武市が吐血する。その苦痛な顔を見て、わたしの口角は自然と上がっていた。
その時だ。下から聴こえていた数々の嗚咽の中に、聞き馴染んだ声がして。
――土方さん?
振り返ると、眼下の土方が足を押さえて、片膝をついていた。足からは、撃たれたのだろう。ある一か所から血が出ているようである。その周囲が、血で赤黒く染まっていた。その隙を狙うように、浪士が土方の回りに集まろうとしている。
「土方さんっ!」
わたしは即座に刀を引き抜き、踵を返した。コンテナの上から躊躇うことなく飛び降りて、刀を振り回す。浪士たちが一歩下がるのを確認して、わたしも屈んだ。
「大丈夫?」
「るせー。こんくれぇ、大したことねぇーよ」
頭から血を流していた。全身傷だらけで、脂汗を掻きながら、強がる土方の腕を肩に回す。
「桜、どういう……」
わたしの行動に目を見開く土方に、顔をしかめる。
「え? 土方さんを逃がそうとしているのだけど? その足じゃ、まともに走れもしないでしょ」
「馬鹿言ってんじゃねぇ! 何人敵がいると思ってんだ?」
土方の言う通りだ。今も背後には刀を振り上げる浪士と、銃を構える敵がいる。わたしは懐の中から、奇妙なこけしのような人形を取り出した。頭に刺さる栓を歯で引き抜いて、放り投げる。
爆音。
その熱風を背に受けながら、横から迫っていた浪士を一人、一閃する。
そして、低い声で言った。
「馬鹿言ってるのはどっちよ? 土方さん一人じゃ逃げられないでしょう?」
「ちげーよっ! てめぇが一人で逃げろっつってんだ――」
「あんた置いて逃げるわけがないでしょう!」
怒鳴る土方よりも、さらに大きな声で怒鳴る。爆風が、引いていくような気がした。
わたしが手に持つ刀を土方の目の前に振り下ろす。雨が、大粒で降ってきた。血塗られた刀を、洗い流していく。
「この刀はねぇ! 元はミツバさんが総悟くんにあげたものなの! ミツバさん、もう長くないんでしょう? そんなミツバさんは、決してあんたと一緒にあの世に行くことなんか、望んでやいないと思うけど!」
「今、あいつに何の関係があんだよ!」
「わたしはあの人が叶えられないことをしに来たの! あの人がしたくても、どんなに願っても、出来ないことを――この刀で、馬鹿なあんたを守るために、ここに来たの!」
「随分と性格が悪いですねぇ……」
その声は、頭上から投げかけられた。
「死にかけの女が出来ぬことをやってのけて、優越感にでも浸るつもりでしたか?」
大きなコンテナの上から、蔵馬が悠然とわたしたちを見下ろす。倒れる浪士たちを踏みのけて、わたしたちを取り囲むように、また何十人もの浪士たちがじわじわと距離を詰めていた。
目に入る雨粒に顔をしかめながら、わたしは言い返した。
「あんたに言われる筋合いはないわよ。あんたを守ってくれたあのちょんまげはどうしたのよ?」
「道具は、使えなくなったら捨てる――それだけの話でしょう?」
蔵馬は迷うことなくそう言いのけて、それこそ優越感に浸ったような笑みを浮かべた。
「それにしても、残念ですねぇ……ミツバも古い友人を亡くすことになるとは」
土方を見下ろす目は、まるで人を見るような目ではなく。
「あなた方とは、仲良くやっていくつもりだったのですよ。真選組の後ろ盾を得られれば、自由に商いも出来るというもの。そのために縁者に近づき、縁談も設けたというのに……まさか、あのような病持ちとは」