夜。秋も終わりが近づく頃になれば、陽が落ちるとけっこう寒い。
だけど、今日のわたしに抜かりはなかった。埠頭の倉庫内。物陰に潜む土方に出会い頭、声をひそめながら、それをアピールする。
「ほら、土方さん! 見てよこの完全防備っ! 暖かいよ!」
「もー突っ込みどころがありすぎるが、今日の俺は優しいぞ! どこだ、どこから突っ込んで欲しい? 存在か? お前というバカがどうしてこの世に誕生してしまったのかから突っ込めばいいのか?」
本当に、完全装備なのだ。
いつもの着物の上に、コートのように真選組の黒いジャケットを羽織った。中には拳銃や爆薬、手錠、まきびしなど、もしかしたら使えるかもと思った武器を、出来るだけ詰め込んできた。
足元も黒い特注ブーツを履いていた。つま先と踵には鉛を入れてあるのだ。すねにも鉄板を入れてもらっている。
腰にはもちろん、いつもの刀を差して。背中には、マシンガンを背負った。
そして、頭には防寒兼、正体を隠すための、アフロである。
「えー、どこに不満があるのよ? 一日でこれだけ準備するの、けっこう頑張ったんだからね」
「そんな無駄な頑張りしなくていいんだよ! てか、その装備品どーやって手に入れたんだ?」
「屯所の倉庫管理している人に、『副長から頼まれたから貸して!』て言ったら、あっさり貸してくれたよ?」
「あいつら……帰ったら、腹切りだな。また局中法度を増やさねばならんのか……」
そう頭を抱える土方に、わたしは満面の笑みを返した。
「うん! だから、ちゃんと一緒に生きて帰ろうね!」
「……ったく、てめぇはよ」
土方は今、絶賛潜入中だった。埠頭の倉庫の陰に身をひそめながら、機会を待っている。今しがた、大きな貿易船が港に到着した。大きな木箱を一つ一つ、船から下している最中である。時期に、蔵馬当馬が荷物の確認に現れるだろう。荷物が開いた時に、現行犯で一斉逮捕する算段である。
土方が荷卸しをチラチラと確認しながら、小声で言ってくる。
「どーしてここに来た? 期待してるんなら悪いが、守ってやる余裕なんてねぇーぞ? 遊びじゃねぇーんだ。帰んなら今のうちだぞ?」
「大丈夫よ、そんな期待してないからさ」
土方の隣に、ひょこっとしゃがむ。
「わたし、この装備の準備して、夕方から土方さんたちを尾行してたんだよね。でも、全然気づかなかったでしょ? 土方さんが山崎に、このことは極秘だって言いながら、一人でここ向かっているのだって、ちゃんと見てたんだよ?」
「適当なこと言ってんじゃねぇーよ。お前なんかに尾行されて、俺が気づかないわけねぇーだろ」
「今日はお昼ご飯に商店街の定食屋さんで、マヨネーズ丼らしきものに七味を多めにかけて食べてたよね。んで、食後から今までに吸ったタバコの本数は、十二本。生活習慣病で死ぬのか、肺炎で死ぬのか、今からそんなに楽しみにしてんの? 趣味悪すぎるでしょ」
土方は目を丸くしてから、
「……俺が死ぬのは、誰かの刀で貫かれた時さ」
タバコの煙を吐くように、ゆっくりと言って。
「くだんねぇーこと話してたら、逃がす暇もなくなっちまったじゃねぇーか」
土方が苦笑した。
積み重ねられた木箱のそばに二人、いい身なりをした男たちが現れる。
顔の濃い二人組だった。一人は、ミツバの婚約者、蔵馬当馬。もう一人もぎょろっとした目をした、蔵馬よりも細身で長身の、ちょんまげの男だ。
その二人が、開けられた木箱から取り出したのは、黒光りする細長い銃だった。マシンガンよりも鋭い形をした銃は、確かライフルと呼んだか。
明らかなのは、その武器が一介の商人が持つには、明らかに危険な代物だということだ。