雨が上がった後の朝焼けは、いつも以上に神々しく見えた。
それは、物理的なものなのか、それとも、気の持ちようなのか、わたしにはわからない。
それでも、彼女が今、静かに息を引き取ろうとしていて。
それが、こんな綺麗な朝の旅立ちならば、きっと良い旅路になるだろう。
「おー、お前も病室付いてなくていいの?」
病院の屋上に出ると、出入り口のすぐ傍で、銀時が煎餅を食べながら、くつろいでいた。
「お前も?」
わたしが首を傾げると、銀時は陰の向こうを指差す。そっと覗き込むと、土方らしき背中が、もしゃもしゃと一人、何かを食べているようだ。治療は受けたようで、あちこちに包帯が巻かれている。
ずっと一人でぶつぶつと言っているようだが、それに聞き耳を立てるつもりもなかった。
「姿がないと思ってたら、こんなとこいて……最期くらい一緒にいればいいのに」
「それじゃあ、弟くんの立つ瀬がないだろう」
「ま、それもそうか」
そう納得して、わたしは銀時の隣に座る。
「なに? ホントにこんなトコいていいの?」
「それこそ、姉上の立つ瀬がなくなるでしょう?」
「ま、それもそうだな」
そう言うと、銀時はわたしに煎餅を差し出してくる。
真っ赤に染まった煎餅だった。それを見て、わたしは首を横に振る。
「……わたし、激辛って嫌いなのよ」
「んだよ、情緒ねェーなぁ」
少し腫れた唇を尖らせてくる銀時に、わたしは小さく息を吐いた。
「ここだけの話……気に食わないのよ、あの人」
「何を今更。毎日見舞いに来てたんだろ?」
「……そしたら、総悟くん喜ぶかと思ったからね」
すると、銀時はニヤリと笑う。
「なに? 桜ちゃん、そんな
それに、わたしは嘆息して、髪を掻き上げようとした。が、異様に頭がモフモフしていることに気づき、カツラを取りながら答える。
「違うわよ。可哀想じゃない、ただ一人の家族がもうすぐ死んじゃうなんてさ。そんな彼が、わたしのこと彼女呼ばわりするんだもの。そんな女が死期の近いお姉ちゃんと仲良くしてくれたら、少しは気が晴れるのかな、思ってね」
「なに、その旦那のために姑の介護してあげてる嫁的発言」
「しょせん、男はみんなマザコンよ――今回は、シスコンだけど」
重いカツラを取った後の清涼感は一段だった。頭を振ると、汗ばんだ薄紅色の髪が、額や首にくっついてくる。
銀時は、煎餅をむしゃむしゃ食べながら言ってくる。
「結べば?」
「ゴムない」
「お兄ちゃん、輪ゴムなら持ってるよ?」
「それちょーだい」
「ダメ、さすがに女子力低すぎ」
「じゃあ、言わないでよー」
そんな不毛なやり取りをして。わたしは首の下に手を通し、髪をパタパタと動かす。何だかんだ、髪は鎖骨くらいまで伸びているようだ。
「ねぇ、髪、長いのと短いの、どっちがいいと思う?」
「んー、どっちでもいいんじゃね?」
「その返答、一番困るんだけど」
「知らねェーよ。んなもん、好きな男に訊けよ」
適当に答えているのが明白だった。
だから、わたしは言ってみる。
「好きな男だから、訊いているのだけど」
すると、銀時は
「……どうして、今更そんなこと言うの?」
――今更って、ひどい言われようね。
冷たい声音でそう問われ、わたしは苦笑した。
「あの人が、気に食わなかったから」