偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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鎮魂歌は誰のために歌うのか③

「どうせ、刀持った時と同じだったとか言うんだろ? だったら、ノーカンだ。犬に噛まれたと思って、忘れるこったな」

「ハァ? 何その言い草は!」

 

 わたしは憤って、銀時の襟元を掴んだ。

 

「確かに、今のはなんかこー斬るぞって意気込みだったけど、でも、本当にずっと銀時のことが――」

 

 わたしが最後まで言う前に、銀時はポンポンとわたしの頭を撫でる。

 

「そんな昔にこだわんなって。それこそ、お前が嫌いだっつーあの女と、同じじゃねェーか」

「え……?」

 

 疑問符を浮かべるわたしに対する、銀時の表情は優しかった。

 

「昔にこだわって、ズルズルと婚期逃すまで独り身でいた挙句、ついに重い腰を上げたと思ったら、ろくでもねェー男に引っかかっちまったんだろ? 幸いにも、お前は昔とか状況や環境が変わったんだ。新しい人生歩むっつーんなら、同時に新しい恋ってのを始めるのが粋ってもんじゃねェーのか?」

「新しい人生って……」

「ちょうどおあつらえ向きに、いいのがいるじゃねェーか。ちょっとドSすぎるかなって気もするが、見た目もいいし、何より手堅い収入がある公務員様だ。お兄ちゃんは反対しないよ?」

 

 それは、兄が妹を励ますような、そんな家族愛に満ちていて。

 

 けれど、その目が意地悪に細まる。

 

「それとも、あれか? そんな男が今、恐らく人生で一番ツライだろーって時に、お前はキスしてドキドキもしないような男と、それ以上なことしたいってのか? それなら、いいぜ。そーゆートコ、連れてってやるよ」

 

 わたしの髪をゆっくりと撫で、少しだけ耳に触れてくる。その妙なくすぐったさに肩をすくめると、銀時はまっすぐにわたしを見つめて、

 

「どうする?」

 

 そう、訊いてくる。

 

 ふと、脳裏に浮かぶのは、姉を亡くして悲しんでいるだろう彼の姿だった。

 

 わたしを姉に彼女だと紹介した時の、彼の心境はどうだったのだろうか。

 

 あれから、まともに顔を合わせてはいないけれど。

 

 姉のお見舞いに行った時、少なからずもわたしの話題も出ただろう。毎日わたしもお見舞いに行っていたと聞いて、彼はどう思ったのだろうか。

 

 少しは、喜んでくれたのだろうか。

 

 そして、今、泣いているのだろうか。

 

 何も答えないでいると、銀時は再びわたしの頭を撫でて、立ち上がる。

 

「もう完全に陽も昇っちまったな。この歳になって徹夜なんてすんじゃなかったぜ」

 

 そう言って、大きく伸びをしながら、あくびをした。

 

「じゃ、俺は帰って寝るから。じゃー、またなー」

 

 けだるげに手を振って、彼は階段を降りて行った。

 

 ――また、ね……。

 

 その背中を見送って、わたしは大きく息を吐く。

 

「なにやってんだか……」

 

 そう呟いて、わたしは立ち上がった。すぐ前のフェンスから身を乗り出せば、眼下には色を染めた紅葉が、風に誘われるままハラハラとその身を散らしている。その光景は、とても艶やかで、美しかった。

 

 きっと、彼がわたしに望む生き様は、こういう感じなのだろう。

 

 その状況と感情に身を任して、色恋艶めく女として、生きてほしいのではないか。

 

 きっと、土方や沖田が彼女に望んだのも、同じなのだろう。

 

 無駄に枯れ葉になるまで、枝に留まる必要もない。

 

「けど、こっちにだって意地とか色々なもんがあるんだってーの」

「なら身投げなんて止めれ」

 

 声を共に、わたしは襟元を掴まれ、ひょいとコンクリートの地面に離された。見事に尻餅を付いて、ジンジンと痛む尻に顔をしかめる。

 

「誰もんなことしないってば、ドーテーさん」

「あん? もう一度そう呼んでみろ? 今度はフェンスの向こうに放り投げっぞ」

 

 そう凄みを効かせてくる土方の目は真っ赤に腫れていて。わたしは笑みを返した。

 

「出来るもんならやってみなさい。あの世から土方さんはドーテーとからかわれて泣いてたんだぞって、バラシてやるから」

 

 すると、

 

「それこそ、出来るもんならやってみろよ」

 

 土方も鼻で笑って、この場から立ち去ろうとする。

 

 松葉杖を付くその背中に、

 

「だいじょーぶー?」

 

 わたしは呑気に、そう尋ねる。

 

 それに、土方は振り向かずに、

 

「このくれぇーの傷、どってことねぇーよ」

 

 松葉杖を持ち上げて、大丈夫だとアピールして。

 

 健気な背中を見送って、わたしは空を仰ぎ見た。

 

 雲ひとつない薄い青空が、眩しい。

 

 そして、ぎこちない足音が聴こえなくなってから、

 

「さて、わたしもそろそろ行きますかね」

 

 わたしも一人で立ち上がり、首の鈴を鳴らしながら、階段を降りる。

 

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