偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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地味な人生に拍手を送ろう④

 そのままバランスを崩すと、目の前にはナイフの刃が煌く。

 

「なにやってんだテメェは!?」

 

 誰かの手が、ナイフの刃ごと握っていた。その手はじっくりと、赤い血が滲み出す。

 

「総悟っ!?」

 

 ナイフを掴み、わたしの肩を抱いて支える彼の名を呼んだ。

 

「アンタ、こーゆー時だけちゃんと呼んでくれんのな」

 

 彼は顔をしかめながらも、ニヤリと笑って。

 

 その時、

 

「アイヤーッ!」

 

 チャイナ服からすらりとした脚を伸ばして、神楽が将軍ごと世紀末を蹴り飛ばしていた。

 

 世紀末と共に、将軍が頭を軸に回転しながら飛んでいく。

 

「……将……ちゃん?」

 

 二人して、壁に激突し、めり込んだ。

 

「桜ちゃん、大丈夫アルか?」

 

 ふぅ、と息を吐く神楽の顔は、爽やかだった。

 

「う……うん。お陰様で。けど、将ちゃんめり込んでいるけど、いいの?」

「大丈夫ネ! 女子(おなご)助けろ言ったの、将ちゃんアル!」

 

 にかっと笑うその顔に、後悔の色はない。将軍も、頭が壁に刺さってはいるものの、足がぴくぴく動いているので、命に別状はないだろう。

 

 ――ま、いっか。

 

「サドも大丈夫アルか?」

 

 ついでのように訊く神楽に、沖田は頷く。

 

「あぁ。別に大したことねェーよ」

「いや、大したことあるでしょ」

 

 沖田の言葉に、わたしは即座に否定した。手からはドクドクと血が滴り続けており、腕まで赤く染まっている。

 

 わたしは自分のワンピースの裾を噛んだ。

 

「オイ、いきなり何ハレンチなことしてるんでィ」

 

 気にせず、わたしはピンと張った裾を破る。細長いその切れ端を、わたしは沖田の手に巻いていった。

 

「包帯だったら、奥にあるだろうに」

「持ってくる時間が惜しい」」

「なら、わざわざテメェの服破かんでも俺のを――」

「男の太ももなんか見たくないわよ」

 

 それに、沖田は鼻で笑った。

 

「見てみろよ、ちゃんとムダ毛も処理したすべすべの肌を」

「その完璧なまでのこだわりがむしろ気持ち悪いわ」

「美しいだろ?」

「……否定は、しない」

 

 女としての悔しさに唇を噛みながら、わたしは布を巻き終える。

 

 その時、ガシャンと大きな音がフロアに響く。

 

「お前ら! 早くどくアル!」

 

 音は頭上から聴こえた。見上げれば、不自然なバランスだったシャンデリアが、さらに方向を変えていて。

 

 落ちてくる。

 

 わたしがまた、沖田に抱え込まれて。わたしの上に被さるように、体勢を変えられて。

 

 そして。

 

 爆音が、鼓膜を大きく揺るがした。

 

 ――爆音……?

 

「桜ちゃん! 沖田さん! 無事ですかっ?」

 

 硝煙に咳き込むと、沖田がゆっくりと上体を起こす。

 

「てて……今日は厄日か?」

 

 シャンデリアは粉砕され、辺りにガラスの破片が散っていた。落下の直撃は避けたものの、散らばる破片で沖田には小さな切り傷が複数出来ていた。

 

「いい女が台無しね」

「あぁ? 助けてやった俺様に対して、よくそんな軽口叩けるなァ」

「……ちょいと、愛が重いなと思いましてね」

 

 聴こえたのかどうなのか、わからないくらい小さな声でそう言って。

 

 シャンデリアが爆砕した原因を探す。

 

 バズーカを構えた山崎がいた。

 

 世紀末ではない、普通に真選組の制服を着た、山崎がいた。わたしの知っている山崎がいた。とにかく地味な山崎がいた。

 

「聞きましたよ、沖田隊長! 俺が将軍様や隊長を襲撃なんてするわけないでしょう!」

 

 そう叫ぶ山崎は、目にいっぱい涙を溜めていて。

 

 壁に埋もれる将軍と世紀末は、やっぱりピクピクしているだけだった。

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