勘違いから始まるリリカルなのは 作:龍角散
ではよろしくお願いします。
「なのはちゃん、よく聞いて? そして思い出して? なのはちゃんがお兄ぃに初めて会ったのはいつ? なのはちゃんは本当にその事を鮮明に覚えている? 」
「え……お、覚えてるよ!? 忘れるわけない。だって……叶ちゃんのお兄さんに助けて貰ったんだもん」
「……ごめんなさい、なのはちゃん。真実を知るのは……辛いかもしれない。……神の巫女、名は神杖 叶。五行の神。我はその理を知る者。今ここに、汝の記憶を呼び醒ましたもう! たもう!! 」
「っ!? うっ!? ……何? え……嘘……嫌……嘘だよ……嫌だ……ああ゛っ!? いやぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!? 」
私は事件が終わり、あの子を救えなかった悲しみを、1人引きずっていた。だが突然叶ちゃんに呼ばれ、私は叶ちゃんの家に向かう。そこは普通の家だが、叶ちゃんは私が来るなり、話さないといけない事があると言う。私は不安になりながら、それでもしっかりと叶ちゃんの目をみた。そして……叶ちゃんは私にあの子と出会ったのはいつだと聞いてきた。それを鮮明に覚えているかと……しかし私の初恋の記憶だ。忘れるわけない。でも叶ちゃんが私の頭の上で五芒星を切り始めた事で、おかしな感覚が私の頭を突き抜ける。何故忘れていた……絶対に忘れちゃいけない事だった。それは私の罪。私の……トラウマ。私は……『勘違い』をしていた。今私の頭にあの時の記憶が掘り起こされ、蘇る。私はショックで叫ばずには……泣かずにはいられなかった。
あれは……寒い冬の事。私、高町 なのはは学校の帰りに1人で降り積もる雪を見ながら歩いていた。そこに……1人の男の子がいた。大きな広場で、何やらせっせと作っている。一体何を作っている? 何だ? と思ったがただのカマクラだった。でも地道に物凄く大きな物を作ろうとしている。だからそんな姿がとても羨ましかった。何かに、こんな事でも一生懸命になれるあの子が。すると私に気づいた男の子が手を招く。そして一緒に作る? と言ってくれた。私は嬉しかった。そして、一緒にその作業を始めた。最初は無言で。でも段々と喋るようになり、私達は少し打ち解けた。仲良くなり始めたのだ。まだ会って数時間。でもこの時間はとても楽しかった。今思えば、これが私の恋の始まりだったのかもしれない。
笑いながら、楽しそうに、カマクラを作るこの子がカッコいいと思った。2人で、着々と作業をし、重い雪はきちんと持ってくれる。そんな優しさも私は暖かく感じる。そして、カマクラは完成した。見事だと思った。体の小さな私達が作ったにしては見事な大きさだと。大きさは大体私達の身長の2倍だろうか。外も形をきちんと水で固めながら作った為、いい半円状になっている。傑作だ。私は自分でこんな立派なカマクラを誰かと作った事なんかない。だからだろうか。すごく、達成感のようなものが芽生えた。
私はふと……隣のあの子を見る。すると両手を腰に当て、笑いながら私と同じ気分を味わっているようだった。誰かと、こんな風に気持ちを共有した事……これも初めてだ。この子は私にいろんな初めてを教えてくれる。私はこの時心底思っていた。もっとこの子と仲良くなりたい。もっとおしゃべりしたい。もっともっと一緒にいろんな事がしたい。そんな思いが膨らんでいく。だがどうして? 何で神様は……運命というのは皮肉にも残酷な事をするのか。それは私達がカマクラの中に入り、カマクラが完成した喜びに浸っている時に起こった。
私は最初何が起きたのか分からなかった。だがそれは確実に起きた事。私達が作ったカマクラ……それは脆くも崩れ落ちた。ただ崩れるだけならいい。だがよりにもよって、私達が中にいる時に崩れたのだ。私達は雪に押し潰された。いや……これは違う。これは私が長く、勘違いしていた事だ。私ではなく、あの子だけが雪の下敷きになった。では何故私は助かっている? どうして逃げられた? それは当然の事。私は雪が崩れる前にあの子に押し出され、カマクラから抜け出していたのだ。あの子がどうしてカマクラが崩れるのを察知したのかは分からなかった。しかし悲劇はこれだけではない。あの子の上に乗っている雪の量が問題だった。カマクラは内部がくり抜かれている為、崩れても押し潰されるほどではない。だが、今回ばかりはカマクラの雪の量は関係なかった。
理由はわからない。だがカマクラの近くに生えていた大きな木。そこに積もった雪が全て落ちていた。今考えればありえない事だ。例え、風が吹いたところで、全てが真下のカマクラに収束するなどどんな確率か。しかし、現にカマクラは潰れ、その中にはあの子がいる。私はどうすればいいのかわからなかった。必死にスコップや、手で雪をどかそうとするが私1人では無理な量。どうする? どうすればいい? そうパニックになりながら泣いた。どうにもできない。無力な自分がそこにはあったのだ。でもあの子を見殺しになんてできない。私は泣きながら立ち上がり、走る。誰かを、誰かを助けを呼ぶのだと……でも通りに道に誰がいた? どこに誰がいるというのか。残酷だ。世の中本当に残酷な事ばかりだ。こんな時に限って、誰もいない。
知らない人の家に駆け込んでも、知ってる人の家に駆け込んでも、誰も出てこなかった。そして、やっと見つけた交番。おまわりさんなら……そう淡い期待を運命は粉々に打ち砕いた。パトロール中……そんな看板が出ていた。そして小学2年生の私がそれ以上そこで何かする事など出来るはずもなく。私は力なく、放心状態になりながらあの子が埋まっているであろう空き地へと歩き出した。誰もいないなら、自分の家族に助けを求めればいいではないか。だがそれは無理というもの。何故なら今日はみんな忙しくて店にも家にもいない。誰も……助けてなどくれないのだ。
もうダメだ。私はあの子の所に戻る気力すら失ってしまった。道端で両膝をつき、上を見ながら、凍らない雫をひたすら流す。するとどうだ。神は……運命とやらは今度は私にまで毒牙をかけた。丁度私が座り込んだ場所で、屋根から雪が落ちたのだ。どうして……これではあの子が浮かばれない。せっかく自分を犠牲に助けてくれたのに。だが私は動く事ができない。身体がだんだんと冷たく。感覚もだんだん奪われてきた。このままでは死んでしまう。あの子もこんな気持ちでいるのだろうか? あの子は……もう死んでしまったのだろうか。
私はおこがましくも望んだ。奇跡を。助けという奇跡を。あの子の事ではなく。死にたくないと思ってしまった。まだやりたい事がある。すずかちゃんやアリサちゃんと沢山過ごしたい。私は身勝手に願ってしまった。ここで助けられるべきは私ではない。助けられるべきはあの子だというのに。
「助け……て…………」
「何してんだ、風邪ひくぞ? 」
「え……はひゅっ!? ……え? ……なん……で…………」
私の上にあった雪は全て溶けて無くなった。何故……どうして? 誰が? 最初に思った疑問はそれだった。だが私が顔を上げて見たのは…… バケツを持っているあの子だった。私の思考はそこで停止する。何故あの子はピンピンしている? 誰かが助けてくれたのか。しかしここで違和感……あの子は私を知らないような様子だった。その証拠に、あの子はさっさとどこかへ行ってしまう。どうして。あれだけ仲良くなった。短い時間でも、あれだけ話せるくらいは。私はそう何度も頭で繰り返す。まるであの楽しい時間がなかったかのように。
当然私の頭はパニックを超え、都合のいいようにシャットダウンした。つまり……私は夢を見ていた? などと思い込んでしまった。代わりに私をあの子が助けてくれた。ただそれだけの記憶として私に刻まれた。私は愚かだった。本質を見ずに現状を見て納得してしまったのだから。結果、これが真実と私の罪だ。あの子はもういない。虚数空間へ飛び込み、もう助かる見込みはない。おそらく発見すらされないだろう。泣いても叫んでも始まらない。止まるだけだ。私の時間が。でも……そうならずにはいられなかった。
◇◇◇◇
真実とは残酷にも当事者を傷つけるものだ。私は1年前の冬、変わり果てたお兄ぃを見つけた。私は物心つく頃には陰陽道をほぼ完璧に使いこなしていた。だがそれを知る者はいない。おそらく私達の親は知っているのかもしれないが、少なくとも友達やお兄ぃは知らない。私は神に愛されていた。それは自分でいうのも図々しい事だ。だが私の力がそれを物語っている。理解などする必要はない。力の引き出し方、印。言霊。その全てを私は最初から知っていた。だからこそ……私は禁忌を犯した。幼い私の考えが、事の重大さを理解せず、感情に流されてしまったのだ。
それはお兄ぃが遊びに行ってしばらく。なかなか帰ってこない事を私は心配し、お兄ぃを探しに来た。幸い、お兄ぃには式神をつけてあった為、場所はすぐにわかった。私はお兄ぃのいる場所がいつも気になる。だからいつもお兄ぃには式神をつけていた。しかしどうして……なんでお兄ぃのいる場所に……大量の雪が積まれているのか。反応は間違いなくこの中から。まさか……まさかと最悪の事態を考えながら火の力を行使し、雪を溶かす。溶かすまではいい……溶かした雪の中には……冷たくなったお兄ぃがいた。いくら呼びかけても、揺すっても、お兄ぃは目を覚まさない。代わりに体温というには冷たすぎるものが私に伝わってきた。
私は理解していた。お兄ぃは死んでしまっているのだと。ただ私が認めたくないだけ。お兄ぃの死を。その現実を受け止めきれないだけ。どうしてこのまま供養してあげられなかったのか。どうしてお兄ぃを自由にしてあげられなかったのか。今では後悔しか残ってない。もしお兄ぃが真実を知った時、お兄ぃは私を恨むだろうか。お兄ぃに恨まれる事が私は怖かった。しかしそれ以上に、お兄ぃとのお別れが私は嫌だったのだ。
例え、お兄ぃに恨まれることがあっても。例えお兄ぃに嫌われても。私はお兄ぃに生きていて欲しかった。だから私は儀式を行った。人がやってはいけない。神をも冒涜する儀式を。この儀式にはいくつか条件がある。
一つ『死んだ者の遺体がまだある事』
二つ『その者をよく知る人物の聖遺物を口に詰める。さらにこれを日に数回適度に行う』
これは魂を定着させる為に、魂の逃げ道をなくす為に行うもの。
そして……
三つ『同じ時間全てに4が重なる瞬間、二つ目の行為。聖遺物をその者の口に詰め、そのまま聖遺物の所持者がその者に接吻を行う』
以上が『死に返しの儀』。死者の魂を縛り、人としての尊厳を踏みにじる最低の行為だ。何故ならこの儀で死に返りを果たした者は体の成長はするものの、一切の睡眠をとる事を許されない。何故なら……『死者は眠らない』。もう死んでいるからだ。だがどういうわけかお兄ぃは寝る。どうしてかは私にもわからない。これは極めて異例な事だ。しかし眠れないと言う制約は残っている為、お兄ぃは眠る時に目を閉じて眠る事を許されないでいる。勿論本人は気づいてすらいない筈だ。
こうして私はお兄ぃを騙し続けて来た。決して許される事ではない。でもこうする以外に、私が私でいられる方法がなかった。お兄ぃを突然失って、私が冷静でいられる方法が。でなければ、『お兄ぃを殺した』輩を私は殺していた所だ。きっと今でも殺そうとしてただろう。だが決して許したわけではない。絶対に許さない気持ちは今でも変わってはいない。ただ……そんな事をすれば……お兄ぃに怒られてしまう。だから私は……お兄ぃと一緒にいられれば、それでいい。そう思うのだ。お兄ぃさえ、側にいれば。
しかし現実はどうしてお兄ぃを殺したがる。お兄ぃを生かしておいてくれない。最後の行動が……お兄ぃが何故自分から死ぬ事を選んだのか。そんな事を理解する事は私には無理だ。お兄ぃから言わせれば、私はバカなのだから。でも自分から死にに行くお兄ぃはもっとバカだと私は思う。お兄ぃの肉体ももはや取り戻せない。完全にお兄ぃは私の前から消えたのだ。結局私はお兄ぃに何をしてあげられたのだろうか。お兄ぃはこれでよかったのだろうか。私はこれからどうすれば、何を生き甲斐に生きればいい。そう……今は私の前に希望が、光がない。目の前になのはちゃんがいるというのに、私は我慢する事が出来なかった。今まで、お兄ぃが死んだ時から必死に我慢していた……私の気持ちを。
「うっ、ひぐっ……っ!? かな゛え゛……ち゛ゃん? 」
「……お兄ぃ……お゛に゛ぃ……ぉ……ぃ……う、うっ。うわぁぁあああああああああああああああぁぁぁ……あ゛あぁ……お兄ぃぃいいいいいいぃぃぃぃ……ぅ……あぁぁぁ 」
次回もよろしくお願いします。