国害指定堕落都市   作:tesorus

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今回は、少し会話多め、描写少なめかもしれません。


宗教家とドクター

「……あれ?」

 

風が気持ちいい夕方、刹那は一人、眼を覚ました。彼が寝ている間に、雨は過ぎ去ったらしい。

 

辺りを見回すと、障子が壁をしきり、床は畳で覆われ、線香の良い香りがする。

 

どうやら、彼は湖神社の社務所に居るらしいと言うことに気づいた。あの戦いで彼は傷つき、倒れ、巫女に運ばれたらしいと言う仮説を立て、ならば巫女に礼を言わねばと、彼は起き上がろうとした。

 

しかし、まだ先ほどの傷が痛み、起き上がろうとすれば激痛が伴う。これでは起き上がれない。

 

それでも、彼は腕を杖にし、布団から起き上がろうとした。やはり死ぬほどの痛みが伴い、思わず彼は悲鳴を上げた。すると、巫女はその悲鳴を聞いて駆けつけた。

 

「あっ、ダメですよ!まだ動いちゃ…」

 

巫女は、もう後ろに縛っていた髪は解いており、夕飯の支度をしているのか、割烹着に身を包んでいた。

 

巫女、湖真菜は、ラビットさんと言う方からの電話が鳴っていたので、起きたらお返ししますと受け答えさせていただきましたと言って、彼にスマートフォンを返した。

 

スマートフォンには、不在着信が7件も通知されていた。恐らく、彼女が出たのは8件目であろう。時刻は、いずれも同じ辺りの時刻を通知していた。

 

彼と交換した、トークアプリにも、彼を心配するような通知が何件も表示されていた。

 

刹那はこれを見て、ラビットが不具合によって、途中で離脱したことを思い出した。彼はあの後、無事、倍咲真菜の元にたどり着いたのだろうか。そんな心配が彼の脳内を過ぎった。

 

刹那は、彼女に言われた通り、彼に折り返し電話をした。

 

すると、数秒もしないうちに彼に繋がり、今どこにいるとか、何故今まで眠っていただとか、怪我は無事なのかとか、そんなことで質問攻めにされた。

 

刹那は、彼に落ち着けと諭したが、それでも彼は自分を諌められずにいた。

 

ラビットは、あといくらくらいでこちらに向かってくるかや、まだ蝶が飛んでいるかもしれないから、周りをよく見てから行動しろなど、彼の話を聞かずに同じことを繰り返した。

 

すると、見ていて不安になってきたのか、湖真菜は、刹那に対して、埒があかないから代わりましょうか、と言い、彼からケータイを拝借した。

 

「もしもし。お電話代わりました。先ほど連絡した、湖神社の者です。」

 

《あ、ああ…お前か。それは良いんだ。刹那はあといくらくらいでこちらに向かってくる。街の中にある、小さな研究所なんだ。それで…》

 

「ああ、悪魔の館ですか。知ってますよ。彼女には随分とご無沙汰ですから。貴方もまた、随分と嫌らしい友人をお持ちなのですね。」

 

《ああ…そうか。俺はよく知らないが、昔のよしみで付き合ってるだけだ。刹那に関しては、奴の少し特別な力を目覚めさせたんだ。あんたには信じられないとは思うが…》

 

「守護霊のことですね。それなら、心配要りません。私もそれの端くれです。よって、彼に、十分に戦えるだけのことは教えました。守護霊の一体化、攻撃、呼び出し。ざっとこんなものです。これでも、本当に彼を、あの悪魔に引き渡す必要がありますか。」

 

巫女とラビットのやり取りを見て、刹那は、やはり彼女と倍咲真菜の間には、得体の知れぬ何かがあると悟った。

 

ラビットは、自分は、彼が守護霊を使いこなせるようにしてくれたのなら礼を言うし、それならば、彼の傷が癒えたら、元のアジトに返してくれればそれでいいと言って、少し彼女の憤怒の感情に怖気づいたような細い言い方で、刹那に、帰れるようになったら電話させてくれと言って、携帯の電源を切った。

 

彼女は、その後、刹那に、少し携帯を借りますと言い、彼の了解を得ずに、刹那の全く知らない電話番号を、彼の携帯にダイヤルした。

 

《もしもし、誰?》

 

「…私です。しばらくですかね。どういうことだか、説明してくれますか?また、人をオモチャにする気ですか?」

 

《…また、随分と嫌われたね。そっか、今ラビットが話してた相手はあんただったの。今はそっちで巫女さんやってるんだって?》

 

「はい。貴方が殺めた命が、せめて極楽に逝けるようにと。貴方のような、生命をオモチャのように扱う連中など、地獄に墜ちてしまえば良いと。」

 

《オモチャとは人聞きが悪い。研究をしてるだけだよ?人類の進化の手段だよ?あのさ、私、一応あんたの生みの親的なアレなんだけど。もう少し労ってくれても…》

 

「…下衆が。あの様な扱いをしておいて、まだそのようなことを。生き物は、貴方達研究者の道具ではありません!ああ、貴方達を見て、神は何とおっしゃることか!」

 

《はいはい。神も仏も居やしませんよっと。所詮あんたは、研究材料として作っても失敗作だったよ。まあ、もうクローン研究なんて飽きちゃったから、あんたを見て解剖したいとかは思わないよ。強制はしないけどさ、まったく、そんな馬鹿なことしてないで、もう帰って来なよ。被験体にはならなくて良いから、ちょっと研究手伝ってくれない?神社の飯って、いかにも古臭くて食う気にもならないわー。》

 

「この…バチあたりが!見ていなさい。今に天罰を受けるでしょうから。」

 

《はいはい。ブレないね、あんたは。本当にあんた、私のクローンなのかね?》

 

「私の命、いや、皆の命は、神から授かったものです。この世に同じ命など、この世にありはしないのです。」

 

《でも、DNAが同じなら、同じ人間になると思うんだけどなー。》

 

湖真菜は、倍咲真菜の話途中に、その電源を切った。彼女の顔には怒りが満ちていた。

 

話を盗み聞きしていた刹那は、話を聞いたあと、やはりそんな感じの関係であったか、と言う感情と、彼女の話を、もう少しだけ聞いていたかったと言う感情を持っていた。

 

湖真菜は、少しすると我に返り、お騒がせしてすみませんでしたと彼に謝り、携帯を彼に返した。

 

携帯には、まだ彼女の憤怒の感情が伝わっているかのように、少しだけ熱を帯びていた。

 

 

 

 

 

 

それから、一時間の時が経った。障子が開いた先の外を見ると、夕日の優しい光が木々を包み、空にはうっすらと雲が現れ、夕日の先には、穏やかな夜の訪れを予感させている。もう夏が近づいているのか、神社の外では虫が鳴いている。

 

刹那の傷口は、包帯が巻かれているだけで、何の薬も塗られていない。なのに、彼の傷口は、たった数時間で治癒してきて、もう傷もあまり痛くはない。

 

これも、彼女の守護霊の力なのだろうか。しかし、それならば、ラビットの守護霊の力のように、何故即座に治らないのだろう。

 

そんなことを考えていると、白い装束を着た湖真菜が看病しにやってきて、もう傷は治りましたか、と傷口を見て、まだ治ってないみたいですね。と包帯を新しいものに変え、彼の枕元に、お粥を置いた。

 

「あの…」

 

「…聞いてましたよね。私、実はあの方のクローンなのです。彼女は、その天才すぎる頭から、自身のクローンを作り出し、脳ミソをくり抜き、それを特殊な液体に漬けることで、自身の脳を、自分の元に永久に保存しようとしました。それが私です。しかし、彼女はそれに加えて、また別の欲望を持っていました。」

 

「………。」

 

「彼女は、自分が死ぬ瞬間を見たい。そう思い、脳ミソのクローンだけを作らず、敢えて私に生を与えた状態で作り出しました。それから、無感情の状態ではつまらないと、敢えて私に教育を施しました。そこで私は、途中でそれに気付き…と言うか、元々私自身、牢屋の中で育てられてましたから。何となく、ここにいては殺されると思い、逃げ出しました。それで、私を引き取ってくれたのが、この神社と言う訳です。」

 

「酷いですね…でも、ならば何故、そんな酷い人と普通に話せるのですか?」

 

「…普通に、ではないですね。 今でも、彼女の罪を許す訳にはいきません。彼女は、いくら懺悔しようが許されぬ罪を犯しました。恐らく、彼女は地獄に堕ちるでしょう。しかし、「何故彼女が私と普通に話しているのか」と言うことに関しましては、彼女はもう、私に興味はないようです。多分、それだけです。」

 

刹那は、倍咲の話をしている間の彼女は、まるで別人のようであると思った。底知れぬ怒り、腹立たしい記憶の数々。彼女のそれは本物であると、彼女と話していると、改めて伝わってくる。

 

しかし、刹那が疑問で仕方なかったのは、そんな生みの親と、何故未だにコンタクトを取っているかということだ。本来は、それを彼女に聞きたかったのだが、彼女はその意味を上手く取ってくれないようであった。

 

時間が経つにつれて、辺りは暗くなってくる。湖真菜は、話の後、少しやらねばならぬことがあったので、お粥を食べていてくださいと言って、その場を後にしてしまった。

 

明かりをつけようと思っても、明かりらしき物は何もない。傷口にも薬一つ塗ってもらえないことから、やはり自然の摂理に従え、と言うことなのだろうか。

 

しかし、そうは言っても、やはりまだ六時過ぎ。腹は減ったのでお粥は食べたが、まだ全く眠くない。

 

しばらく待っていると、湖真菜が戻ってきたので、そのことを聞くと、やはり彼の思った通りであった。

 

「あの、もう暗くなったので、明かりとかはありませんか?」

 

「ありません。昼間に行動する人間は、夜に起きていてはいけないのです。夜になったら寝てください。それが自然の摂理です。」

 

「いや、でも…」

 

「ワガママを言っていると、神様への生贄として、祭壇の前に手足を縛って座らせ、炎で炙りますよ?」

 

「……はい。」

 

「よろしい。歯を磨くなら、あちらに洗面台があるので、どうぞ。おやすみなさい。」

 

湖真菜が去ったあと、彼は一人洗面台に向かい、歯ブラシで歯を磨いた後、布団に篭った。




うわ巫女さん怖い
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