偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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結婚を人生の墓場だと決めた人は誰か⑦

 その願いは、姉弟同じものなのだろうか。

 

 ふと、そんなことを考えながら、わたしは踵を返した。

 

「大丈夫ですよ、わたしこう見えても、強いんですから」

 

 もしかしたら、この言葉はミツバにとっては嫌味なのかもしれない。

 

 だけど、たとえ姉弟の想いが違ったとしても。

 

 わたしが強ければ、両方守れるだろうから。

 

 愛おしげに桃色の胡蝶蘭の花束を見つめる彼女の向こうで、紅葉が一枚落ちた気がした。

 

 

 

 

 その日の夕方。

 

 わたしがふと、道場で汗を流そうと思ったのは、ただの気まぐれだった。

 

 道場の扉の向こうで、久々に見る沖田の姿は、とても疲れていた。

 

「土方さん、お願いします。少しだけでいいんです。蔵馬を見逃してください。姉上に、人並みの幸せを味合わせてやりてェんです」

 

 そう言って、頭を下げる沖田に、土方は背を向けた。

 

 それでも、沖田は言う。

 

「自分のことを置いといて、俺の世話ばっかして、婚期も遅れちまった。それだけじゃない、姉上は土方さんを――」

 

「……取引は明日の晩だ。刀手入れしとけ」

 

 沖田の声を遮り、冷たい声音でそう言う土方と、目が合う。もちろん、土方はカツラを外し、私服の道場着を着ているのだが、なぜか罰の悪そうな顔をしていた。

 

 その奥にいる沖田の歯ぎしりが聴こえる。

 

「気に食わねェ……」

 

 沖田が、竹刀を上段に構える。

 

「土方ァァァアアア!」

 

 一足で詰め寄ってきた沖田の竹刀を、土方は自分の竹刀で軽く受け止めた。沖田は構わず乱撃を繰り返すものの、太刀筋がすべて甘い。たとえこちらに武器がなくとも、かわすのは容易であろう。

 

 ただ、道場内に彼の足踏みが無駄に響く。

 

「テメェだけは! テメェだけはァ!」

 

 わたしは知っていた。ミツバの余命は、あと僅かなのだという。

 

 きっと、そのことを想っての、沖田の願いなのだろう。

 

 最期に、素敵な結婚を。最期に、人並みの女の幸せを。

 

 必死の沖田に、わたしのことは見えていない。

 

 沖田の剣の腕は、真選組随一だという。

 

 ならば、土方より沖田の方が強いということ。

 

 だけど、土方だって、一流の剣士には違いないのだ。

 

 迷う剣を、打ちのめすのは容易い。

 

 土方が竹刀を突く。体制を崩した沖田に、一撃、また一撃と確実に当てていき。

 

 沖田が膝を崩すのは、早かった。

 

「知らねぇーよ……知ったこっちゃねぇーんだよ。お前のことなんざ」

 

 倒れる沖田を背に、そう言い残して、土方は去っていく。

 

「気に……食わねェ……」

 

 そう呟いて、目を閉じていく沖田を、わたしは見下ろした。

 

「あーあー血だらけになっちゃって。土方さんもムキになっちゃって、大人げないわねぇー!」

 

 敢えて聴こえたらいいなと思って、わたしは声高々言い放つ。

 

 打ちどころが悪かったのか、それとも良かったのか。沖田は頭上でこんな大声叫ばれても、目を閉じたまま気を失っていた。

 

 ――ま、ここまでやんないと、総悟くん止まりそうにないもんね。

 

「てか、総悟くんをわたしが運べってか? 責任持って、自分で部屋まで運んでって欲しいんだけど。華奢なわたしが腰痛に悩んだら、どうしてくれるんだか」

 

 独り言を呟きながら、しゃがみ込む。

 

 こめかみが切れてしまっているらしい。目に血が入らないように、軽く拭う。

 

「可愛いねぇ」

 

 もしも起きていたのなら、絶対に嫌がるようなことを呟いて、わたしは笑った。

 

「人並みの幸せが、その人の幸せとは限らないんじゃないかな?」

 

 だからこそ、一生懸命な彼のことを、こう想うのだ。

 

「ほんと、可愛いねぇ」

 

 

 

 

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