国害指定堕落都市   作:tesorus

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雨の少女

刹那が、守護霊を生み出してから数時間後。バタフライは、再び森林を食い荒らそうと、策を練っていた。

 

バタフライの、最も北に存在する、8号館。その4階、会議室には、バタフライの学生を取り仕切り、動かす、二人の教官と、その二人の指示通りに生徒を動かす、一人の生徒がいた。

 

「シェイプ・リペア教官。あのラビットと言う少年は、いかがいたしましょう。」

 

「ラビット…あの、我々に楯突く、品のない少年か。そういえば、昨日のブラック・スライム。あれも彼が処理したと聞く。あれでは、我々の面目が立たない。いかがかな。メタル・セリアル。ラビットと、彼の二人の仲間を、今のうちに始末するというのは。」

 

「素晴らしい。そうすれば、我々の面目も保たれ、世界は更にバタフライを評価するようになる。ならば早速、学生達を率いて、ラビットを始末しに出向きなさい。」

 

「はっ。メタル・セリアル教官。彼の二人の仲間は、いかがいたしましょう。」

 

「彼らは、現在はラビットと離れていると聞いた。もし、ラビットと共に居るようならば、その場で始末し、そうでなければ、後日に確保し、現地の警察に引き渡しなさい。期待していますよ。ガルム・セリアーヌ君。」

 

「はっ。勿体なきお言葉にございます。」

 

生徒長、ガルム・セリアーヌは、二人の教官に深々と礼をして、会議室を後にし、エレベーターに乗った。

 

彼は、その謙虚さや働きぶりから、生徒でありながらも、教官直属の人間となることを許された。彼は、それを誇りに思っており、教官の言うことならば、何でも聞く。

 

そんな彼に、刹那達が直接出会うのは、まだ、少し後の話になる。しかし、彼の下で動く生徒と出会う時は、すぐそこまで来ていた。

 

刹那は、守護霊と出会ってから二日たった日の夕方、その守護霊である芋虫を手なづける為、芋虫と、廃工場のすぐそばにある、川まで行った。

 

「ラビットは、守護霊と親しくならなきゃ、一体化ってのはできないって言ってたな。でも、こいつと仲良くなんて、できるのか?」

 

刹那は、試しに、芋虫の頭を撫でてみた。すると芋虫は、再び、熱の籠った糸を吐いた。今度は刹那に直撃せず、河原の石に当たった。石は湯気を出し、焼けたような音を出した。

 

「お前…糸吐くことしかできないのか?もっと、他に何かすることないのか?」

 

刹那が芋虫にそう話しかけると、芋虫は、今度は口から少量の火や、煙を噴いたり、身体を赤く光らせて、身体の温度を上げたりした。

 

「お前…人間の言葉、わかるのか?」

 

「そりゃあわかるよ。言葉だけじゃない。主の考えていること、今までに何を感じ、何を学んで生きてきたか。ってのも、全部お見通しだよ。」

 

刹那の背後から、そう答える声がした。振り向くと、黒いパーカーに、ズボン姿の少女が立っていた。

 

「君は誰?サウザンド・リーフの人?」

 

「いや、違うよ。私、雨森早月。この辺りで、自然観察してるんだ。君は?サウザンド・リーフの人?」

 

「いや…ちょっと用事で、ね。」

 

刹那がそう返すと、少女は、暇なら、少しお散歩しない?と言って、刹那の返答も聞かずに、川の下流へ刹那を連れ出した。

 

川の下流に近づくにつれ、風の勢いが強くなり、少女を覆っていたフードが外れ、少女は、その美しい表情を刹那に見せた。

 

少女は、水晶のように透き通った青い瞳に、茶髪の天然パーマで、肌は、触ると溶けてしまいそうな、優しい感触であった。刹那は、まるで春雨のように柔らかい彼女を、一回抱きしめてしまいたいとすら思った。

 

「君、名前は?」

 

「………。」

 

「ねえ、聞いてるの?名前は?」

 

少女、早月は、話を聞かずに照れている刹那の頬をつねった。刹那は痛がりながらも、我に返り、自分の名前を言った。

 

「ふうん。刹那って言うんだ。せっちゃんって呼んで良い?」

 

「なっ…俺、君とは初対面…だよね?」

 

「うん。でも何か、そっちの方が呼びやすい!じゃあ、せっちゃんって呼ぶね!」

 

「は!?何で、いきなりそんな…」

 

刹那が、早月に対して、驚いた様子で怒鳴ると、早月は指を口の前に立て、誰かにつけられている。ちょっと黙っていて、と刹那に忠告した。しかし、刹那が辺りを見回しても、誰も見当たらない。

 

刹那は、ただの勘違いではないのかと思い、彼女の忠告を無視し、日も暮れかけているので、そろそろ帰ろうと、来た道を戻ろうとした。

 

「せっちゃん、危ない!」

 

彼女がそう叫ぶのと時を同じくして、彼の前に、黒いオーラを放った青年が現れ、彼を殴りつけた。その衝撃に、刹那は後ろへ吹っ飛び、川の中に転落した。

 

川は浅く、刹那はすぐに起き上がることができた。刹那は、あまりもの速さに、何が起きたのか、まるで理解できなかった。しかし、一つだけ、理解することができた。

 

…守護霊使いの攻撃。同じく、守護霊を使えるようになった彼には、それが理解できた。

 

「なるほど、貴様も守護霊使いか。貴様が抱きかかえている、その芋虫がそれか。ならば、随分と貧弱で弱そうだな。一体化ができないと言うことは、それまでの使い手。」

 

刹那を殴った男は、刹那を数百メートル突き飛ばしたのにもかかわらず、既に彼のすぐそばにいた。刹那は、その男とは面識はないが、男が着ているブレザーの制服には、身に覚えがあった。

 

「お前…バタフライの人間か!」

 

「おっと、知っていたか。そうとも、俺はバタフライの実践部隊の生徒。俺たちは、今は一人のリーダーの元に従い、任務を全うしている。任務とは、反逆者、ラビットの仲間の殲滅。この場所、サウザンド・リーフには、ラビットとその仲間以外の守護霊使いは居ない。つまり、守護霊使いと言うことは…」

 

男が次の攻撃をしようとしたとき、早月が男と刹那の間に入った。男は攻撃をやめ、早月を睨んだ。

 

「ちょっと待ちなさいよ!何か、よくわからないけど、バタフライって、国の組織じゃないの?それが、何で罪も無い人間を…」

 

「なんだ小娘。お前も蝶に刃向かうか。」

 

「え?いや、そうじゃなくて…何て言うかさ…その…ほら!国際組織が、民間人を倒すって…その…」

 

「早月、そんなのは、ただの奴らの建前だ!奴らは…俺の家族を…」

 

刹那が、戸惑う早月にそう返すと、男は黒いオーラを再び纏った。男は、その言葉は、蝶への侮辱だと、そのようなことを言い放った。

 

「守護霊、リトル・タランチュラ。こいつの力を使えば、お前や小娘など俺の敵ではないことを教えてやる。喰らえ!」

 

彼がそう言い、早月と刹那を掴み、空中へ放り投げた。刹那は、守護霊を使えない早月の身を案じ、早月の手を掴んだ。しかし、男にその手を振り払われ、早月は男に、空中で胸ぐらをつかまれた。

 

「やめろ!早月を放せ!」

 

「ふん、放してやるよ!宵闇の猛毒蜘蛛!」

 

男は、早月を放り投げ、刹那にぶつけた。早月と刹那はそのまま黒いオーラでひっついた。二人分の重みで、落ちる速さはさらに増し、二人は川に落下し、黒いオーラは消えてなくなった。

 

刹那が、痛みに悶絶しかけていると、芋虫は、刹那を助けようとしているのか、刹那の傷口に高温の糸を吐いた。先ほどの糸とは違い、とても暖かく、絆創膏のように、傷口を覆った。

 

「痛え…おい芋虫、お前は…そうか、よかった、まあ、守護霊だもんな。大丈夫か早月、今病院に…連れていくから…!?」

 

刹那が、芋虫を抱きかかえながら、早月の身を案じると、早月から、青く、巨大な龍が飛び出し、宙を舞った。龍が咆哮を放つと、辺りは土砂降りの雨が降り、雷が鳴り、男はそれに驚き、地に降り、攻撃の手を止めた。

 

「なっ…何だ、この龍は…こいつの守護霊か!?いや、だがこいつの守護霊はここに…と言うことは、まさか、この小娘…守護霊使い!?」

 

「守護霊、雨雪龍レイン・アイ。雨や雪を降らし、仲間や領域を傷つける敵を殺める龍神。せっちゃんのこと傷つけるから、この龍神様、怒っちゃったんじゃない?」

 

早月は、まるで何もなかったかのように立ち上がり、怒り気味に、男にそう話しかけた。しかし、男は唖然とし、何一つ口に出さない。

 

「一体化、雨雪龍レイン・アイ!じゃあ、遊ぼっか。若い青年兵さん。」

 

「や、やめろ…わかった。俺が悪かった…俺も、好きでこんなことをやった訳じゃないんだ…蝶に街を滅ぼされて…従ったらこんな…」

 

男が早月に、自分の身の上を話し、ひたすら命乞いをすると、彼女は、彼を見てクスッと笑い、君、何か勘違いしてない?と言って、フード付きのパーカーを脱ぎ捨てた。

 

男と刹那は、彼女のパーカーを脱ぎ捨てた後の服装を見て驚愕した。恐らく、男と刹那の驚愕の理由は等しいだろう。しかし、刹那は男以上に、目の前の彼女の姿が、信じ難かった。

 

「早月…その姿…まさか、早月、お前も…バタフライの人間なのか?」

 

「え、ええ?うん、まあ、そうなんだよ。なんか、その…騙しててごめん。許して?」

 

バタフライの女子制服、それを着た早月は、騙すつもりはなかったと言わんばかりに、刹那の驚愕の声に困惑した。事実、彼女はバタフライの人間でありながら、彼が、蝶に恨みを持つ人間であることを知らない。

 

彼女は、刹那にとって蝶とは、世界の誇る組織であり、頼れる公共機関であり、今日襲われたのも、理不尽な勘違いであると思っている。彼が蝶に恨みを持っているなど、微塵にも思っていない。

 

そう、彼女は今も、彼を敵などと思っていない。悪い言い方をすると、眼中に無い。まあ、今の刹那には、彼女の心境など、知る由も無いが。

 

彼女は、再び、バタフライの男の方を向き、男を哀れみの目で見た。

 

「あーあ。そんなこと言ったら、上の人に何て言われるかなあ?最悪、独房行きかもねぇ。」

 

「く…だが!お前も、そのラビットの仲間を庇えば、同罪だぞ!」

 

「せっちゃんのこと?違うでしょ。だって、仲間は今、二人ともこの場所には居ないらしいよ?それに、あんな弱く無いでしょ。あいつらの守護霊。逆に、上の人に言ったら、君は無実の民間人を攻撃したのと、さっきの発言とで、死刑!なんちゃって。」

 

「ぐ…確かに、言われてみれば…」

 

「てな訳で、今から死刑を執行しまぁす!」




追記:誤字訂正しました。
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