偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

114 / 134
鎮魂歌は誰のために歌うのか①

 

 

 

 

 雨が上がった後の朝焼けは、いつも以上に神々しく見えた。

 

 それは、物理的なものなのか、それとも、気の持ちようなのか、わたしにはわからない。

 

 それでも、彼女が今、静かに息を引き取ろうとしていて。

 

 それが、こんな綺麗な朝の旅立ちならば、きっと良い旅路になるだろう。

 

「おー、お前も病室付いてなくていいの?」

 

 病院の屋上に出ると、出入り口のすぐ傍で、銀時が煎餅を食べながら、くつろいでいた。

 

「お前も?」

 

 わたしが首を傾げると、銀時は陰の向こうを指差す。そっと覗き込むと、土方らしき背中が、もしゃもしゃと一人、何かを食べているようだ。治療は受けたようで、あちこちに包帯が巻かれている。

 

 ずっと一人でぶつぶつと言っているようだが、それに聞き耳を立てるつもりもなかった。

 

「姿がないと思ってたら、こんなとこいて……最期くらい一緒にいればいいのに」

「それじゃあ、弟くんの立つ瀬がないだろう」

「ま、それもそうか」

 

 そう納得して、わたしは銀時の隣に座る。

 

「なに? ホントにこんなトコいていいの?」

「それこそ、姉上の立つ瀬がなくなるでしょう?」

「ま、それもそうだな」

 

 そう言うと、銀時はわたしに煎餅を差し出してくる。

 

 真っ赤に染まった煎餅だった。それを見て、わたしは首を横に振る。

 

「……わたし、激辛って嫌いなのよ」

「んだよ、情緒ねェーなぁ」

 

 少し腫れた唇を尖らせてくる銀時に、わたしは小さく息を吐いた。

 

「ここだけの話……気に食わないのよ、あの人」

「何を今更。毎日見舞いに来てたんだろ?」

「……そしたら、総悟くん喜ぶかと思ったからね」

 

 すると、銀時はニヤリと笑う。

 

「なに? 桜ちゃん、そんな(こび)売っちゃうくらい、あのボクに惚れちゃったの?」

 

 それに、わたしは嘆息して、髪を掻き上げようとした。が、異様に頭がモフモフしていることに気づき、カツラを取りながら答える。

 

「違うわよ。可哀想じゃない、ただ一人の家族がもうすぐ死んじゃうなんてさ。そんな彼が、わたしのこと彼女呼ばわりするんだもの。そんな女が死期の近いお姉ちゃんと仲良くしてくれたら、少しは気が晴れるのかな、思ってね」

「なに、その旦那のために姑の介護してあげてる嫁的発言」

「しょせん、男はみんなマザコンよ――今回は、シスコンだけど」

 

 重いカツラを取った後の清涼感は一段だった。頭を振ると、汗ばんだ薄紅色の髪が、額や首にくっついてくる。

 

 銀時は、煎餅をむしゃむしゃ食べながら言ってくる。

 

「結べば?」

「ゴムない」

「お兄ちゃん、輪ゴムなら持ってるよ?」

「それちょーだい」

「ダメ、さすがに女子力低すぎ」

「じゃあ、言わないでよー」

 

 そんな不毛なやり取りをして。わたしは首の下に手を通し、髪をパタパタと動かす。何だかんだ、髪は鎖骨くらいまで伸びているようだ。

 

「ねぇ、髪、長いのと短いの、どっちがいいと思う?」

「んー、どっちでもいいんじゃね?」

「その返答、一番困るんだけど」

「知らねェーよ。んなもん、好きな男に訊けよ」

 

 適当に答えているのが明白だった。

 

 だから、わたしは言ってみる。

 

「好きな男だから、訊いているのだけど」

 

 すると、銀時は咀嚼(そしゃく)を止めて、何回かまばたきをした。

 

「……どうして、今更そんなこと言うの?」

 

 ――今更って、ひどい言われようね。

 

 冷たい声音でそう問われ、わたしは苦笑した。

 

「あの人が、気に食わなかったから」

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。