勘違いから始まるリリカルなのは 作:龍角散
俺はある朝起きた。起きた。もう1度言う。朝自分の部屋で起きた。なのに……何も見えない。確かに目は開けている。でも見えない。なんだか少し息苦しい気がするし声がこもって聞こえる。なんだこれは。一体なんなんだと恐怖にかられる。しかしながら分かっている。分かっているんだ。これはいつもの嫌がらせ。俺の事が嫌いな妹の陰湿な嫌がらせだ。俺には双子の妹がいる。かくゆ全然似てはいないが、妹は俺の事が嫌いらしい。だから最近毎朝のように嫌がらせを。これは毎朝だ。毎朝なんだ。ひどい時は夜中寝ている時に起こされる時もある。俺が何をしたんだ。いや、何もしていない。絶対に何もしていない。むしろ妹の面倒は見てきたし大事にしているつもりだ。にも関わらず、俺は嫌われている。嫌われているんだ。どうして。どうしてこう頭にある物をかぶせる。しかも使用済みのものを。俺は軽く嫌いになりかけている。この布地が嫌いになりかけている。何が嬉しくてこんな物を毎朝かぶっていなければならないのか。
だが俺はいつもの事だと動じない。ゆっくりと顔の物を脱ぐ。するとどうだ。俺の目の前にはいる。誰がいる? 妹だ。嫌な笑みを浮かべ何を聞いてくるかと思えば。それはおはようの挨拶でもなければ俺を呼ぶ言葉でもない。一言言うのだ。ありがとうは? と…………。ありがとう? どうして俺は感謝をしなければならない? むしろ俺に謝れと言いたいのだが、そんな事を言ったら殺されかねないので何も言わない。だがどうして。そんなにも俺が嫌いなのか。そんなにも俺を苦しめたいのか。妹はギブスをしている俺の足に肘を置くとゴツゴツと叩き始める。正直振動で痛い。痛いのだが痛がってもやめてくれない。どうしてやめてくれない? 決まっている。俺が嫌いだからだろう。こいつは俺をいたぶって遊んでいる。そうに違いない。そう思う。しかし学校に行けば妹は何故か攻撃を仕掛けてこない。こんな兄と一緒に見られるのが嫌なのだろうか。学校では顔も合わせない。
さて、話を少し戻そう。俺が何を毎朝被らされている? それはパンツ。妹の昨日はいていただろうパンツだ。毎朝毎朝毎朝、俺はそれをかぶった状態で起きる。そして言うのだ、ありがとうは? と…………。俺はどうすればいい。ありがとうと言えばいいのか? いや、断固として言ってたまるものか。誰がなんと言おうと言わない。それが俺のできる唯一の抵抗だ。最近では学校から帰って来るたびにお腹を殴られ、怯んだところにパンツをねじ込まれる。どこに? 聞いてどうなる。何かが変わるのか? いや、変わらないだろう。そうだ変わらない。だがあえて言う。口にだ。俺の口にねじ込まれる。どうして。何故。何故そんな事をされなければならない。俺が五体満足じゃない事をいいことに、最近はやりたい放題だ。その度になんて言われると思う? パンツをねじ込まれたまま、両頬を片手で捕まれ、顔がぶつかりそうな程近づきながら言うのだ。
「お兄ぃ? おいしい? おいしい? それ脱ぎたて、脱ぎたてだよ? その味忘れないでね? 」
「んーっ!? んんーっ!? 」
そんな甘い声を出されても可愛くもなんとも無い。陰湿だ。陰湿すぎる。俺はパンツなんか好きじゃ無いしおいしいとも思わない。やめてくれ。もう許してくれ。俺はこんな毎日に苦しさを感じる。どうすればやめてくれる? どうすれば妹は大人しくなるのか。ついこの間、足を怪我する前までは夢にまで見ていた。悪夢になりつつある。パンツだ。パンツが襲ってくる。そんな夢を見る。しかしどうして。妹と俺の隣の席にいるクラスメイトは仲がいい。紫っぽい髪をした可愛い子だ。よくうちに遊びに来る。そう言えば、俺が怪我をしてからというもの、そのクラスメイトがやたら遊びに来ている気がする。そうなのだ。来ている。何故かあの子も。そうあの子だ。俺を狙っているあの子だ。俺は怖かった。俺は狙われている。狙われているのだ。自分の命が危ない。学校に行けばあの子は俺を殺そうとする。だが家に帰っても妹に嫌がらせを。俺はどうすればいい。俺に安息の地はないのだろうか。
いや、あった。俺にも安息の地はある。あるのだ。それは学校の図書館。そこは俺のくつろげるもっとも安全な空間。本を読む? いやいや、寝るに決まっている。俺は寝るのが大好きだ。それ以外の楽しみは……無い気がする……だがいいのだ。と思っていたのに。どうして、何故。何故なんだ。今俺が座っている机の前にはあの子が座っている何故、どうして。まさかこんな所まで俺を殺しに来たのか。今度はどんな手を使うんだ。そう考えながら俺は寝たふりを開始する。寝たふり、寝たふりだ。しかしどうして、俺はいつの間にか寝てしまったらしい。昼休みが終わり俺はまだいたのかあの子に起こされた。起こされたまではいい。目の前でここまで何もしてこなかったのだ。きっと何もするはずが……と思った俺の純粋さを返して欲しい。俺はどうなっている? 一体何をされた? どうしておでこが痛い? 何故俺は机の角におでこをぶつけた? 当然だ。俺が立ち上がろうとした瞬間、あの子が俺の頭を上から下へまるでダンクするかの如く机に叩きつけたのだから。どうして。このタイミングを狙っていたのか? なんてことだ。俺はまた恐怖している。この子が怖い。本当に殺される。そう思う。
だがどうして?どうしてこの子はこんなにも冷や汗をダラダラとたらしながら涙目になっているのか。まだ俺を殺せない事がそんなにも悲しいのか。俺は何も言わずに教室へと戻った。勿論あの子は置いていく。俺は殺されたくは無い。しかしどうして。俺は何故にこんなところにいるのか。何故に無理やり連れてこられた。俺は今妹の仲良しさんの家にいる。どうして、何故いる。と言うか何故呼ばれた。どうしてあの子のいる場所へ呼ばれたんだ。あんなにも抵抗した俺の悪あがきを返して欲しい。でも抵抗したって勝てるわけ無い。俺より妹の方が強い。それに俺は足をやられている。抵抗は無意味だ。だが俺は嫌だと言うとお腹を10回ほど殴られ、ついでにいつものパンツをねじ込まれると引きずられながら妹に連れてこられた。
と、ここでまたほんの少しだけ時間を戻そう。俺が運ばれている最中、引きずられながら俺は見てしまったが、こいつ、俺の妹は今ノーパンらしい。つまり俺の口に入れられている物を脱いだからノーパンなのか。ならスカートなんぞはくんじゃないと、はしたない妹に言いたい。誰かに見られたらどうするんだ。そう思う。思うが連れてこられた家で俺は妹に耳元で言われた。なんて? そんなの決まっている。
「お兄ぃ私のスカートの中見てたでしょ? 」
「へ? 」
「いけないお兄ぃだね? 妹のスカートの中なんて見て。でも私は寛大だから許してあげる。でも帰ったら……ふふ、じゃ〜みんなでお話ししようお兄ぃ」
そう言うと妹は俺の口に入れたパンツをとった。そこまではいいだろう。とった。でも何故。あり得ないだろう。何故にそれをまたはく? 我が妹ながら頭がおかしいのではないかと思うが殺されたくはないので何も言わないことにする。それにしても広い家だ。うちの10倍はあるだろう。そんな事を思っていると俺は隣から手をつっつかれる。誰が? あの子だ。何やらもじもじ。もじもじして顔を赤くする。しかしもうその手には引っかからない。俺も馬鹿じゃないのだ。ここはシカトだろうとそっぽを向いた。すると丁度何かと優しい金髪の子が視界に入る。けどスカートを押さえて赤くなった。何故。何故だ。俺には全くわからない。女の子とこうして話したりするのは全くと言っていいほど俺はない。何を言えばいいか少し考える。特に聞かれたことだけ答えていればいいのか、それとも何か話題を出すか。そんな事を脳内で考えていた。考えていたのだが、どうして、ここである疑問がよぎる。気のせいだろうか。周りの4人は俺を認識している。それは間違いない。間違いないが猫……。周りには大量の猫がいる。いるのだが何故か俺が触っても全く動かない。懐かれているのか? いや、それにしては違和感がある。何故。試しにあの子が連れてきたフェレットも撫でてみる。同じだ。なんの反応もない。この違和感はなんなのか。わからない。わからないが何か嫌な感じだ。
そんな時、俺が触ったからなのかフェレットがどこかへ行ってしまった。そしてそれに合わせてあの子も追いかける。俺は特に気にしなかったが、ここで、全員に睨まれた。何故。何故睨む。すると追いかけろとの事だ。どうして? どうしてわざわざ殺されに行かなければいけない? 俺は嫌だと答えたが。女の子全員に最初よりも強く睨まれては仕方がない。俺は行く事にする。渋々松葉杖をついて歩き、あの子が行ったであろう森林の中へ。しかしどうして。あの子は……服を着替えたのか? 飛んでる? なんか光る物を出している? で……あの金髪の子は誰? そんな事を考えていた。見ているだけ。それだけでいいだろう。今俺は困惑して目をこすっているのだから。この状況を誰か説明してくれ。そう思っても誰かが説明してくれるわけじゃない。説明してくれるわけじゃないが……何故。何やら黄色とピンクの光が衝突した。衝突したと思ったら俺は吹き飛んだ。
何故。何故俺は吹き飛んだ。どうして身体がこんなにも痛い。痛いんだ。当然だろう。俺は爆発の衝撃で木に叩きつけられたのだから。ただそれにしてはあまり痛くない気がした。足の骨が砕けているというのにこの程度の痛み? 少し違和感がある。さて、それからどうした? あの子は負けたのか地面に倒れている。金髪の子はどこかへ行ったらしい。気がつくとそんな感じだった。仕方がない仕方がないがこのままこの子を放っていたら例え自分の命が狙われているとしても妹達に怒られてしまう。そう思った。だがそんな時、心配して来たのか3人が探しに来た。本当に優しい奴らだと心底思う。思うが俺を無視するな。どうして? 妹以外の2人はわかる。あの子が心配なのだろう。しかし妹よ。俺を無視するとは何事か。けど妹も心配なのかと特に気にしなかった。気にしなかったが……今思えばこれが分岐点だろうか。問題は家に帰った後起きた。
妹が何やら騒がしい。俺の名前を呼んで泣き叫んでいる。どうして? どうして妹が泣いている? 何を聞いても答えてくれない。ただ泣き叫んで俺を呼ぶ。俺は妹のすぐ後ろにいるというのに。一体どんな悪ふざけか。いくら俺でもそろそろ怒るぞと言いたい。結局妹は泣き疲れ、眠るまで泣いていた。一体何があったのか。それは分からない。きっと朝になれば元どおりの筈だ。しかしどうして。戻っていない。妹が俺を起こしに来ない。それどころか最近はやりのパンツをかぶせる行為もしてこないのだ。 別にそれを望んでいるわけじゃないが、何か変だ。そもそも俺は寝ていたのか? それすらもあやふやだ。俺は妹を探す。だが家にはいない。外へ出かけたのだろうか? まだ早過ぎる。学校だとしても早い。そう思った俺はふと……カレンダーを見た。バツ印がしてある。してあるのだが……どうして? 何故あの日から日が経っている。あり得ない。そう思った。俺は何時間……いや、何日寝ていた? 何故なら今日は連休。カレンダーには旅行と書いてある。妹は仲のいい紫っぽい髪の子と旅行に出かけたようだ。
どうやらおれは置いていかれたらしい。しかし俺はもともと行くことになってはいなかったのだろう。俺は気にするのをやめた。やめたが直後……俺は幻を見ている。誰もいるはずがない俺の家。俺以外誰もいるはずがないその家のリビングの端。そこにその子はいた。俺よりも小さな女の子がいる。緑色のワンピース姿をしている金髪の少女だ。そう言えば背こそ違うが物凄く似ている子を数日前に見た気がする。あの子とわけのわからない戦いをしていた子だ。その子はゆっくりと俺の前へと歩いてくる。けど不思議だ。足音がない。こう言ってはなんだがうちの床はガタがきはじめていてギシギシと音がする。いくら軽いといっても音がしないのはおかしい事だった。音もなく確実に俺に近づいてくる。どうする。俺はどうすればいい。そう葛藤したが、その子は目の前まで来てしまった。
「だ、誰? 」
「……へへ、初めまして。私はアリシアって言うんだよ。アリシア・テスタロッサ」
それがその子との出会い。そして……これから続くであろう命をかけた勘違いの始まり。
次回もよろしくお願いします。