そのままバランスを崩すと、目の前にはナイフの刃が煌く。
「なにやってんだテメェは!?」
誰かの手が、ナイフの刃ごと握っていた。その手はじっくりと、赤い血が滲み出す。
「総悟っ!?」
ナイフを掴み、わたしの肩を抱いて支える彼の名を呼んだ。
「アンタ、こーゆー時だけちゃんと呼んでくれんのな」
彼は顔をしかめながらも、ニヤリと笑って。
その時、
「アイヤーッ!」
チャイナ服からすらりとした脚を伸ばして、神楽が将軍ごと世紀末を蹴り飛ばしていた。
世紀末と共に、将軍が頭を軸に回転しながら飛んでいく。
「……将……ちゃん?」
二人して、壁に激突し、めり込んだ。
「桜ちゃん、大丈夫アルか?」
ふぅ、と息を吐く神楽の顔は、爽やかだった。
「う……うん。お陰様で。けど、将ちゃんめり込んでいるけど、いいの?」
「大丈夫ネ!
にかっと笑うその顔に、後悔の色はない。将軍も、頭が壁に刺さってはいるものの、足がぴくぴく動いているので、命に別状はないだろう。
――ま、いっか。
「サドも大丈夫アルか?」
ついでのように訊く神楽に、沖田は頷く。
「あぁ。別に大したことねェーよ」
「いや、大したことあるでしょ」
沖田の言葉に、わたしは即座に否定した。手からはドクドクと血が滴り続けており、腕まで赤く染まっている。
わたしは自分のワンピースの裾を噛んだ。
「オイ、いきなり何ハレンチなことしてるんでィ」
気にせず、わたしはピンと張った裾を破る。細長いその切れ端を、わたしは沖田の手に巻いていった。
「包帯だったら、奥にあるだろうに」
「持ってくる時間が惜しい」」
「なら、わざわざテメェの服破かんでも俺のを――」
「男の太ももなんか見たくないわよ」
それに、沖田は鼻で笑った。
「見てみろよ、ちゃんとムダ毛も処理したすべすべの肌を」
「その完璧なまでのこだわりがむしろ気持ち悪いわ」
「美しいだろ?」
「……否定は、しない」
女としての悔しさに唇を噛みながら、わたしは布を巻き終える。
その時、ガシャンと大きな音がフロアに響く。
「お前ら! 早くどくアル!」
音は頭上から聴こえた。見上げれば、不自然なバランスだったシャンデリアが、さらに方向を変えていて。
落ちてくる。
わたしがまた、沖田に抱え込まれて。わたしの上に被さるように、体勢を変えられて。
そして。
爆音が、鼓膜を大きく揺るがした。
――爆音……?
「桜ちゃん! 沖田さん! 無事ですかっ?」
硝煙に咳き込むと、沖田がゆっくりと上体を起こす。
「てて……今日は厄日か?」
シャンデリアは粉砕され、辺りにガラスの破片が散っていた。落下の直撃は避けたものの、散らばる破片で沖田には小さな切り傷が複数出来ていた。
「いい女が台無しね」
「あぁ? 助けてやった俺様に対して、よくそんな軽口叩けるなァ」
「……ちょいと、愛が重いなと思いましてね」
聴こえたのかどうなのか、わからないくらい小さな声でそう言って。
シャンデリアが爆砕した原因を探す。
バズーカを構えた山崎がいた。
世紀末ではない、普通に真選組の制服を着た、山崎がいた。わたしの知っている山崎がいた。とにかく地味な山崎がいた。
「聞きましたよ、沖田隊長! 俺が将軍様や隊長を襲撃なんてするわけないでしょう!」
そう叫ぶ山崎は、目にいっぱい涙を溜めていて。
壁に埋もれる将軍と世紀末は、やっぱりピクピクしているだけだった。