病棟の起床時間には、まだ少し早いのだろうか。薄暗い廊下に置かれたベンチに横たわれば、眠気に負けても、不自然ではない。
「オイ、こんなとこで何寝てんだ。痴女猫」
「わたし、徹夜明けなんだけど? 眠くて当然じゃない?」
目を開けて、しっかりした声音でそう答えると、わたしを覗き込む沖田は頭を掻いていた。
「ったく、この兄妹は……」
そう愚痴る彼の顔は、今までに見たことがないくらい、ぐちゃぐちゃだった。綺麗な二重が完全に奥二重になってしまってるし、鼻もやたらテカっている。声もいつもより枯れているようだ。
そんな顔を困ったようにしかめていて。わたしは寝ころんだまま手を伸ばし、彼の頭をポンポンと叩く。
すると、沖田はますます顔をしかめて、その手を取った。
「なんでィ、この手は?」
「深い意味はないけどさ」
沖田の顔を見ながら微笑むと、彼は深く嘆息した。そして、わたしの手を器用に引っ張って、あっという間にわたしは彼に背負われていた。
「よいしょ、と」
「いやそんなジジ臭い掛け声してないで! いきなり何おんぶしてるのよ?」
慌てるわたしに「暴れんじゃねーよ」と言いながら、沖田はわたしの重さを意ともせず、スタスタと歩いて、
「眠ィんだろ? 寝てろよ。連れ帰ってやる……そっちの方がこっちも都合がいいし」
霊安室から、立ち去っていく。
振り向いて見えたのは、ドアが開けっぱなしの部屋の中。白い布を掛けられて眠る女性の傍で、目いっぱい花を咲かせている薄紅の胡蝶蘭が飾ってあった。幸せと愛の象徴であるあの花束も、時期に花びらを床に落とすのだろう。
それでも、きっとあの女性は、幸せそうに微笑んでいるのだろうか。
「……ま、いっか」
わたしはそう納得して、彼の背中に顔を預ける。この暖かい背中は思ったよりも広くて、わたしを軽々と運んでくれるのだ。
――ま、泣き顔見られたくないのかね。
「じゃあ、お言葉に甘えて。おやすみ」
「あぁ、おやすみ――ありがとな」
「……ん」
小さく笑って、わたしは本当に、目を閉じた。
廊下を誰かが走っていく足音がうるさい。
障子の隙間から差し込む陽は高く、久々に昼間まで寝たんだなという満足感があった。
この一カ月くらい、毎日朝は早起きして、訓練をしていたのだ。たまには、こういう休息があっても、悪くはないのだろう。
「どうせなら、とことんと……」
二度寝をしようと、また布団に潜ると、
「いつまで寝りゃ気がすむんだィ、いい加減起きやがれ」
鼻をつまれ、わたしはその手を振り払った。
「いいじゃん、まだ数時間しか寝てないでしょ……」
「お天道様一回沈んで、また昇りなおしてらァ!」
布団をはぎとられ、追いかけるように身を起こす。
まばたきを何回かすれば、沖田がわたしの真隣で横になっていた。その姿に、わたしは驚愕する。
「おそよう、痴女猫」
そう微笑む沖田は、着物を着てなくて。下半身は布団に隠れて見えないものの、鍛えているだけはある胸板と、うっすら割れている腹筋が視界に入るやいなや、わたしは顔を逸らした。
「ななな……何をしてんのよ、あんたは!」
「
「あっさり答えないでっ! なんであんたがわたしの布団で裸で寝てんのか聞いてるの!」
それに、沖田はさも当然とばかりに飄々と答える。
「そりゃあ、人の背中で本当に爆睡するアンタを送り届けて、すぐに病院に戻って葬儀やなんかの手続きを一通り済ませて、屯所に戻ってきたら、俺が色々堪えてるっつのに、誰かさんがぐーすか寝てらァ。飼い主を励ますのがペットの役目なんだから、癒してもらおうと、その布団に潜る込むのは当たり前のことじゃねェーかィ」
「百歩譲ってそれを許したとしても、総悟くんが服を脱いでいる理由にはならないでしょうが!」
わたしはバクバクとうるさい心臓を懸命に抑えようと、胸に手を当てようとする。
――ん? 胸がうるさい……?
ふと、頭に疑問符が浮かぶものの、それはすぐに霧散した。そこにあるべき布がなかったのだ。
沖田はニヤリと笑う。
「そりゃあ、裸で寝ている女と一緒に寝るんだ。こちとらもそれなりの恰好しないと、申し訳ねェーだろうが」
「いやぁぁぁぁあああああああああああああああああ!」
叫びながら、わたしは枕を思いっきり沖田へと投げつけた。
遅くなりましたが、ミツバ篇はこれで終わりです。
とりあえず、沖田をメインキャラに置いているからには、絶対書かなきゃいけない話が書けて、私的には一安心してますが、いかがでしたでしょうか?
この後は、ちょっと繋ぎでくだらない話を挟みながら、吉原篇で大きく話を動かそうかな、と思ってます。沖田が桜と顔を会わせなかったりとした伏線も回収していくつもりです。
また、原作とずれてくる部分が多くなってきますが、原作通りが好きな方がいらっしゃいましたら、この場でお詫びさせていただきます。
実写映画化も決まり、銀魂が盛り上がるのか下がるのかよくわかりませんが……マイペースに書き進めたいと思っておりますので、今後もお付き合いいただけたら幸いです。
とりあえず、銀魂カテゴリで話数のトップが見えてきましたが(笑)
気にせず書きたいこと書いていこうかと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
この偽物の銀魂が、少しでも誰かの有意義な暇つぶしになりますように。
由比 レギナ