将軍といって思い浮かべるのは、ちょんまげとでっぷりしたお腹だった。
ちょんまげは昔からの伝統だろうし、江戸一番権力を持っているのが将軍というものだから、きっと私腹の肥え具合は身体も比例しているんだと思う。
きっと、内面が滲み出るようなブオトコだろうと。
ちょんまげは想像通りだった。
しかし、身体はスレンダーだった。顔立ちものっぺりしながらも真面目さが滲み出ていて、そして声も落ち着くいい声だ。
「お初にお目にかかる、
そんな愛想のいい笑顔を向けないでくれたまえ、将軍よ。
わたしは天守閣に乗り込む気は満々だったが、貴方様にお会いするつもりは微塵もなかったのですよ。大胆かつひっそりと潜り込んで、こそっと用事だけ済ませて退散するつもりだったのですよ。
まぁ、真選組の上官、警視庁長官
けどね、まさか将軍様にお会いするとは思わなかったのよ。
――といった目で左隣の近藤を見る。近藤も目が泳いでいた。気持ち悪いバカっぽい笑みを浮かべている。
次に、右隣を見た。松平のおっちゃんは短い白髪に、将軍の前だというのにサングラスをかけたままの、よく言えばダンディなお偉いさんらしい。ここに通される前に松平にも挨拶と、経緯を話したのだが、その時聞いた声は、とても渋く、深みのある、二度と忘れないような独特な声音だった。そんなおっちゃんは、近藤とはうって違い、のんびりと胡坐を掻いて、わたしの肩を叩いた。
「いやぁ、悪いね将ちゃん。こいつ将軍の前だから緊張してやらぁ」
「固くならないでくれたまえ。良ければ、君も将ちゃんと呼んでくれても構わない」
将ちゃん呼べるかぁぁぁぁぁぁあああああああああ!
胸中叫びながらも、わたしは額の脂汗を拭う。ゆっくりと一呼吸し、頭を下げた。
「初めてお目にかかるぜぃ、将軍様よぉ。おれぁ、真選組一番隊隊長、沖田総悟でさぁ」
(桜ちゃぁぁぁぁぁぁあああああん!)
もの凄い小声で、近藤が叫んでくる。
(どうして将軍様にそんな喋り方しちゃうの? ねぇ、将軍様だよ将軍さま!)
わたしは疑問符を返す。
(沖田少年、こんな喋り方してなかった?)
(普段はね! 普段は確かにそんな生意気な感じだけどね! 常に見下した敬語でいらっとするときおれもあるけどね! けど、さすがに今は将軍様の前だから! てか、そういったクオリティ求めてないからっ!)
(ちぇっ)
(なに? 今、舌打ちした? 残念なの? 何気に楽しんでたの?)
前を見ると、将軍は少し残念そうな顔をしていた。今の会話が聴こえたわけではなさそうだが、なぜだろうか。
そんな将軍が、気を持てなおしたように言う。
「しかし……気を悪くしたら悪いのだが、女みたいな凄腕剣士が真選組にいるとは聞いていたが、こんなにも美しいとは思わなかった。まるで女形俳優さながらだな」
「ありがてぇお言葉です」
わたしは将軍にむかって、ぺこりと頭を下げた。まぁ、当然といえば当然。なにせ、女が男装しているのだから。