「総悟くん、もう仕事に行ったの?」
朝、六時。曇り空でお日様は挨拶したように見えない空だが、わたしは元気に起きていた。きちんと桃色の髪もとかして、身だしなみもばっちりだ。
訓練をする時間なのだ。
本当ならば、沖田と訓練するのが日課のはずなのだが、かれこれ一週間、その日課が寂しいものとなっていた。
「ねぇ、土方さん。総悟くんに何の仕事させてるの? てか、顔すらろくに合わせてないのだけど」
「極秘情報だ。言えねーって、何度聞けばわかるんだ?」
土方は庭の大岩に腰かけながら、タバコをぷかぷか吸っている。どうやら、朝の一服というものらしい。
そんな土方に、わたしは頬を膨らませながら抗議した。
「なによ今更極秘情報なんて! わたしと土方さんの仲じゃないっ!」
「俺とお前がいつどんな仲になったよ……また親友とか言うつもりか?」
「港で密輸のことはあっさり――」
「オイ!」
慌てた土方が、手でわたしの口を塞いでくる。
「蔵馬の件は他言すんな言っただろうが! 他の奴らにバレたら、総悟の立場がなくなんだろ?」
小声でそう言ってくる土方に、わたしは唇を尖らせた。
沖田の姉であるミツバの婚約者、蔵馬当馬が攘夷浪士に武器の密輸している。
いわば、蔵馬は真選組の敵ということだ。
その敵と縁者になる沖田の立場を危うんで、土方はこの件を極秘裏に始末したいらしい。
だから、わたしも口止めをされているのだが、
「じゃあさ、わたしにも秘密にしておけば良かったじゃない?」
そう尋ねると、土方はタバコに口を付けて答える。
「てめぇを野放しにしておくと、それこそ話大きく広げてくれそうじゃねぇーか」
わたしは弱弱しく首を傾げた。
実際、ミツバの婚約者が敵だとわかって。
本当ならば、その婚約を破棄させたいと考えてしまうのだ。
悪いやつと結婚だなんて、不幸になるに決まっている。
敵と結婚するなんて、沖田が悲しむに決まっている。
理由をあげるならば、色々出てくるが、でも、それを土方は否定するのだ。
「……俺だって、あいつにゃ幸せになって欲しかったんだよ」
独り言のように呟く彼は、わたしのことを見ていなかった。
想う女性は、一人なのだ。
病弱で、故郷に一人置いてきた相手が、結婚するという。
自分が幸せにしてあげることができなくても、幸せになってほしいと願うことを止めることはできないのだろう。
それが、ひと時のまやかしだとしても。
わたしは、そんな彼の独り言を聞かないことにして、わざとらしく首を傾げて見せた。
「そんなこと……しないと、思うけど?」
「嘘っぽくに言ってくれるなぁ、おい」
苦笑して、土方はタバコの吸い殻をケースにしまう。
「で? てめぇは俺に何の用なんだ? 総悟の代わりに訓練付き合えってのか?」
「いや、そんなことしたら、総悟くんの機嫌がまた悪くなっちゃいそうだから違うのだけど」
「……お前、なんだかんだ総悟のこと好きだよな?」
「土方さんほどじゃないよ」
ミツバのことを願って。
沖田のことを想って。
――忙しい男だねぇ。
そんな男に、わたしができることは対して多くはないけれど。
わたしは、素直じゃない男に歌ではなく、曇天に負けない満面の笑みを送る。
「一緒にお散歩に行こう!」