青虫が狙う毒草には、力強い棘がある。
前回の失態から、今回の革命軍の行動は二人のリーダーに任され、彼らと川崎の三人が指令を出している。
しかし、彼らはバタフライとは違い、明確な身分区別などはつけていない。何より、革命軍の人間は皆それを嫌っているからだ。一人一人が自覚を持ち、行動する。彼らにとってリーダーなど、情報収集の掲示板でしかない。
その一人、名前はテライ・ハスループ。彼は守護霊を持たず、己の力のみで敵を討ち滅ぼす。守護霊使いではない革命軍の人間がほとんどを占めるのも、そのせいである。
そんなことで、守護霊を使うバタフライ兵に勝てるのか。答えはイエス。彼はその腕で、もう何人ものバタフライを仕留めてきた。しかし彼は優しい性格で、決して自らより弱い人間の命を奪うことはしない。彼は命を奪う人間は、相手が命懸けの戦闘を望む人間に限る。
「あなた…何故あなたのような人間が革命軍に居るの!?あなたはあんな連中に従っていて、屈辱はないの!?」
「…あまり人の考えに指図するのは、良き人間のすることとは思えないが。どうする?お前が望むのならば、お前が命を懸けるならば、こちらもそれだけの力を出そう。」
「ふん、上等よ!来て!守護霊、姫桜鳥!」
テライ・ハスループと対峙する少女兵。彼女の帯びる小鳥には桜のオーラが宿り、そこら中の樹木が小鳥にオーラを送る。
半袖のシャツに、緑色のベストを着た少女兵の身体が緑色に染まり、生身で受け止めれば即死なほどのオーラの光線を放つ。
しかし、男は微動だにしない。死にたいの?と言う少女兵に対し、男は受け身の構えを見せ、オーラに突っ込む。
彼の肉体をえぐる光線。男はその反撃を生身で受け止める。その一撃に肉体は焦げ、血が噴き出す。
「嘘でしょ…?」
次々と注がれる光線。男は生身で受け止めようが、悲鳴一つあげない。光線の力は徐々にその力を弱め、ついに燃料切れになった。
守護霊による攻撃、それが効かないと気づいた少女は迫り来るテライを前にして、汗を流して殺さないでと命乞いをする。
すると彼はそれを受け入れ、弱き者を殺めることは意志に反すると帰って行った。
その後彼女は、この男のことを知らせるために、バタフライのキャンプに戻って行く。彼は追い打ちなどはせず、それを静かに背中で見送る。
そして、そのことが早月達に知れ渡るのは翌日になる。彼女達はそれに加え、教官であるシェイプからさらなる任務を与えられた。それは、如何なることがあろうと、巣食う毒草を食い尽くせと言う内容であった。
早月はその指令を聞くと、当たり前だと呟き、中間服のブレザーと長袖のシャツを脱いでしまい、持ってきていた半袖のシャツとベストに着替えて任務の遂行にかかる。できれば自分の親戚に出来るだけバレないように、かつ速やかに彼らの始末をしたいのが早月の率直な意見である。
しかし、刹那やイザナミはそれを知らない。彼らは翌朝、ついにそのバタフライの兵士達と遭遇する。
「さて、あなた達がうちの近所を荒らしてることは知ってるわ。さっさと帰るか、血だらけで伏すか、どっちが良い?」
兵士達と対峙する、刹那、イザナミ、鈴。鈴は彼らに対して喧嘩を売るが、彼らは微動だにしない。代わりに彼らは、緑、赤、白のオーラを纏い、お前たちが革命軍について知っていることを吐けと命令し、吐かねば革命因子と見なして攻撃すると脅した。
「…それが、人に物を聞く態度?人の集落荒らして、命令して…やりたい放題だね。そう言う奴が一番ムカツくんだよ!鈴呼龍カオス・アイ!」
鈴の合図に、白黒の龍が地中から這い出す。龍は咆哮を上げ、バタフライの兵士達に敵意を表す。兵士達はそれに応じたかのようにオーラを放ち、三体の守護霊を出す。
「ふん、やはり革命軍と繋がりがあるか!現れろ、死足蜘蛛!」
「お前達の都合など関係ない、我々は我々の任務を遂行するまで!姫桜鳥!」
「バタフライの力を思い知れ!毒蛾ブラウン・ポイズン!」
互いに互いを威嚇し合う、三体の守護霊。鈴の守護霊は確かに強いが、3対1では分が悪い。このままでは、鈴が破れてしまう。数秒後に刹那は覚悟し、自分もこの睨み合いに参加し、バタフライ兵を止めることを決めた。しかし、イザナミは彼とは全く感情を抱いていた。
「…おい、どうしたんだイザナミ!お前も一緒に…」
「…ごめんなさい。」
「えっ?」
イザナミは刹那の肩を叩き、バタフライの兵士達の方へ歩いていく。そして彼女は途中で振り返り、鈴と刹那の前に立ちはだかる。
意味が解らないと言った刹那に対し、鈴はその意味を即座に理解し、彼女に裏切るの、と敵意を向ける。
そして、イザナミはその言葉に反応したかのように紫色のオーラを放つ。
「…意志によって姿を変える兎、双尾之白兎!八岐大蛇の姿!」
イザナミの身体から、双尾之白兎が姿を現す。その兎は刹那に敵意を向け、その色を黒く染める。黒い狂気は辺り一面を覆いつくし、背を見ているバタフライ兵すらも震え上がらせる。
彼女の身体からは、無限の悪意と憎悪が広がる。今彼女が彼らを攻撃すれば、ひとたまりも無いだろう。しかし、彼女が刹那達を裏切り、完膚なきまで、と言う訳ではなさそうだ。彼女は鈴に歩み寄り、バタフライ兵を攻撃するのならば容赦しないと話す。
「人を傷つけたく無い性はイザナギも一緒なはずです。彼がバタフライから離反していることは何となく解ります。私がここに居て、こんな服を着ていることがその証拠。でも彼は革命なんて柄ではありません。あの人の皮を被ったゲテモノに入るくらいならば、毒蝶であるほうが彼はマシなはずです。」
「ふうん、裏切るんじゃないの。裏切ってくれた方が私は殺りやすいけど。じゃあ、どうすればいいの?」
「まあまあ、落ち着いてください。あなたがその手でゲテモノを始末したのなら、すぐに第二軍は攻めてこないはずです。」
その目とオーラで落ち着いてくださいなどと言われても、説得力がない。刹那や他のバタフライ兵達はそんなことを思いながら、息を殺して彼女達を見守る。
ラビットの紫色のオーラと、鈴の白黒のオーラがぶつかり合い、既に見える形で二人の威圧が重なる。
「…でも、もう少ししたら攻め込んでくる。だからこうやって、政府の犬も来てるんでしょ?」
「はい。だから大事になる前に、革命軍を撃退します。革命軍が居なくなれば、バタフライの兵隊も退散するはずです。」
あなた達も、それで文句はないでしょうとイザナミはバタフライの兵隊に目配せする。兵隊三人はオーラを消し、その中の紅一点はそれに応じるように、首を縦に振る。
「……ね?」
イザナミは鈴に優しく微笑み、彼女を諌めようとする。鈴も彼女には敵わないと察してからか、彼女の要求を飲む。
刹那は、彼女の話を聞いてイザナミの目的を察し、やはり彼女は自分達を捨てたりはしないのだと安心した。なんとなくだが、春雨の湿った匂いを彼はどこかから感じたような気がした。
この街を守り、革命軍とバタフライとの因縁を止めたい。さもなくば、真に戦う敵を前にしたとき、取り返しのつかないことになる。今の彼には、死した叔父の言葉がしっかりと焼き付いている。