「桜ちゃんっ!」
尻餅をつくわたしに覆いかぶさるように、山崎がわたしを抱え込んでくる。
キン――と鼓膜が震え、熱と、爆音と、煙に巻かれる。
「トシィィィィイイイイッ!」
土方の名を呼ぶ近藤の声が聞こえた。目の前の山崎は何回か咳をして、わたしに弱弱しく微笑んでくる。
「だ、大丈夫?」
「う……うん……」
一瞬、反応が遅れた。
その一瞬に、おそらくバズーカだろうが、撃ち込まれ、土方と、山崎に助けられた。
真選組のみんながやって来て。土方や山崎と少しだけ談笑して。
その結果――
「――山崎、桜のことは頼む……俺は……蔵馬を追う」
硝煙が開けて見えた土方の背中は、さらにボロボロだった。足からの流血は勢いを止めず、刀を支えに使うことによって、かろうじて立っている、その後ろ姿に。
――今、かけれる言葉なんか、あるわけないじゃない。
勢いをつけて走り出す土方の背を見つめながら、わたしは山崎に訊いた。
「ねぇ、なんか遠くを撃てそうな武器、ある?」
「え……? あれ、とか……?」
山崎が指差したのは、少し離れたコンテナの上からこちらを見下ろす浪士だった。鋭く、長い銃に付いている小さなレンズを覗き込んで、照準を合わせているらしい。ライフルというものだ。
「よし、山崎。刀借りるわよ」
言うのと同時に、わたしは山崎の腰から刀を抜き去り、頭の上の高さで、コンテナにそれを突き刺した。そして、それを足場にコンテナの上に登る。
「さ……桜ちゃん、何してんの!」
「いいからさっさと上がって来なさい! 副長からわたしのこと頼まれたでしょう!」
狼狽える山崎を叱責すると、「えー」と非難の声を上げながら、山崎も同じような感じで上に登って来ようとしていた。
わたしは彼を置いて、走る。浪士は数人いるものの、ライフルを持つ一人だけの腹を斬り、ライフルを奪い取ると同時に蹴り落とす。
すると、いくつもの銃口と剣先がわたしに向けられた。わたしは着ていたジャケットを脱ぎ、走ってくる山崎に投げ渡す。
「山崎、あとは任せた! 武器たくさんそれに入ってるから、わたしのこと守ってね」
「え、え……ちょっ! おもっ、これ重過ぎんだけど、桜ちゃんっ!」
あたふたとする山崎にも、浪士が数人向かうが、わたしは気にせず、近場の一番高いコンテナに上がった。
――いた。
コンテナの間の道を三個挟んだ向こう、港沿いの広めの道路を、走り去ろうとする車が一台。その車の上には、土方らしき黒い恰好をした男がしがみ付いており、その車と並走する一台のスクーターに乗った白い男と、何やら揉めている姿が見える。
その白い男の姿を見て、わたしは苦笑した。
――わたしの出番、なかったかな。
しかし、車の勢いは止まらない。ふと、その車の先で、真選組の制服を着た少年が、一人佇んでいる姿が目に入る。彼は刀を構えているようだ。車を一閃するつもりなのだろう。
それに気づいてか、土方も車の側面に移り、車を失速させようとしていた。それでも、車の勢いは止まらず。
わたしは、ライフルを片手で構え、すぐさまトリガーを引いた。それを三回。狙い通りに後輪に当たったのだろう、車は少し後ろ側に傾き、横滑りに回転しだす。
そこを、少年がすれ違いざまに一閃した。
今日何回の聞いた爆発音と共に、赤い焔が立ち昇る。
雨を降らす曇天の夜空を、その焔は赤く鮮やかに彩っていた。
「まったく……姉が危篤だって時に、弟までこんなとこ来て、どうするのよ」
遠くで、土方と沖田が何か見つめあっている姿を見ていると、
「さ、桜ちゃん……、そろそろ、そろそろ……」
すぐそばで聴こえた情けない声に振り返ると、山崎が必死にマキビシを投げながら、泣いていた。その必死さとマキビシの量に、確かに敵は近寄って来ないものの、少し離れた場所で、呆れたように立ちすくんでいる。
「ねぇ、山崎……一応、真選組の古株なんだよねぇ? 総悟くんよりも、一応、年上なんだよね?」
「一応じゃなくて、年上だけど! 今年でもう三十二だけど!」
「うそぉ!」
全ての者に平等に落ちる雨の下、わたしは今日一番大きな声を上げた。