夢から覚めたとき、うっすらと目の前に見える顔は、妖しく微笑んでいた。
「桜……もう少しだ。もう少しで、お前を救ってやれるからな」
左目が包帯で巻かれたその顔は、女のように美しく、だけど死神のように冷たい。
――気取ったこと言ってるんじゃないわよ。
そう言い返してやりたいが、わたしの口は動かない。口だけではない。手も、足も、まるで始めから存在しないかのように何にも感覚がなくて。
だから、わたしの頬にそっと触れてくる手を、払いのけることすら叶わない。
「もうすぐ、紅桜が完成する。そうしたら、もうお前は無理やり戦わされることもないんだ。代わりに全部あの刀が――化け物が、敵を排除してくれるんだ。だから桜、もうお前が化け物と罵られることはない。お前は助かるんだ、桜」
助けられる必要はないのだ。
この男に、助けてもらう筋合いはないのだ。
なにせ、わたしはこの人の一番大切なものを壊したのだから。
わたしが、この人たちの一番大切なものを壊したのだから。
だから、わたしはこの気取った奴に、哀しげな笑みを向けてもらう筋合いはないのだ。
こんなに優しく撫でてもらう権利はないのだ。
なのに。
それなのに。
「桜……」
さも愛おしいかのように名を呼ばれて、わたしは目を背けたかった。
だけど、それすらも叶わなくって――
そしてわたしは夢をみる。
荒れた荒野で戦う侍。敵は宇宙からの侵略者である
地球を、日本を、江戸を、地球人のものであると死守するために、血を流して戦う男たち。
その男たちと共に、わたしもこの星を守ろうと刀を振るう。
大切なものがあったから。大切な人たちがいたから。
それらを守りたいがために、わたしは数えきれないくらいの敵を討つ。
敵は異形の集。赤や緑や動物のようなものたちを、斬る。切る。伐る。
しかしそれらの形がだんだんと変わっていく。
どんどん、人間になっていく。見覚えのある顔に変わっていく。
それでも、わたしは斬るのをやめない。
サングラスをかけたいつも笑っている男を斬った。
優しげな風貌をした独特のカリスマ性がある男を斬った。
いつも人を見下している色気のある男を斬った。
それでも、わたしは斬るのをやめない。やめることができない。
そしてとうとう、わたしはやる気がなさそうで、だらしのない男に刀を向ける。
その時、その男は持っていた刀を捨てた。
そして、言うのだ。
『お前に斬られるなら本望さ』
そして、笑うのだ。
『それで、お前が救われるのなら、いくらでも俺の命、くれてやらぁ』
そして、
『だけど、約束してくれ。先生を……俺の大事な友が幸せに暮らせる場所を、守ってくれ――』