やり遂げた。というより、急に彼が現れてリペアを追放したという訳ではないようだ。
彼も勿論、先程イザナミが言ったようなことを知るよしもない。リペアの潜む場所がどこであるかさえも知らない彼を導いた巫女の存在のおかげだろう。
「イザナミの消息が知りたいようですね。」
あのあと、イザナミは突然姿を消した。サウザンド・リーフの彼のアジトにもいなければ、ディヴ・リバーにも足を運ばない。
サウス・メトロポリスは用もなく近づくことはできないし、現場における調査を進めているバタフライ兵に聞いても期待通りの回答は返ってこなかった。
まさか、その勘を信じて湖神社へと足を運んだことは正解だったようだ。彼女は狐の仮面を被り、彼にお久しぶりですねと言って彼を驚かせた。
彼女は知っていることを全て話した。この世界と別の二つの世界のこと。そして新しくできつつあるとされる地獄のことも。
無論これらのことは彼女の知識ではない。神龍リディの遣いによる神託によるものである。リディは本能的にブラック・スライムの力の肥大化や国害の変化を察し、彼らの好む理想郷が出来上がることを知ったのだろう。
リディが、龍が彼をそこまで導いた。それだけの話だろう。しかし、バタフライの闇を知ったところで刹那がバタフライに入れる訳もない。あの場所は監視も多重に為されており、素海による脱獄が困難を極めたことから解るように、その逆もまた困難を極める。
しかし、ここで役に立つ人間こそ、彼を愛してやまない兵の存在だろう。
「あ、さてはせっちゃん困ってるんでしょ?バタフライに入りたくてーそれで制服でも着るかバタフライの校章でもあれば入れるのにーって。」
「…何でそれが解ったんだ。」
「えー?そんなの私がストーカーしてるからに決まってるじゃん?後ろ見てみ?」
早月は案外近くにいた。いつも頭を悩ませる彼女だが、今回の彼女は非常に彼の窮地を救うために有効であった。
しかし、彼女はタダでは貸さないとダダをこね、代わりに彼の服を貸してほしいと言いだした。
たしかに、このままでは彼女は全裸になってしまう。だが、悪い気もするがそんなものは一度彼女がバタフライまで戻ってもう一着持ってくればいい話ではないだろうか。
それに対した彼女の返答は案外単純で、面倒だからの一点張りだった。
彼は仕方なくそれを受け入れ、彼女と服を取り替えた。ただし、これだけだと彼女がバタフライに入れなくなるので、校章だけは彼女に返した。
ここまでが、先程の一連の出来事の裏側である。しかし、本当に彼女は面倒だからの一点張りで服を借りるだろうか。
そもそも彼をストーカーするほどに暇ならば、いっそ取りに帰った方が相手の好感を得られるのではないか。
その答えとして、この全く思考回路が読めない天然な彼女に一つの意図を見出すのならば、リペアが踏んだアクセルを取り外し、もう車が二度と動かぬように「リペア」すると言った比喩が正しいのかもしれない。
かつてその国一の山と呼ばれた火山の下には樹海が広がり、樹海には天然の落とし穴がある。そしてその穴に群がり、死者の血を飲もうとする蝶が数十匹。
彼女らは誰かの命令でその穴に封じ込めていた。それも蝶であることを意味する羽根を隠して。龍によって穴に落ちた魔物達は、再び穴に落とされたのである。
「ほら早月、こっちも終わったよ。」
「私じゃなくてロインさんに言ってよ。ロインさんやっぱりこういうこと厳しいよね。リペア先生が悪い奴嫌いだからってそいつらのこと、もうみんな殺しちゃうんだって。さて、そろそろお楽しみ…秋村素海ちゃん、人間シュレッダーと塩酸のプールがあるんだけど、どっちがいい?」
「……。」
「そっか、人間シュレッダーがいいのね。」
物語から視線が逸らされるその刹那、やはり彼は運が悪かったのだということが示されている。リペアの望んでいたこと、それは部下には非常にズレた解釈をされた上で永久に祀られることになる。
蝶の大衆が取り巻く中、早月に鎖で縛られて晒される少女。かつて反逆軍として活躍した少女の仲間などもうどこにもいない。
優しいヒロイン、そんな言葉が似合う人間など、所詮は他力本願であることが示されようとしていた。
(俺も早月ちゃんに人間シュレッダーされたい)