「それとこれと、どこが関係あんの?」
そう訊いてくる銀時は、わたしの方を見ず。食べかけの赤い煎餅をじっと見つめていた。
そんな彼の横顔は、昔と変わっていない。
「あの人、そんなに土方さんが好きだったのなら、田舎で大人しく待ってないで、後を追ってくれば良かったじゃない。そもそも、無理矢理一緒に付いてきたって、良かったのよ」
「ンなもん、実際なにがあったのか、お前知ってんのか? もしかしたら、あの野郎がコテンパンにあの女のこと、フッてたのかもしんないぜ? 他の女作ってたとかさ」
「そんな度胸ないでしょ、土方さんに。さっきドーテー言われて、赤面してたわよ」
銀時は、小さく吹き出した。
「なに、アイツ童貞なの? それはそれで……さすがに若い頃のあの女の方が、童貞はちょっとなぁとか、思ってたかもしれねェーし」
「それもないわね。あの女は、病弱で薄幸な自分に酔うタイプよ。そーゆー顔してたもの」
わたしが断言すると、銀時は一瞬、目を細めて、
「……で、それを反面教師にしようとか、そう思ったワケ?」
そう言うと、わたしの頬を手で触れて、ぐっと顔を引き寄せられる。視界の端に、食べかけの煎餅が落ちていく様を見た。
「なら、こういうコト、したいワケ?」
わたしの顔を両手で押さえる銀時に顔に、悪戯な色はなかった。わたしを見つめる瞳はどことなく赤く、徐々にその距離を近づけてくる。
きっと、彼は、わたしが撥ね退けると思っているのだろう。
そして、顔を赤くしながら、ビンタでもしてきては、セクハラだとか罵るだろうと踏んでいるのだ。
――ナメてくれちゃって!
わたしは両手を伸ばした。銀時のくしゃくしゃな頭を抱えて、自分から彼の唇を噛んでやる。
自然と閉じていた瞼を少し開けば、彼は少し驚いたように目を見開いていた。
少しだけ彼の唇を舐めて、顔を離す。
数拍置いてから、銀時は呆然と言ってくる。
「……何してんの?」
「や、そっちから迫っといて、何してんのはないんじゃない?」
顔をしかめながら答えると、銀時は頭をぽりぽりと掻いた。
「あぁ……まぁ、そうか……」
困っている銀時が、妙に腹立たしくて、わたしは追い打ちをかけることにする。
「これでも、わたし初めてだったんだからね?」
「まぁ、そうだろうなぁ……」
「そうだろうって、わたしそんなにモテなさそうですか? これでも結構美人な分類に入ると思うのだけど?」
「そーゆー意味じゃねェーよ。これでも、昔はずっと一緒にいたお兄ちゃんだからね! 妹の友好関係くらい、把握しとくっての」
――全然、そんな気を使われてる感じはしなかったけど?
そう返そうとして、やめる。
そういう話をしたいわけではないのだ。
だから、わたしは黙った。
計算がずれた銀時は、嘆息する。
そして、訊いてきた。
「――で、どうだったよ?」
「どうだったって?」
首を傾げると、銀時は真面目な顔で訊いてくる。
「そのファーストキス。ドキドキしたか?」
彼の口から出る、可愛い単語に、わたしは再び顔をしかめた。
ドキドキしたのか。
覚悟は決めた。なにせ初めてだったし。緊張はした。
だけど、それをドキドキしたかと訊かれると……。
ふと考え込むわたしに、銀時はふっと鼻で笑った。