わたしの手を引いているのは、土方だ。
「振り向くな、走れーっ!」
言われなくても、走っている。
背中に感じるのは熱気は、足を止めればあっという間にわたしを溶かしてしまうだろう。
倉庫から飛び出た瞬間、もう一回弾ける音がする。
そして、ようやく振り返ると、想像通りに倉庫が炎上していた。
汗だくで、膝に手を置く土方が、荒い息を整えている。
「一応訊くけど、これやったの、土方さん?」
「あー……だったら、こんな慌ててねぇーよ……」
想像通りの返答に、わたしは嘆息した。
この爆発は、わたしたちを仕留めるために敵が行った行為なのだ。
わたしたち以外に、逃げれた敵は何人だろうか。
何人が、同士討ちのような形で、殺されたのだろうか。
――全く、胸糞悪いとは、まさにこのことよね。
そんなわたしを、土方は睨み上げていた。
「てめぇ、元気だな……」
「ん? おかげさまで、怪我一つしてないけど」
首を傾げるわたしに、土方は嘆息した。
「ちげぇーよ。息一つ乱れてねぇーじゃねぇーか。カツラすら取れてねぇし」
「まぁ……鍛えてますからねぇ。誰かさんと違って、タバコ吸わないし」
「ちっ、俺も禁煙すっかな」
舌打ちする土方に、わたしはアフロのカツラを整えながら、口角を上げた。
「出来ないことは言わない方がいいわよ……ねぇ、そう思わない?」
何を気取っているのか知らないが、コンテナの上に立つ二人に、わたしは同意を求めた。
「見下ろされる気分はいかがですか、アフロレディ?」
目が無駄にキラキラしているお腹回りが厚い蔵馬と、目が無駄に黒く、ひょろっと長い武市の周りには、様々な武器を持つ浪士がまたずらずら勢ぞろいしている。
波が強く防波堤を打つ。絶え間ないその音は、わたしの苛立ちを余計に引き立ててくれた。
「イケメンならいざ知らず、アンタたちみたいなオッサンに見られて嬉しい女子なんているわけないじゃない」
「なら、高杉さんなら問題ないのでは?」
わたしの軽口に丁寧に答えてくる武市を、わたしは鼻で笑い飛ばした。
「あれがイケメン? ただのストーカーでしょ。土方さんの方が、よっぽどイケメンだわ」
「そうですかね。見た目レベルなら、どっこいどっこいだと思いますが。二人とも目つき悪いですし」
「確かにそうだけど……てか、わたしの周り、目つき悪い男が大半だけど」
わたしは堂々と、自慢する。
「土方さんはねー、他の男と結婚してしまう好きな女に、胡蝶蘭を贈っちゃうような男なのよ!」
「オイ、なんで今そんな話してんだ――」
「ほぉ……ちなみに色は?」
顔を赤らめながら唾を飛ばしてくる土方と、武市が感心の声は同時だった。
「よく聞いてくれたわね……ピンクよ!」
「なるほど、ピンクですか……それは見た目の割に、イケメンだと認めざる得ないですね」
「なに、関係あんのか! 花の色が今何の関係あんの!」
わたしと武市を交互に見てくる土方に、武市は変わらぬ表情で答える。
「胡蝶蘭には『あなたに幸せが飛んで来ますように』という花言葉があります。そして、ピンクの胡蝶蘭だと、もう一つ、『あなたを愛しています』という意味が加わります」
「なっ!」
土方が赤面しながら、固まる。
「けど、そのくらいなら高杉さんだって、するんじゃないですか? そういうロマンチックなこと、あの人好きそうですけど」
「気障な奴がそんなことしたって、いかにも狙ってやりました感あって、むしろ気持ち悪いのよ。この花言葉なんて全然知りませんっていう男がするから、カッコいいんじゃない」
「なかなか面倒な趣味してますね、あなた」
「褒めてくれて、ありがとーございます」