しかし、わたしたちはあなたを騙そうとしているのだよ。
「おれが見つけるから、きちんとした償いになるんでさぁ。おれが悪いことしたのに、他人の手……しかも、大勢の兵を借りるなんて、問題外だぜぃ」
まぁ、意外と本筋に違いはないのかもしれないが。
将軍は再び、感心したような目を向ける。
「主は……見事な侍だな」
わたしは苦笑した。
「まさか。ただの、宇宙一馬鹿な侍ですよ」
「そんな馬鹿な侍に、友が手を貸すには問題あるまい」
「ん?」
嫌な予感がして、わたしが首を傾げると、
「余も一緒にその鞠を探そう! どんな鞠だ? 何色だ? 高いところは余に任せておけ。これでも幼少の頃はお猿の将ちゃんと呼ばれたこともあるのだぞ」
――将ちゃぁぁああん、そのいい人っぷりもいい加減にしてー!
心の中で泣き叫びながらも、その後、将軍を説得するのに十分以上はかかった。
見上げなくても満月が見える。よく月にはうさぎが住んでいるというが、わたしはうさぎではなく、神様がいるのだと思う。もしかしたら、神様がうさぎなのかもしれないし、ただうさぎのコスプレをしているだけかもしれない。
実際は
月には神様がいて、いいことが誰にも気づいてもらえなかったとしても、必ずその見返りはあるのだと。
月には神様がいて、暗闇に隠れてどんな悪さをしても、必ずそれを罰するのだと。
月には神様がいて、いつでも頑張って生きている人を見守ってくれているのだと。
そう、教えてくれた人がいた。
その人は温かいのだけど、太陽のような絶対的存在感はなく。どちらかといえば、月のようにどこか冷たいのだけど、優しい光を与えてくれる人だった。
だから、月を見ると思い出すのだ。
もう、この世にはその神様がいないことを。
「満月を後光にするなんて、カッコつけているつもり?」
わたしは足を踏みしめつつ、瓦屋根をゆっくり上がっていく。
天守の頂上に立つ避雷針に紐で結ばれているのは、気絶している沖田総悟。
その前には、
「来たか。もう少し早くに来ると思っていたのだが」
「ちょいとしつこいナンパにあってね。撒くのに時間がかかったのよ」
軽口叩いて、振り返る。
天守の頂上はわかってはいるが、とても高い。夜の城下は暗闇にかすんでほとんど見えない。ちらほらとある
わたしは前を向く。
「しかしまぁ、こんな派手なところで、むしろあんたが捕まったりしないわけ?」
「将軍の護衛を主な仕事とする我らがいたところで、怪しむ者はいない。それに、人は見下ろしたものを凝視することはあっても、見上げたものを凝視するということはしないものだ」
「そういうもんかしらね」
きっと誰かに対する皮肉なのだろうが、わたしにそうゆっくり構っている暇はなく、
「じゃあ、気づかれないうちにさっさと用を済ませようかしら」
腰の刀を、引き抜いた。