そう言うと、近藤はあっさりと言う。
「嫉妬してんだよ」
「誰に?」
「みんなに」
そのアバウトで幅広い返答に、わたしは顔をしかめる。
すると、近藤がわたしの頭をポンポンと叩いた。
「大好きな女の子が、姉貴を亡くして一番心細い時に、山崎と仲良くしたり、将軍様に膝枕したりしてるんだから……ね」
わたしは自信ありげな笑みを浮かべる近藤に、無表情で言う。
「じゃあ、将ちゃんもバズーカでズドーンかな?」
「や、さすがにそれは……ないと……いいよね……?」
「あーあ、真選組の春は短かったねー」
「やめて! 俺まだ死にたくないっ! 腹切りは嫌だー」
両手で頭を抱えてぶるぶると震える。
そんな大袈裟なリアクションに、
「責任者って大変だねー」
淡々と答えて視線を下げれば、気を失っている将軍の口角が少しだけ上がっていて。
――ま、いいか。
わたしが扇子で将軍に風を送りながら、何気なく訊く。
「てか、なんで総悟くん、あんなに綺麗なのよ。こっちこそ嫉妬したっての」
それに、近藤はあっさりと答えた。
「そりゃあ、毎晩吉原に花魁として潜り込んでるんだから、キャバ嬢だって大差ない――」
「近藤さァァァァァアアアアアアんっ!?」
ドスの効いた、うねり声。
「隠密じゃなかったのか? え?」
あっという間に突進してきた沖田が、怒りをあらわにしながら、局長を見据えていた。
「そ……そういや、桜ちゃんには内緒でって約束だったな……すまない」
と、狼狽えながらもわたしを見下ろして来る近藤。
その不自然さとヒントを元に考える。
沖田に女装趣味は、基本としてなかったはずだ。どちらかといえば、なんやかんやで男らしさなどにこだわっていた節もある。
吉原という場所がどんな所かは知らないが、花魁がなんたるかは知っている。ようは遊女だ。男を楽しませることを生業とする人たちのことだ。キャバ嬢と違う点は、境界や雰囲気が違う……といったところか。
そんな真似を、わざわざ沖田がしてまで潜入していたということ。
そして、それがわたしに内緒だったということ。
――わたしに関係する何かを調べていたということ……?
わたしは沖田を見上げる。
沖田が固唾を呑んでいた。よほど、わたしにはバレたくないのだと思われる。
「……鬼兵隊でも、その吉原ってところに潜んでいるのかな?」
沖田と近藤が目を見開いた。
どうやら、正解のようである。
「まぁ、江戸のどこかに潜伏してるだろうって、そりゃ調査してるわよね」
近藤さん暗殺事件の際や、武器の密輸事件の際、高杉やその部下と鉢合わせしている。つまりは、その根城がどこかにあるということだ。
攘夷浪士の討伐が真選組の仕事の一環である以上、それを調査するのも当然のこと。
そして、
「一番隊隊長が直々に動くなんて、結構信憑性があるってことよね?」
わたしが微笑むと、沖田が歯を軋ませる。
「……先に言っておくが、俺ァぜってェーに許さねェーぞ?」
「そう言われて、わたしが言うこと聞いたことがあったかな?」
「大体、アンタが来てなんになるってんだ? ストーカー捕まえんのは、お巡りに任せておきゃいいだろ」
「ちょいとストーカーに訊きたいこともあったもんでね。なかなかいいタイミングで居所見つけてくれるなんて、さすが真選組ね」
「んなもん、俺が捕まえて来てやっから、牢屋にぶち込んでから訊きゃァ、いいだろーが。それともアレか? 俺が信用ならねェーってでもいうのか?」
そう言われて、わたしは笑顔で、一言。
「だからね、愛が重いって言ってんのよ」