偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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結婚を人生の墓場だと決めた人は誰か④

「ようやく妻の容体が落ち着きました」

 

 顔の濃いおじさんだった。特に強い目力が、今は安堵の色を浮かべているのが、不釣り合いのように思えた。

 

 そのおじさんが、深々と頭を下げる。

 

「こんな夜分遅くまで、皆さま、ミツバのためにありがとうございます」

 

 幸の薄いミツバの婚約者は、この顔の濃い男のようだ。

 

 この男はミツバのことを妻と呼んだが、婚約しただけで、まだ籍は入れていないらしい。

 

「んで? その奥さんは?」

 

 銀時は饅頭を食べながら、その男に訊く。

 

「今はよく眠っております。ただ、明日からは用心のために入院しようということになりまして」

「へぇー、じゃあ結婚式は延期になんのか? 今日ミツバさんに誘われたんだけど」

 

 そう訊きながらも興味なさげな銀時に、その男は苦笑した。

 

「残念ながら、そうなってしまいますね。きっと一番残念なのはミツバなのでしょうが」

「そうでもねェーかもなー、弟君!」

 

 銀時は縁側の方を向く。ゆっくりと、出てくるのは誰でもない、ミツバの弟だ。

 

「別に、俺ァ、姉上が幸せなら、なんでもいいんだけどな。テメェさえいなければ」

 

 沖田の細めた視線の先は、わたしの頭に手を置いていた土方の顔。

 

「どうしてテメェがここにいるんだ? 何しに来た?」

「……別に、たまたまさ」

 

 その時の土方の表情は、見上げてもわたしからは見えなかったが。

 

 土方はわたしのそばから離れて、縁側へ向かう。

 

「邪魔したな」

 

 そう小さく言い残して、土方は部屋から出ていく。

 

 その少し寂し気な背中を一瞥して、沖田が次に睨んできたのは、わたしだった。

 

「で、この痴女猫はこんな遅くまで、あんなヤローと何してたんだ? 言えねーことか? あ?」

 

 ――おーおー、やっぱりこう来ましたか。

 

 予想通り機嫌の悪い沖田に、わたしは苦笑を返した。

 

「具合の悪くなった山崎の代わりに、お仕事手伝っていただけだよ。ちゃんと言って行ったでしょ?」

「誰が許可した、誰が」

「別に、止められもしなかったと思うけど? 大好きなお姉ちゃんの前で、そんなドスの効いた声、出せないもんねぇ?」

「テメェ……」

 

 沖田がごもったところで、わたしはニヤリと笑った。そして、ふすまの位置で正座している男へと向き直る。

 

「騒がしくて、申し訳ございません」

 

 手を揃えて頭を下げると、男は首を振った。

 

「いやいや、総悟君と仲が良いようで、羨ましいくらいですよ。私も、これから仲良くできたらいいのですが」

「だって、総悟くん?」

「……お(いとま)すんぞ」

 

 拗ねたような顔をして去ろうとする沖田を、男は引き留めた。

 

「帰ってしまうのかい? 今晩くらい泊まっていっても――」

「明日早くから、仕事があるので」

 

 言葉を遮って会釈をし、沖田は部屋を後にする。

 

「やれやれ」

 

 苦笑しながら、わたしも立ち上がった。後を追わないと、ますます機嫌が悪くなるだろう。そこまで虐めるつもりはない。

 

「桜さんも帰ってしまうのですか? 夜道は危ないでしょう。ぜひに泊まっていって下さい」

「屋敷を出たところで、総悟くん、待っていてくれてると思うので。そうでなくても、ここに兄がいますし」

 

 その兄は、いつの間にか横になって鼻をほじっていた。

 

「へ、もう帰んの?」

「帰るの!」

「へいへい」

 

 まるで覇気のない返事をして、よっこらせと掛け声と共に立ち上がる銀時を軽く蹴る。

 

「ご兄妹……なのですか?」

 

 男にそう問われて、わたしはニコリと微笑んだ。

 

「では、また機会があればお会いしましょう。蔵馬当馬(・・・・)さん」

 

 差し障りのないように、わたしは銀時の袖を引いて、その場を立ち去った。

 

 縁側を歩いていると、ミツバの寝ている姿がふすまの隙間から見えた。

 

 一瞬、その場で立ち止まると、銀時が小さな声で訊いてくる。

 

「お前、あの男と知り合いだったの?」

「……いいや」

 

 貿易商人、蔵馬当馬。

 

 わたしは、あの男に一度も名乗っていない。

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