国害指定堕落都市   作:tesorus

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閉幕
亡き主人公


国害を討伐すべく、国の機密の元に作られた討伐隊「バタフライ」。表向きは志願者を募った現代版のギルドであるが、その裏側では咎人の末裔を拉致してはリアガードを肥やしている。

 

もちろん、その裏側を突き止める人間がいないはずもなく、国の厳しい監視下からも抜け出すような一部のメディアは真相にたどり着きつつあった。しかし、そのメディアは国どころか世界全ての人間がタブーとして闇に葬ったとする闇すらもバタフライに握られていることを知らない。

 

もし、世界の果てなどというものが実在するのならば。「国害」ブラック・スライムがもし、こちらの世界の干渉を介さない存在であったのならば。

 

「…ふふ、そうだ。ブラック・スライム。奴はこちらの世界の生き物ではない。あちらの世界の生き物でもない。奴は「魔物」なのだ。」

 

「なるほど。そのブラック・スライムによって国害指定堕落都市に送り込む人間の選抜。だからお前は雨森早月を我々に引き込み、奴らが落としやすいようにしたのか。ブラック・スライムが神龍であるリディとシグナルガを生かす訳などないとな。」

 

一介の教師ごときが、リバースなどに勝てる訳などない。しかし、これで良い。リペアは心中でそんなことを考えていた。まるでRPGの終盤に位置するような黒一面の研究施設。その施設の一箇所が割れ、中からは凶々しいオーラが満ち溢れる。

 

これがリペアの言う「国害指定堕落都市」の入り口か、あるいは新訳聖書で言うところの「最後の審判」の裁きを待つ場所か。

 

「さて、スイッチを入れればあなたは堕落都市へ真っ逆さま。遥か昔に静かな死を迎えたヘヴンズシューターのように、朽ちていくのですよ。」

 

暗く静まり返る暗室で、リペアは手探りの状態で赤いボタンを押した。まるで悪役が追い込まれた挙句に押す自爆スイッチのようなボタンの正体は、堕落都市へ強制追放を行うボタン。リバースの身体は穴に、まるで掃除機のように吸い込まれていく。

 

こんなもので、本当に自分が堕落都市に落ちるものか。それに、吸引力を強めればリペア自身も堕落都市へと追放されるだろう。頭のキレるリペアがそこまでの失態をするはずがない。彼女は既に勝利を確信していた。

 

しかし、彼はとうに自身の命など捨てていた。人類の発展を前にして、命乞いをすることなどおこがましい。

 

彼は止めるどころか、吸引度を更に強くして死への階段を駆け上がる。黒く塗りつぶされたような研究施設のタイルのいくつかは剥がれ、堕落都市へと吸い込まれていく。

 

黒いタイルが剥がされた先、それもまた堕落都市へと繋がる穴となる。リペアの作る堕落都市の穴。それはこの研究施設そのものであったのだ。リペアはもはや話す必要などないと、まるでクリスマスプレゼントを貰った子供のように笑いながらリバースへ飛び込み、彼女を堕落都市へ引きずり込もうとする。

 

「くそ、オーディン!全てを薙ぎ払え、スレイプニールの愛子!」

 

オーラから現れる光の馬がリペアをなぎ払い、彼は堕落都市への穴のすぐ側まで押し返される。まるで掃除機のようなその穴は今にリペアを喰らおうとする。

 

「…もういいでしょう。」

 

まだだ、まだ終わらない。自分だけが落ちてしまってはリバースによってこの事実がバタフライに知れ渡ることになる。ならばせめてリバースと共に自分も消え、有権者が二人も消えたバタフライ崩壊へのカウントダウンを早めることこそが先決だ。

 

二人の脱走者、力を持った反逆者。蝶の鱗粉を嗅ぎつけつつあるメディア。国害の人間への恨みはついに満ち溢れるだろう。

 

今こいつを道連れにすれば、全て成功する。善人だけの、明るい世界が誕生する。そうリペアが確信したその時であった。バタフライならばほとんどの人が知っている、一人の少女。女神の名を持つその人が野望を断つ為に彼の抗う手を跳ね除ける。

 

「なるほど、現世に地獄を作ろうとしたのですね。リペア先生。」

 

紫色の髪を持つ、一人の少女。リペアは光輝く彼女から遠ざかるように離れ、ついに人差し指一つ話せば堕落都市へ真っ逆さまという状況になった。

 

「というか、あなたに教えてもらったのですから。あなたは私に…いや、イザナギに教えたのでしょう?私の…私達の仲間が仲間割れをすることも。」

 

イザナギの仲間における裏切り。それはイザナギとリペアにおいて仕組まれたことであったのだ。というか、複数人であり、またバタフライに反するものであれば誰でも良かったのだ。

 

イザナギは彼の指示通りに動き、少年である刹那を救い、彼にその話をしたところまでがリペアの思惑であった。

 

彼は「主人公」を作りたかったのだ。彼の思惑通りに動き、蝶を憎み、結果として蝶を追い込んで堕落都市へと落としていく正義の主人公が。

 

しかし、そう上手くはいかなかった。龍の因子を持つ兵隊。「悪」として立ちはだかる予定であった彼女が「ヒロイン」となったことで全てが狂い出した。度重なる蝶との衝突において、全てが予想外。

 

リペアは狂いかけていた。ヒロインと化した一兵卒。もはやラスボスとして仕立て上げる為に育てたガルムなど何の役にも立たない。

 

しかし、風がリペアに吹いていなかった訳でもない。闇切輪廻、彼女の私怨による父親の惨殺はリペアにも予想外の好機であった。あの時、刹那が早月のことを憎んでいれば、あるいは…

 

いや、もはや「この場にいない誰か」がそれを望まぬ時点で可能性などない。

 

「だから私はイザナギを嫌った。でも良かった。彼のことを信じていて。」

 

「…お前は私の考えに同調したのではないのか。悪役を…バタフライを憎むことに賛同していたのではないのか?」

 

「ふふ、ですから…」

 

「お前さ、もう正義だの悪だのでカッコつけるのやめたらどうだ?」

 

ラビットがリペアの指を離し、あと少しで堕落都市で一人彷徨うことになるその刹那、その名を持つ彼はバタフライの地下へと下る階段の前にいた。

 

本当にこんなもので騙せるんだな。語る彼の服装はバタフライの女子制服。多少女顔を持つ彼においては、服装だけでは男女の判断など大してつかないだろう。

 

もうここまでお前の計画は失敗していると話す刹那の言葉の意味は明らかだろう。本当に蝶を憎む人間が、バタフライの制服など着るわけがない。

 

「お前、正義とか悪とか言いすぎなんだよ。人がいて、その相手としてまた別の人がいる。それだけだろ。優等生が。」

 

「…黙れ失敗作が。どちらにせよ、ここにいる人間が皆破滅することに変わりはない!」

 

「あっそ。悪いが俺は主人公になる気なんて更々ない。光と闇をぐるぐる迷い、果てに何もできずにもがき苦しむ主人公なんて情け無さすぎるだろ。」

 

だからこうしてやるんだ。刹那はイザナミのリペアを掴む腕を蹴り飛ばし、彼を穴に蹴り落とした。




新編ってか余計な付け足し。割と急展開すぎる感しますが次で終わりです。
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