――キャバ嬢ねぇ……。
ばっちり化粧をして、綺麗なドレスを着て、男に褒められる。
女に生まれた以上、一度は夜の蝶に憧れたことがないわけではない。
その分、男に厭らしい目で見られたり、嫌なところを触られたりするリスクだってあるわけだが。
――果たして、わたしがそんなに弱い女だったかしら?
たいていの男ならば、捻りつぶして余るくらい叩きのめそうと思えば、出来る自信がある。
それに、店の存続が今日の成功にかかっているらしく、妙が必死に頭を下げてきている。
果たして、断る理由があるのだろうか。
「いいよ、そのお仕事引き受けて――」
わたしが快諾しようとした時である。
「ダメだ! そんな依頼、ぜってェー許さねェー!」
軒下から出てきた沖田が、わたしに睨みを効かせながら寄ってくる。
「ちょっとー、わたしが頼まれてるのに、どうして総悟くんの許可がいるわけ?」
「当たり前だろーが! 誰がテメェの監視係だと思ってるんでィ!」
――あぁ……そんなのもあったわねぇ……。
わたしは懐かしむような目で、沖田を見つめて。
「ねぇ、山崎。その係ってチェンジ出来ないのかしら?」
横を向くと、山崎はただ沖田を見てはオロオロとしている。
ぐいっと首輪を指をかけるような形で、わたしは沖田に摘まみ上げられた。
「こちとらホストじゃねェーんだコノヤロー。ペットは飼い主選べねェ言うだろ」
「苦しい……さすがに苦しいから……」
沖田の肩を何回か叩くと、彼は不満げに鼻で息を吐いては、わたしをポイっと投げる。
「ったく……尻餅って地味に痛いんだけど……」
心配そうに屈んでくる山崎を制止して、わたしは尻をさすりながら立ち上がる。
「さ……桜ちゃん、お取り込み中ならまたお返事は後ででも……」
険悪な雰囲気を察してだろう。巻き込まれないと立ち去ろうとする銀時に、
「大丈夫。ちょっと待って」
短くそう言って、わたしは手に持つシャトルとラケットを確認する。
「ようは、総悟くんよりも偉い人に許可が貰えればいいのよね?」
睨んでくる沖田に口角を上げて、わたしはシャトルとラケットを構えた。下から撃つように狙いを定めて、
「しゃぁおらぁぁああ!」
ぶっぱなす。
うねるような回転音と共に、弾丸のごとく飛んでいったシャトルは、床下に突入し、
「あべしっ」
間抜けな声をあげる怪物かなにかに当たった。
這い出てくる怪物の正体に、驚く者は誰もいなかった。
「ちょっと桜ちゃーん! ダメでしょこんなところに撃ったら! 誰かに当たったら危ないでしょー!」
「大丈夫だよ。そんな所、近藤さんくらいしかいないから」
前々から噂には聴いていたのだが。
この真選組の局長、近藤勲は、キャバ嬢に恋をしすぎてストーカーをしているらしい。
妙が来てから、ずっと気配があったので、もしやと思ってみたのだが。
――実際に目の当たりにすると、気持ち悪いわね。
わたしはその考えを顔に出さず、近藤に歩み寄る。傍でしゃがんで、わたしはにこりと微笑んだ。
「ねぇ、近藤さん。妙さんがわたしの手を借りたい言ってきてくれてるの。助けてあげたいんだけど……だめ?」
すると、近藤は目を丸々と見開く。
「お妙さんのため?」
「そう、わたしが一日キャバ嬢お手伝いしたら、妙さんが喜ぶの」
「お妙さんが喜ぶ……」
噛み締めるようにそう言うと、近藤は目を輝かせて、サムズアップ。
「お妙さんのためなら!」
わたしはその言葉を聞いて、振り返る。何も言えず、悔しげに唇を噛み締める沖田に、ニヤリと笑みを返してやった。