おどけるようにお辞儀をすると、土方が頭を掻きむしっていた。
「なんだっ! 俺は馬鹿にされてんのか?」
「いや、全力で褒められてんのよ?」
「てか、お前ら花言葉なんて知ってんのか? なんでてめぇみてぇーなオッサンが知ってんだよ!」
指差す土方に、武市は嘆息する。
「オッサンと呼ばれるほど年老いたつもりはありませんが……花言葉なんて女落とそうとしたことがあれば、たしなむのは紳士として当然でしょう? あれですか、あなたはいい歳になるまでまともに女の一人口説こうと思ったことすらなかったんですか? やれやれ、そんな童貞のくせに婚前の淑女を落とそうなんて失礼甚だしいにもほどが――」
「るせーよ、ちょんまげ……待ってろ、今すぐその首ごとそのちょんまげ斬り取ってやらぁ……」
血走った眼をして、構える刀は狂気で震えている。
――そっか、土方さんドーテーなんだ!
と、わたしが両手を打とうとすると、大きな咳払いが、それを中断させた。
「鬼の副長は、わざわざそんな不毛な会話をしにここまでやって来たのかね」
武市の隣に立つ、蔵馬である。呆れを通り越して、怒っているのか。
思わず、わたしは鼻で笑う。
「なに? ないがしろにされて、拗ねちゃったの? 所詮、三流ね」
すると、蔵馬の何かがぷちっと切れたようだ。
「てめぇーら、やっちまえっ!」
向けられる銃口。飛び降りてくる剣士。
彼らを見て、わたしは高鳴る鼓動を押さえることは出来なかった。
「掛け声まで、三流ね!」
刀を片手に、駆ける。振り下ろされる刀を、薙ぎ払い、飛んでくる銃弾を返し刃で斬る。倒れかけている浪士を足場に、跳躍した。
「桜っ! 無理すんな!」
一人突っ走るわたしに、土方が静止の声を掛ける。
そんな土方も、降り注ぐ銃弾を避けながら、何人もの浪士と対峙していた。
――人の心配なんか、する暇ないくせに。
小さく微笑みながら、コンテナよりも高く飛び上がり、わたしは高らかに教えてやるのだ。
「うちの副長は、カッコいいんだから!」
だって、わたしは知っているんだから。
この男は、仕事の為だけに、一人で乗り込んできたわけではないのだ。
この男は、好きな女の為だけに、一人で乗り込んできたわけではないのだ。
わたしはここに乗り込む前に、土方と山崎が話していた。
その時、土方が言っていたのだ。
『親族に敵との内通者がいると知れれば、立場がなくなんだろうが』
誰の立場がなくなってしまうのか――それは、考えるまでもないことで。
たとえ、その本人が望んでいないのだとしても。
それでも、この男は仲間を守ることを第一に考えて、敵しかいない所に一人、迷うことなく足を踏み入れたのだ。
「三流は三流らしく、無様に散りなさいっ!」
わたしは蔵馬の首を狙って、こいつの婚約者がかつて弟に送った刀を、振り下ろす。
星も見えない空の下で、雨がポツリと濡らした刃は、武市の刀に遮られる。
「高杉さんの話通り、大した剣の腕ではないようですね」
余裕綽々と言ってくるが、合わせる刃から伝わる力に、わたしは苦笑した。
「さすがに、あなたに言われる筋合いはないわ」
刀を滑らせ、手首を返す。足を踏み出して体ごと武市を押すと、蔵馬も巻き込んで二人は態勢を崩した。そこに迷うことなく、武市の腹に刀を突き刺す。