「いやー、トッシーが好きな歌の一つなんだけどさー、今の土方さんにぴったりだなぁって思って」
「やめろ、そーゆー著作権的に危ないのは」
「ほんと、土方さんって総悟くんと同じようなこと言うのね」
「あぁ?」
今度は口に出して言う。それに土方は、
「てめぇが言いたくなるようなこと、言うからだろーが」
と、やっぱりそれを嫌がることなく、認めた。
「なんで土方さん、総悟くんに嫌われてるの?」
「知らねーよ。俺が聞きたいわ。昔っからだ、あいつが俺を一方的に嫌ってるのは」
土方は煎餅を完食すると、上着のポケットを漁っていた。
「土方さん的には、やっぱり仲良くしたいの?」
「そりゃあ……な。武州から一緒に出てきた真選組以前からの仲間だしな」
タバコを口にくわえて、火を付けた。ライターがマヨネーズの形をしているのが可愛らしい。
「けど、昔っからだ。今さらそんなの、気にしてねーよ」
――まぁ、ミツバさんも土方さんのこと好きそうだしね。
しかし、少なくとも、沖田が土方のことを嫌う理由は、わかったような気がした。
大事な姉が、よその男を好いていることは、気に食わないだろう。
ましてや、土方のこと態度だ。ミツバの好意を知った上での拒絶とか、充分にありうる。
――不器用だなぁ。
「ごめんねー素直じゃなくってー」
「だから歌うなっちゅーの!」
その時、ボーと船の寄港の合図が鳴る。
土方はタバコを消して、双眼鏡に持ち替えた。
けっこう大きな船だ。雰囲気的には、貿易船。シンプルな形をした船である。
「お、ビンゴだな」
土方が言った。
「あの船を探してたの?」
「あぁ。
「刀とかってこと?」
「もっとタチの悪いもんさ。拳銃やら、マシンガンやら――そういうもんは、政府で輸入や流通を取り締まってるんだがな。近頃、攘夷浪士の奴らの武装が進んでたから、山崎に調査させてたのが、ようやく実ったってもんだ」
わたしは小さく笑った。
「その山崎が、その徹底的証拠の瞬間にいないと?」
「あぁ、そのパフェ吐血事件とやらでな。で、その吐血事件の犯人は誰なんだ? 目星はついてんのか?」
土方がわたしの方を見て、にやりと笑う。
わたしも、同じような笑みを浮かべた。
「大丈夫よ。被害者が訴えなければ、犯罪にはならないんだから」
「よく言うぜ」
夕陽が、海に隠れようとしている。
その後、屯所へ帰る前に、蔵場当馬の屋敷へ寄ることになった。
あくまで、寄るだけ。今後、本格的な調査のための足掛かりである。
なんでも、来週に再び大きな交易があるとの噂があり、その時には現行犯で捕らえようという魂胆らしい。
土方の運転するパトカーに乗って、その屋敷の前へ。
けっこう大きなお屋敷だった。一目でわかる、お金持ちの家。召し使いも何人も抱えているであろう。
――この家も、いつかは潰れるのかな。
そう考えて、わたしは思わず苦笑した。
「なんだ? 何か変なもんでも見つけたか?」
隣の土方が、つまらなそうに訊いてくる。
わたしは首を振った。
「いや、土方さん、けっこう丁寧な運転するんだなー思って」
「ルールを守るお巡りが荒い運転してどーすんだ」
「お仕事お疲れ様です」
屋敷の正門前を通ろうとした時、車道を邪魔するように立ち話をしているカップルが、ライトに照らし出された。