勘違いから始まるリリカルなのは 作:龍角散
遅くなりました。
「俺が今、お前の心の将棋盤をひっくり返してやるぜ! 」
私は長い事人と言うものを見てきたつもりだ。それこそ、生まれた瞬間から生まれおちる前まで幾千と時間を遡り魔女としてゲームをした事もある。
魔女にとっての時間は有限にして無限。生きてきた年数は意味をなさない。魂としてのあり方、そして己が欲望。それが魔女としての存在理由。
だがどうだ。目の前の人間は自信満々で私に勝ったなどとほざいている。私とこの子では年季が違うと言うのにだ。愚かだ。愚かとしか思えない。自分の命を捨て、私と決着をつける為だけにここへ戻ってくるとは、私はこれほど自分の目が腐っているとは思わなかった。
この人間は他の人間とは違う。多少なりとも特別視していた。しかし蓋を開けてみればただの狂人。だからこの人間にこれ以上の価値などない。
見る目をなくし、こんな人間を神聖な魔女の遊びに誘ったなど、魔女としてのこの上ない恥だ。だがどうしてか。どうしてこうもこの人間の目は輝いて見える? 絶望もしないで希望を宿しているのか。
人間は脆弱だ。己で抱えきれない闇や欲望を知った時、壊れて狂う。人の身で本来魔女のゲームなど攻略できない。人とは自分可愛さに自分の絶望を想定できない。どんなに冷静で頭のいい人間だろうと、その領域を超えて考える事は不可能だ。
一体どんな人間が人の身にあまる欲を押さえ込んでいられよう。一体どんな人間が自分の死を想定した事を考え、答えられよう。だからこの人間も変わらない。最後には壊れて狂い、無様に這いつくばる。人が魔女に勝つ事はない。
どんなに足掻こうが、その先に待っている鉄の扉を叩くだけ。その扉を開け、そこから逃げる術など人間は持たない。
私だってそうだった。死して尚、親を求め、人であるが故の脆弱さを感じ、幽霊として触れられない現実に泣き叫ぶだけ。所詮人は勝てない。己に……絶望に、その未来を掴むために戦う事などできない。
私は魔女になって初めて理解した。絶望の先にはどこまでも暗い闇しかない。そこから逃げるには人ではダメだ。人を超えた存在にならなければ。つまりは今の私、魔女だ。
「アリシア、結論から言って俺はもう狂ってる。その事はこれから言う答えからも俺自身一番よく理解している」
「そうだな? お前は狂ってる! とてもまともとは思えんよ。とんだ無駄の時間だった。少しでもお前を暇潰しとして使えると思った自分が恥ずかしくなるね? ぷーくすくす! さぁ〜聞こう。お前はいつ死んだ? 」
問いの答え、その真実……答えられるわけがない。もし仮に答える事ができたなら、こいつはもう人じゃない。人として、人間として答えてはいけない事だ。むしろ答えられないのが正解。それは人間を否定する事に繋がる。自分を否定する事にだ。
だがこの人間は私の目を真っ直ぐに見つめ口を開く。それは私もその隣にいるディアーチェ卿も想像だにしなかった答えだった。
「俺が死んだのは生まれた時、その瞬間だ。俺は……最初から生きてなんていない」
「……ま、まて……何を……言ってる…………」
「クックック……面白い、よもや人間に魔女が負ける日が来ようとはな」
私は思わず席を立った。正解とか不正解とかそんな次元の問題じゃない。私は魔女だ。正解を知っていて、それを分かるはずもない問いとして出した。
答えられるはずがない。答えられるはずがないのだ。だがどうして。どうしてたどり着いた。どこから情報を引っ張り出してきた。そんな要素、情報、答えになるパーツなどどこにもないはずだ。
私はこいつの直感や閃きを多少なりとも評価している。だからこいつがたどり着くのは1年前に死んだというところまで。そう確信していた。
ありえない。これはおかしな事だ。自分の存在を否定した。こいつは自分の生きてきた人としての人生を否定したのだ。何故、どうしてそんな事ができる。『人間としての前提条件』を壊して答えを見出すなど人の身でできるわけがない。
私は今混乱、迷走している。開いた口が塞がらない。やられた。完全に私の負けだ。
この問いの答えはこいつがこいつの存在を否定する事。何故ならこいつは本来存在しなかった人間だからだ。妹と共に生まれ、その存在を抹消された人間。くだらない狂ったこの人間の家系。そのしきたり。だがそのしきたりを親が破り、『1度殺した上で』この世に生を授かった人間だ。しかしどうやったらその答えにたどり着く事ができる。何をしたらその答えにたどり着く。私はまったくわからなかった。
何十、何万、何億と思考を巡らせるが不可能だ。魔女の私に不可能な事を何故人の身でできるのか。私ができなかった事を。運命に抗い、その先のある未来こいつは掴み取って見せた。私が諦めた物を目の前で成し遂げて見せたのだ。
こいつは分かっていない。自分が何を求めて、何をしたのかを。こいつはやった。情報のないところから。無の状態から無限に広がる不正解のうち、たった一つの答えを導き出した。ましてや命懸けのこのゲームで。
魔女ならともかく、人間が、恐怖を、絶望を、葛藤を、負けたら終わりというこのゲームを何の躊躇もなく攻略して見せた。常人なら答える事も出来ないだろう。自分の身がかかっている状態で、間違えたら終わりという状態で、こうもあっけなく答えを口にできる度胸と狂気。天秤にかけた自分の命すら、ただのチップにしか思っていない命知らずの思考。
だから私は感じた。ただの人間から、決して感じるはずのない物を。この子は……
この人間は…………
悪魔じみている。
魔女とは人の理を超えて真理を探究する存在。人間を見下し、神を笑い、死者すら弄ぶ存在。
だがこいつはどうだ。人の身で、人間の身で、その魔女を笑い。私達と対等に渡り合った。ならこいつは人か? 冗談じゃない。
こんな人間など認めてなるものか。こいつは人じゃない。悪魔だ。魔女を食い物にして楽しむ悪魔。
しかしだからこそ…………面白い。
私はこんなにも興奮を止められなくなっている。このゲームで自分の存在すらどうなるかわからなくなったこのゲームで。
おそらくディアーチェ卿も同じだろう。魔女が、魔女同士のゲームではなく。人間と潰し合いができるなど。こんなにも愉快で爽快な事はない。
見下していた人間が私達の存在を危うくした。これは宴。宴だ。私達魔女と、この人間の宴。その始まり。
「はは、あはは……認める。私の負けだよ。さぁ〜お前の願いは何だ? 私に何を望み、私をどうする? 」
「俺は……お前を生き返らせる! 」
「え…………」
「なっ!? 馬鹿な!? それは不可能だ! 我ら魔女は自分を生き返らせる事はできない。逆もまた然りだ! 魔女が魔女を生き返らせる事も出来る事じゃ」
「あのさぁ〜? 魔女って、少し頭硬いと思うのは俺だけなのかな? 」
「貴様我らを愚弄するのか!! 」
「まだ気づかないのか? 誰が決めたルールかは知らないけど、このルールには穴が存在する。魔女は魔女を生き返らせる事はできない。つまり俺ならできるって事だろ? 何故って、理由は簡単だ。俺は魔女じゃない。人間だ。という事は俺にそのルールは当てはまらない。……違うか? 」
興奮していたディアーチェ卿はその顔を驚愕に染めた。人間に説明され、納得してしまったのだ。だが確かにこれは前例のない事。初めて指摘され、見えたルールの穴。でもどうして。何故自分ではなく、私を生き返らせるのか。私はますます意味がわからない感覚に襲われた。
命懸けのゲームに挑み、死力を尽くして欲しかった物が他人の命だ。もう私はどんな感情を抱いていいのかわからない。悔しさ、嬉しさ、感謝。はたしてどうすればいいのか。
わからない。わからないが、私の心は救われた。長い事闇に覆われていた私の気持ちはこんなにも簡単に、突然現れた『悪魔じみた人間』に救われてしまった。ならば私が言える事など一つしかないのだ。それを言わずして、どうするのか。例え魔女といえど、して貰った恩には報いなければならない。
私はそう思うからこそ、彼の……おちるの手を取った。
「ありが……とう。私の心、本当にひっくり返されちゃった。えへへ! 」
「ああ、その顔が見たかったんだ。ママさんと元気でな」
「うん! あ……おちーー
私はそこで現実に押し戻された。
◇◆◇◆
アリシアは消えた。光となって。きっと現実に戻ったのだろう。だからここにいるのはもう1人の魔女と俺だけ。しかし俺はこれからどうなるのだろうか。自分で決め、決断した事だが、確かに命はなくなった。幽霊として、生きていくだけ。
「ククク、なぁ〜人間? 我はこんなにも愉快で楽しいと思った事はない」
「へぇ〜なら。俺と遊ぶか? 」
「ははは! それもいい! だが我はその前に我の家族を紹介したい。そ奴らもきっとお前を気にいるに違いないからな。だからそれまでお前との勝負はおわずけだ。せいぜいそれまで他の魔女に潰されてくれるなよ? ……我も楽しみたい! ククク、ククク、あっはははは! 」
それだけ言ってその魔女は消えた。一体あの魔女は何者なのだろうか。アリシアの友達か何かだろうか。だがどちらにしてもあの魔女とのゲームは今の俺には楽しみでしかない。何故ならどうせ他にやる事などないのだから。
すると俺のいるその空間に見覚えのある金髪と髪型の女の子が現れた。俺はその子を見て固まる。可愛いからとか、美人だからとかそんな理由ではない。俺はこいつを知っているからだ。
「パンツー! パンツー! ……ってなによ!? アリシアの奴いないじゃない! せっかく遊びに来てあげたの……にっ!? ……誰よあんた!? 」
「お前……バニングス……か…………」
「はぁ? バニングス? どうしてあんたが現実の私を知ってるの? ん? あれ? 嘘……はぁ〜うわぁ〜……ダ、ダ……」
「ダ? 」
「ダ、ダーリン!? 」
「ダーリンってお前なに言って、おおっ!? 」
「うわぁ〜ダーリンだぁ! うふふ、どこ行ったかと思えばこんなところにいたの? 私寂しかったぁ〜あはは〜」
なんだ? これはなんなんだ。こいつは間違いなくバニングスだ。服は制服とかではないが、赤いゴスロリ服のような物を着ている。髪型、顔、声、そしてこの口調。どれを取っても間違いない。何故、何故こいつまで魔女なんだ。ここいるという事は間違いなく魔女だ。
だがこいつは尻餅をついた俺に抱きついて顔を俺の胸に擦り付けてくる。
しかし俺は知っている筈だ。こいつはこんなキャラじゃない。
しかもダーリンってなんだ? 俺はいつからこいつに慕われていた? いつからそんな対象になったんだ?
いや、それよりもこの大胆さと素直さはなんだ。バニングスはこんなに素直じゃない。むしろツンツンしてる子のはずだ。だが本当の所俺には分かっている。
こいつは魔女だ。ならばこれが魔女としてのバニングス。この性格も、こいつが心のそこで望んでいた事に違いない。でも一体何故俺をダーリンと呼ぶのか。
振り返る限り、こいつに好意を持たれていたとは思えない。接点も少しだけだ。するとバニングスが俺から離れ、何を思ったのか俺の前でスカートを捲り上げやがった。
俺は思わず顔を熱くして両手で顔を塞ぐが、何故か見えない力で両手が顔から離れていく。どうやらバニングスの仕業らしい。
「ダーリン? どう? ダーリンの好きなヒ〜モ! 引っ張ってみる? そ・れ・と・も〜 食べちゃう? 」
「お、おま、おま、何してんだ!? 」
「何って……言わせないでよ、もうぅ」
俺は思う。ダメだこいつ……はやくなんとかしないと。と……それにしてもこいつには羞恥心はないのだろうか。言ってしまってはなんだが、今こいつ紐しかつけてない。それは断じて下着ではないのだ。つまり、モロ丸見え。
にも関わらず何故こいつは俺の質問に恥ずかしさを覚え、自分の行動には恥かしさの欠片も感じていないのだろうか。
しかしそれはこの際どうでもいいだろう。今問題なのは何故この状態のままジリジリと俺の方へ迫って来るのだろうか。もし俺が後ろへ下がらなければ俺の顔はスカートの中へ包まれるに違いない。そうに決まっている。こいつならやりかねない。しかも何故少しヨダレが垂れているのか。
「ダーリン〜いいよぉ〜食べても。素敵でしょ? 綺麗でしょ? うふふ、うへへ〜」
「お前ド変態過ぎだろ!? やめろって!? 」
「ちぇ〜、あ! そうだ! ねぇ〜ダーリン? ゲームしよっか? あ、でもでも〜本気の奴じゃなくてお遊びね」
「ゲーム? ま、まぁ〜暇だからいいが。それに軽くでも何か賭けるんだろ? 」
「そうそう! もし〜ダーリンが勝ったら私を食べていいよ? 」
「いや、何でだよ……ちなみにもしお前が勝ったら? 」
「私を食べて? 」
「…………」
こうして唐突にこいつ、バニングスとのゲームが始まった。だが俺は再度思う。迷う事なく思う。こいつが変態だろうがド変態だろうがそんな事はどうでもいい。とにかく…………
はやくなんとかしないと……と…………
え〜主人公がどこから情報を持ってきたかはこの話では語りませんのでご注意を。
それは今後わかることなので。
ではでは!
次回もよろしくお願いします!