偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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猿山の大将は高いところが好き④

 手に刀を持ったまま、両手で耳を塞ぎ、一呼吸。

 

 ――よし。

 

 わたしは狙いをつけて、駆ける。御徒士(おかち)――奈落の顔に向けて、刀を突き出すも、逸らすだけでかわされた。

 

 振り下ろされる錫杖。右足を重心に半回転し、手首を返して、首元を狙って刀を振り下ろす。掬いあげられた錫杖と重なり、その衝撃に身を任せ、飛び退く。

 

 奈落の口が開いた。しかし、わたしはそれを聞きとることなく、もう一度詰め寄る。飛び上がりざまに刀を撫で上げ、それをかわされたところですぐさま、また手首を返して振り下ろす。着地と同時に足をすべらせ、坂の勢いを使って、もう一突き。そこに、錫杖の突きがすれ違い、わたしのみぞおちを狙ってくる。すれすれでわたしは後ろに跳躍し――すぐ様後ろを向いて、屋根を駆けあがる。

 

 そして、沖田と避雷針を結ぶ紐を、一閃した。しかし、沖田は目は閉じたまま。

 

 小さく舌打ちし、振り返る。奈落は感心したような顔をしたものの、悠然とまた、佇んでいた。

 

「やっぱり、読まれていたかしらね」

 

 わたしは苦笑する。

 

 この癖っ毛白髪の奈落を、倒しにきたわけではないのだ。

 

 わたしの身代わりになった少年を、助けにきたのだ。

 

 ――わたしが足止めしている間に、自力で逃げてほしかったんだけどなぁ。

 

 どうやら、そんなに楽をさせてはくれないらしい。

 

 となると、こいつの隙をついて、少年を抱えて逃げなければいけないわけだ。正直、力に自信はない。

 

 奈落の口が動く。しかし、わたしには聴こえない。

 

 わたしはしゃがんで、少年の襟首を掴む。視線は奈落から動かさない。奈落は笛を取り出した。

 

 ――大丈夫。

 

 わたしは腰に力を入れて、少年をひきずり、屋根を下るよう走る。

 

「多少の怪我は我慢してよね!」

 

 眠る少年に声をかけつつ、わたしは奈落に対して、刀を振る。すると、奈落の姿が消えた。

 

 ――背後か?

 

 そう振り返っても、誰もいない。

 

「え?」

 

 その時、頭が揺れた。強い衝撃に視界がぼやけ、同時にわたしは膝をつく。耳にすっと空気が通った。

 

「耳栓なんて古典的な……聴覚なしで挑もうなんて、ずいぶん舐められたものだな」

 

 聴こえてくる、奈落の声。

 

 見上げれば、視界に入るのは黄金に輝く錫杖の頭。

 

 ――間に合わない!

 

 衝撃を覚悟に、歯を噛みしめると、

 

「舐めてんのはどっちのほうでィ?」

 

 その錫杖が、刀の切っ先で跳ね返される。わたしは誰かに抱えられて、奈落から距離を取る。

 

 わたしを抱えているのは、あの少年だった。

 

「ったく、ずっと気絶したふりしててやらぁ、ザマァねーな」

「いつから目、覚めてたの?」

「わりかし、ずっと」

 

 彼はいつの間にか、わたしの刀を持ち、わたしを抱えたまま、それを構える。その瞳は、夜の星にも負けずに爛々としていた。

 

 

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