真選組と出会った当初、沖田を助けるために江戸城へ乗り込んだ際に手を貸してくれた恩人ではあるのだが。
――セクハラ受けた覚えしかないのよねぇ。
あんまり会いたい人ではなかったものの、そんな偉い人にここまで言ってもらえ、かつ、張本人の将軍にこんな悲しい顔をされたら、わたしとて腹をくくるしかない。
「じゃあ、お言葉に甘えて……将ちゃん、久しぶり。元気してた?」
緊張で少し顔が強張るものの、わたしは見上げて微笑んだ。
「さぁ。今宵は再会やら将ちゃんの初・夜遊びもろもろを記念して――乾杯っ!」
松平の掛け声のもと、わたしたちはグラスを合わせた。
が、わたしは内心それどころではなかった。
――お酒だぁぁぁぁあああああ!
お洒落なシャンパングラスに注がれているのは、名前の通りのシャンパン。ほのかな琥珀色に細かい気泡が次々と弾けている。
ちぃちゃんではないのだ。
薄い果実ジュースではなく、大人の嗜むアルコールというものなのだ。
意を決して、それに口を付けようとした時だ。
「あら、桜さんお酒飲めないのではなくって?」
向かいに座るランが、心配そうに顔をしかめて、そう言ってくる。
「え?」
「ウェイターさん、彼女にジュースを。今は仕事中とはいえ、あくまであなたは臨時なのだから、無理をしてはいけないわ」
本当に心配をしているかのように彼女はそう言ってくるものの、初対面である。
――あんた、わたしの何を知っているんですか!
と、問い詰めてやりたいものの、彼女はこうも言ってくれているのだ。
仕事中なのだと。
「ランさん、何を誤解しているのかは存じませんが、わたしお酒が飲めないわけではありませんよ? 飲んだことがないだけでして」
笑顔を作り、自然とグラスに口を付けようとする。
が、その手は隣に座る男に遮られてしまった。
「彼女の言う通りだ、桜ちゃん。酒なんて無理して飲むものではない」
そして、わたしのグラスを奪い、一気に飲み干してしまう将軍様。
「流石は上様。男らしいですわね」
「おー上様、カッコいいアルなー」
間髪入れずに誉める妙と神楽。
うん、男らしいよ将ちゃん。これが上司から無理矢理勧められて困っている女の子に対してとかだったら、とってもカッコいいよ。
だけど、念願叶ってお酒が飲めるだろう機会を奪うだなんて、なんたる拷問だよ!
そこに、運ばれてくるのはオレンジ色の液体だった。
「お待たせしました。なぜか冷蔵庫にたくさん入ってたちぃちゃんでございます。てか、なんであんなにちぃちゃんがあったの? キャバクラにちぃちゃんがあるなんて、俺初めて聞いたんだけど。てか、神楽も酒なんて飲むんじゃねーぞー。てめぇもコレにしとけ」
黒服を着た銀時が不思議そうな顔でそう言いながら差し出して来る。
「銀ちゃん馬鹿にすんのも大概にするアル! 私もう立派なレディアルよ! お酒だって……」
と言いながら、ちょこっとグラスに口をつける神楽。彼女は一瞬顔をしかめて、
「ふっ、私ほどのレディになれば、お酒なんてものに頼らなくても男の十人でも百人でもイチコロアル!」
銀時からちぃちゃんを奪い取り、それを一気に飲み干した。
「よっ、お嬢ちゃん、言い飲みっぷりだねぇ!」
「いくらでも持ってこぉーい!」
松平のはやし立てに、神楽は豪語した。
――わたしも一口でいいから飲んでみたかったなぁ……。
しょんぼり視線を落とせば、そこに置かれているのは、やっぱり見覚えがあるちぃちゃんで。
小さくため息を吐いて、それを飲もうとした時。目に入ったランは、やっぱりニヤリと口角が上がっていた。