那の思いが届いたのか、溜息をつき、守護霊について再び話し始めた。

 

「守護霊と力を共有できるようにする方法は、二つある。一つは、その気になれば、数日で共有できるようになる。だが、その守護霊は脆く、国害を倒せるだけの力は出せるかわからない。まあその後、もう一つのやり方で守護霊を育てれば、守護霊は強くなるがな。そしてもう一つは、完成までに数年かかるが、格段に強い守護霊ができる。さあ、お前はどっちにする?」

 

「…お前は、どっちで取得した?」

 

「俺は後者。だが、フォレスト・フォースの仲間は、皆前者だ。即戦力になりたいからってな。だが、死んだ二人と、囚われた四人は、その後に何もしなかった。だが、後の二人は、その後、もう一つの方法で守護霊を強くした。」

 

刹那は、何となく、ラビットが、選択の余地など無い。と遠回しに言っているような気がした。ここから先、生きていくには、意地でも、守護霊を呼び出さなくてはならない。後で育てることもできる。ラビットが生き残った二人を例に出したのは、恐らくそういうことだろう。

 

「早くて、脆い方を頼む。育てれば、後者のやり方でやるのと、同じだけの強さになるんだろ?」

 

「…まあ、お前なら、そういうと思ったよ。わかった。ついてこい。」

 

ラビットは、刹那を工場の奥まで案内した、工場の奥につくと、ラビットは冷蔵庫から、緑色の宝石のようなものを取り出した。

 

「欲望増幅石。こいつを守護霊使いの人間以外が持つと、身体中のあらゆる欲望が、増幅し、暴走する。お前はその欲望を何としても抑えろ。そうすれば、ありったけの欲望を守護霊は食い、育ち、体外に漏れた欲望を食うために、守護霊が出てくる。守護霊が体外に出たら、欲望は収まる。」

 

「…わかった。」

 

ラビットは、刹那に石を投げた。石を受け取ると、刹那の身体の中から、何かが湧き上がってきた。刹那は次の瞬間、心が苦しみ、ズキズキ痛むような感覚を覚えた。何かを欲しているような、何かが足りないような、そんな感じがしてならない。

 

しばらくすると、心の中から、あらゆる欲望が抜けた。先ほどまで、あれだけあった欲望を、身体の中に感じない。

 

しかし、ラビットの言う、守護霊が見当たらない。彼の言う通りならば、もう既に守護霊が出ているのだが。

 

「ラビット、守護霊…まったく出てこないんだが。」

 

ラビットはそれを聞くと、刹那のすぐ下を指さした。そこには、靴の大きさくらいの芋虫が一匹、眠っていた。

 

刹那はそれを見て、愕然とした。脆いとは聞いていたが、まさかここまでとは。刹那は、勝手に自分の守護霊はドラゴンやペガサスなど、カッコいい生き物を妄想していただけあって、相当なショックを受けた。

 

「まあ、守護霊の姿は、そいつが産まれた時に決まるからな。別に数年かけて、守護霊を外に出す選択をしても、姿は変わらないぞ。ただ、出てくる守護霊の強さと好感度が変わるだけだ。強さは好感度に比例する。主との絆が強いほど、守護霊は成長し、強くなる。先ほどは、方法は二つあると言ったが、要は好感度上げを身体の中でやるか、外でやるか。それだけだ。」

 

「…つまり、この芋虫と仲良くしなきゃいけないってことか。」

 

刹那は、目の前の、黒い大きな芋虫を掴んだ。手の内には、毛虫特有のゾワっとする感触は無く、代わりに、巨大な饅頭を掴むような感触があった。毛虫は、まるで、出来たての饅頭のように熱かった。

 

「これはこれで、気持ち悪いな…」

 

そう呟くと、黒い芋虫は目を覚まし、刹那に糸を吹き付けた。その糸は、ただの糸ではなかった。ツルツルした独特の肌触りがあり、更には…

 

「熱っ!なんだこいつの糸!こいつ…この!」

 

火傷するほどの熱さであった。

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