すると、土方は鼻で笑った。
「んなわけねぇーだろーが。所詮俺らはイモ侍……しかも、近藤さんなんか週に二回は通ってらぁ」
「お妙さんに会うためなら、たとえ屋根裏やら井戸の中!」
こぶしを握り熱く宣言する近藤に、わたしは呆れて言い返す。
「妙にリアルで、嫌」
「どうせなら、もっと頻繁に通ってくれればいいのにねぇ。出来れば、頻度少なく金多く落としてくれるのが一番。ゴリラに会わなくて済むし」
頬に手を当ててため息交じりで言う妙を見ると、この恋はきっと成就しないのだろうが。
「お妙さーん、そんな寂しいこと言わんでくださいよぉー」
なんて、鼻の下を伸ばしている近藤にしてみれば、照れ隠しにでも見えているのだろうか。
「……て、こんなくだんねぇー話している場合じゃねぇーんだよ。桜、やると決めたからには、きちんともてなしてくれよ? この任務には真選組総出で取り掛かってるんだから」
「ん……うん」
土方の思いがけない真剣な眼差しに、虚ろな返事を返すと、
「それでは、準備整いましたので。お入りください、
近藤と土方は
上様。
決して、領収書で名称不明な人に対する呼び名ではないことは、知っている。
ならば、真選組の上役がそう呼ぶ相手は誰か。
想像するのは容易く、現実を受け入れるには難しく。
だけど、その見事なちょんまげを見れば、わたしは声高々に彼をこう呼ぶしかなかった。
「しょぉぉぉおおちゃぁぁぁあああん!?」
「久方ぶりだな、桜ちゃん――と、直接こう呼ぶのは初めてだったか。嫌ではないか?」
薄い顔付きながらも優しい微笑。落ち着いた耳に心地の良い声音。ずっしりと上質な着物をきっちりと着こなす彼の名は、徳川茂茂。
誰もが知っている、江戸随一の偉い人、将軍様である。
――そりゃあ、粗相の一つでもあれば、こんな店簡単に潰れるわ。
そんな納得をしつつも、わたしは将軍に質問されていたことを思い出して、首をぶんぶん振る。
「とんでもない……いや、とんでもございません、上様。むしろ、わたくしなどの名を呼んでいただくなど、恐れ多い次第でございます!」
そう言って頭を下げると、頭上から悲しげな声がする。
「そんな構えないでくれないか……余は、思いがけず友に会えて嬉しいのだ。それとも、友と思っているのは、余だけなのか……?」
そんなことを言われ、わたしは慌てて顔を上げた。
「いやいや、そういうわけじゃないし、わたしも久しぶりに会えて嬉しいんだけど、でもわたし今キャバ嬢だし……」
手を振りながら助け船を求めて見渡せば、将軍の後ろからひょこっと顔をのぞかせるのは、白髪交じりのおっちゃんだった。
サングラスをかけた軍服を着たおっちゃんは、これまた親し気に手を振ってくる。
「おー、ほんとに桜ちゃんがいたんだねー。大丈夫だよー、ちゃんと報告は近藤から受けてるからー。ここは俺らの身内しかいないし、店の回りも真選組が警備に当たっている。気を楽にしてくれて構わないよー?」
やたらダンディな声音の偉い人は松平片栗虎。真選組のさらに上の人である。