勘違いから始まるリリカルなのは   作:龍角散

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ではよろしくお願いします。


無印
第1話【boys side】


始まりはバレンタインデーだろう。俺が彼女を意識……もとい、怖がり始めたのは間違いなくこの時からだ。俺はその時、まだ小学3年生。当時の俺は恋だの何だのとはほぼ無縁のガキだった。でもバレンタインデーと言うものは自覚がなくてもやってくる。去年はこんな事はなかった筈だが俺はその年初めてバレンタインチョコなる物を3つも貰った。勿論義理も入っている。それで冷やかす奴はいても妬む奴はいない。それが小学生だ。上級生になったら当然そういう感情を抱く者もいるだろうが今はそれがない。

 

と、ここで話を戻そう。俺はまず同じクラスの金髪の女の子からチョコを普通に手渡しで貰った。何やら偉そうにふんぞり返っている。特に不快感はない、それが彼女のキャラだし悪気はないのだ。そして次にこれも同じクラスの紫っぽい髪をした女の子からだ。彼女は大人しく、少し恥かしそうにチョコをくれる。それを見て俺は可愛いと思ったし、特に問題はない。だが間違えないで欲しいのは彼女達は義理とちゃんと言っている。決して本命ではない。

 

しかし問題は最後にチョコをくれた子だ。茶髪で短いピョコンとしたツインテール、この子も同じクラスだ。少し特徴的な子だが悪い子ではないと、思っていた。あくまでも思っていたんだ。ただチョコをくれたなら俺も特に何も思わなかった。だがその子は……すれ違う瞬間、俺の手にチョコが包まれている箱をパシッといい音を立てて置いていくように渡すと、そのまま何事もなかったかのようにどこかへと行った。俺は困惑する。当然だ。何も言われず、まるでテレビに出てくる運び屋が『例の物だ』的にチョコを渡して来るのだから。しかも何やら少し箱が重いのだ。

 

でも俺はその時ばかりは何も考えず、家に帰りチョコを食べる。まず最初の2つを食べ、最後にあのチョコを食べる為に箱を開けた。だが、だがそれは俺を動揺させる爆弾の様な物だった。嫌がらせか、はたまたドジなのか。俺は箱の中身を凝視しながら固まり小一時間ほど考えてしまう。小学生である俺がここまで考えてしまうのだ。大人が見ても考え込んでしまう筈だ。何故、どうして? それは俺の思考をぐるぐると迷路に迷い込ませる。何故なら結果、チョコなど入っていなかったのだ。入っていたのは大量に押し込まれていたカッターの刃。俺はどうすればいいのか。チョコではなくバレンタインデーにもらった物の中にカッターの刃が入っている。1本2本とかではないのだ。大量に入っているのだ。もう一度言おう。大量に押し込まれて入っているのだ。俺は怖くなった。あの子の存在が怖くなった。得体が知れない。話した事はないが恐怖以外の思考が小学生の今の俺にはなかった。そして次の日だ。俺は初めてあの子から話しかけられた。

 

「お、おおおはようなの! その、そそそ……その! き、昨日のアレはどうだったかなって……。い、いい感じに出来たと思うの。ツヤとか……その、そそその……私……っ……たの少し甘過ぎたか、かかかな? 」

 

「…………」

 

俺はこの時何を考えていただろうか。普通に考えて、普通に考えてだ。昨日貰った大量のカッターの刃をどうだった? と聞かれて何て答えればいいのか。それにツヤ? 確かにカッターの刃はいい光沢を放っていた。とても鋭く、よく切れそうな物だった。極め付けは少し聞こえなかった所もあるが甘過ぎたかな? だ。私甘過ぎたかな? あれでも遠慮したのか。あれ以上何を入れるつもりだったのか。そもそもあれの意味は何なのか。俺にあれを食べろと言いたいのか。それとも俺に死ねと言いたいのか。俺はいつの間に嫌われていたんだ。俺は今思考が一人歩きしている。顔が赤い目の前の女の子は今何を考えているのか。彼女に抱く感情は恋なんてなまやさしい物じゃない。恐怖。とてつもない程の恐怖だ。しかしこの子のおかしな所はこれだけじゃない。

 

それはある日の休み時間。トイレから帰ってきた俺は自分の机に座ろうとした。この時、確かに気にはなっていた。何故あの子が俺の椅子の後ろにいるのかを。だが俺は怖いので関わらない様に椅子に座る。しかし今そこにあった筈の椅子がない。つまりどういうことか。俺は今座る動作に入っている。もう膝を折り、後戻り出来ないところまで来てしまっている。俺のお尻が膝よりも下に下りてきていると言うのに椅子の存在がないのだ。何故だ。今あったじゃないかと俺は考える。けど結果的に俺の尻は床に叩きつけられ、俺の後頭部は本来ある筈だった場所より遥かに後ろにある椅子へと直撃した。当然だ。俺はこの子に椅子を引かれていたのだから。

 

「つっ!? くっ!? つっ!? 」

「あ……ご、ごめんね!? ち、違うの!? そんなつもりじゃ!? だ、大丈夫? 」

 

「痛い……」

 

「あ、そ、そそそうだよね!? ……ごめんなさい。その……別に……意地悪しようとかそういうんじゃないの……ただ……『楽』になれるように引いてあげようかなって思って……」

 

「え…………」

 

俺はこの時初めて知った。きっと俺はこの子に嫌われている。というより命を狙われている。怖い。俺は怖かった。可愛い顔して、その赤い顔の裏にはとんでもない悪魔が隠れているのだと。俺はこの子を信用するのをやめた。常に警戒し、自分の命を守る為に致し方ない事。俺はこの子を無視するようになった。だがどういう事か。一体何故。俺はこの子と2人きりで体育倉庫にいる。早く逃げなければ。しかし日直なのだから仕方ない。片付けをするのは当然だ。そして片付けは終わった。俺は即座に逃げようとした。けど扉は勢いよく閉められる。何故か。あの子が閉めたからだ。どうして。何故閉める。俺の思考は停止した。

 

うつむきもじもじとしているこの子は、これから何を言うつもりなのか。いや、何をするつもりなのか。俺は怖かった。ただ怖くてこの子を見る。すると俺はこの子に両手で胸を押され、後ろの壁だとは思うがそこにぶつけられる。勢いはあったが強くはない為痛くはない。しかし俺はこれから何をされるのか。どうなってしまうのか。俺の運命はこの子の意思に委ねられる。

 

「そ、そそそそその……どうして……む、無視するの? 私……き、嫌われたの……かな? 」

 

「いや……その…………」

 

この子はそう言いながら泣いていた。俺は勘違いをしていたのか。だとすればとてつもなく罪悪感がある。俺はこの子を傷つけてしまったらしい。きっと、今までのはドジで、わざとではないんだ。そう俺は考え直した。謝らなければ。俺はこの子に謝らなければいけない。そう思う。だから声に出そうとした。だが俺はまた考える。何故。どうして? 俺はまた騙されたのか? それともまたドジなのか? 分からない、俺はこの子が分からない。怖い。とにかく怖いのだ。俺はどうなった? どうしてしまったんだ。俺は何故床に顔を押し付けている? 何故俺の体は上に何かが乗っているみたいに重いと感じているのか。当然だ。今俺の上には何だか分からない鉄の重りが乗っているのだから。どうやら最初に俺がぶつけられたのは壁ではなく跳び箱だったらしい。そしておそらくその上にあったのだろう。でもだとすればこの子は狙って俺をそこへぶつけたのか? 何の為に泣く? そんな理由はない筈だ。ならきっとまた俺の勘違いだ。そうに決まっている。俺は必死にそう思い込む。しかし俺がこの子の方へ目を向けた時、この子は目を閉じていた。そして言ったのだ。確かに聞こえる声で。俺が重りに潰されているというのになんのリアクションもなく。言いやがったのだ。

 

「き、きき今日で……その……も、もどかしい想いも終わりにするの」

 

終わりにする? 一体何を? いや、わかっている。そうだ。やはりそうなのだ。きっと俺は今日殺されるのだろう。どうして俺は殺される程嫌われているのか? そもそも俺はいつこの子と関わりをもったのか。俺は全くと言っていいほどこの子とは喋った事もなかった筈。だが俺は嫌われ、こうして殺されようとしている。分からない。何もかもが分からなかった。だが、結果的に俺は殺されなかった。途中で体育倉庫に入ってきた金髪の女の子と紫髪の女の子のおかげで俺は殺されずに済んだ。しかしどうして目の前の女の子は急に慌てている? 慌てて何故俺を助けるのか。狙ってやったのではないのか? そもそもこうなったのはこの子の所為だと言うのに何故、何故?

 

そしてそこからまた次の日、そのお昼の時間。世にも恐ろしい事が起きた。俺はあの子にお昼ご飯に誘われた。屋上でお弁当を食べようなどと言っている。一体何故? 何故俺は誘われている? 今度は何をする気なのか。俺は必死に考える。しかしこの時俺は油断してしまった。この子の後ろにあの金髪の子と紫髪の子がいて一緒に食べると言うのだ。だから油断してしまったんだ。どうしてこの時俺はもっと警戒しておかなかったのか。俺は狙われているんだ。この子の手段がどんな手にだって出る事は考えておくべきだったのだ。まず、階段を上る時の順番。金髪の子が一番前、次に紫髪の子。そしてあの子、俺だ。何故俺は一番後ろなどという危険な位置にいてしまったのか。何故俺はこの子の後ろというもっとも狙われやすい位置にいてしまったのか。どうして? 何故?

 

だが、それを考える前に結論から言おう。俺は今、何故か右足が俺の頭より上に来ている。そしてここはどこか? ここは階段の上、屋上の手前と言う一番高いところだ。さらに頭だが、今階段に乗せている左足と同じ位置に来ている。何故? どうして? どうして俺はこんなことになっている? 当然だ。俺はあの子がポケットで何かを探す動作をした際、そこから出てきたハンカチに足を滑らせ階段から落とされたのだから。

 

「け、計画通りなの」

「ぎゃっ!? おぶっ!? ぶっ!? ほぎゃんっ!? 」

 

今なんて言われたのだ俺は。聞こえた。確かに聞こえた。俺が落ちる瞬間、確かに聞こえてしまったのだ。計画通り? 何てことだと俺は思った。この子はプロか? プロなのか? その年で暗殺者でもやってるのか? そう俺は思った。と言うか、ここはどこだ? 一体何階まで落ちたんだ。分からない。体が動かないのだ。見えるのは俺が落ちたのを見て追いかけてきたと思われる金髪の子と紫髪の子だけ。そしてその後ろにあの子もいた。だがここで俺は思う。何故泣く? 俺が生きているからか? 殺し損なったからか? しかしもっと不思議な事がある。どうして、どうしてだ。何故俺は生きている? 不思議だ。俺は不思議に思う。当然だ。ふと目に入ったクラスの看板。それは1年生を表す物だったのだから。

 

でも流石に無傷と言うわけじゃない。俺は右足1本を犠牲にした。病院に行くと、見事に粉々になっていたのだ。しかも少し手術もいるらしい。簡単なものだが2、3日は入院と言われた。だが、俺は少し気が楽になった。2、3日は俺は安全だ。俺の命を狙うあの子もいない。何て気が落ち着く場所なのだと俺は安堵している。この時は。もう一度言おう。この時は、だ! そして俺はまた考えなければならない。入院して2日目、あの子は……来やがった。来てしまった。こんなところにまで俺の命を狙い、俺を殺しに来たのか。俺は怖い。今度は本当に取られる。命を取られる。そんな気がした。この子はお見舞いに来たのだと顔を赤くしていたがその表情の裏に何を隠しているのか。むしろ何を考えているのか。俺は怖い。この子の笑顔が怖い。何を、どのように、いつ仕掛けてくるのか。俺は警戒せずにはいられない。

 

すると、この子はお花を持ってきたと言いながら俺のベットの横にある花瓶に近づく。だがここで何もないというのにこの子はこけた。ここで俺は考える。思考を巡らせる。何故。どうして。怖い。どうすればいい。俺は助けを求めたい。求めたいがもうその手段は奪われた。俺は考える。何故、どうしてと。当然だ。この子は転びながらナースコールのコードを掴みそのまま倒れた事でそれを引きちぎった。もう俺に助けを求める手段はない。そんな絶望を味わっている俺に、この子はころんじゃったなどと言い始める。そして花瓶を持って部屋から出た。どうする? 逃げようかと迷った。幸い水道があるところまでは距離がある。逃げようと思えば松葉杖をついて逃げられるはずだ。

 

俺は急いで準備を済ませた。杖をつき部屋から出ようと扉を開ける。横開きのドアを開けた。ここまではいい。開けたんだ。そこには何があった? 俺の目の前には何がある? 花瓶だ。どうして? 何故。何故花瓶は俺の顔を捉えている? 何故花瓶は俺の顔に当たり、粉々に割れていくのか。当然だ。あの子が俺の顔に花瓶をぶつけたからだ。しかし、どうして? この子は水を入れに行った筈だ。なのに何故? どうして花瓶に水が入っていない? どうしてだ。俺は考える。しかし当然だ。この子はハナから水など入れに行っていない。俺が出てくるのを待ち伏せしてドアの前に待機していたのだろう。でなければまだ部屋の前にいるなどあり得るわけがない。俺の顔に花瓶が粉々になるほど強くぶつけるわけがない。そんな事を考えた所で俺の意識は飛んだ。

 





どこが勘違いか分かりますか? なんて…………

ここで将棋盤をひっくり返しましょう!

次回もよろしくお願いします。
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