偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

133 / 134
迷った時は喧嘩を売れ③

 すると、沖田の表情が固まって。

 

 その顔が、少し可哀想で、わたしは口を開きかけた。

 

 けど、やめる。

 

 同情が、彼を救うわけはないから。

 

 代わりに、わたしは本当のことを言うのだ。

 

「だって、総悟くんは気づいてないでしょう?」

 

 ――気づいてほしくないくせに。

 

「わたしのことなんか、何も知らないくせに」

 

 ――自分だって、ろくに分かってないくせに。

 

「なのに、わたしのことが好きなの? わたし、そんなに好みな見た目してた?」

 

 ――わたしだって……。

 

 自覚は、とっくにしていた。だけど、わたしはその気持ちに蓋をする。

 

 わたしは、さらに口角を上げた。

 

「だったら、一回試しに抱いてみる?」

 

 気が付いたら、わたしは右を向いていた。左頬が熱い。

 

 まばたきしてから、わたしはまた、沖田に叩かれたことを自覚する。

 

「アンタ、そんな自分を安く売るようなこと、二度と言うんじゃねェ」

 

 ――父親ですか、君は。

 

 沖田は肩を震わせながら、怒っている。その顔は、泣きそうにも見える。

 

 その顔は、小さい頃に高い木に登り、落ちて大怪我をした時にわたしを叱った父の顔に似ている。

 

 ――重いなぁ……。

 

 そんな真剣な彼の顔を見ながら、胸中愚痴する。

 

 親が子を想うような愛情を、抱かれる覚えはない。

 

 ましてや、一人の男が、生涯で一番の女に想うような感情を向けられる筋合いはない。

 

 ――だって、わたしは……。

 

 その後に続く言葉を、まだ口にする勇気はなく。

 

 わたしはゆっくりと目を閉じてから、嘲るような視線を沖田に向けた。

 

「それ、人の布団に裸で潜り込んだ人の言う台詞?」

「しつけェーな。ちゃんと下は履いてただろーが。いつまでゴチャゴチャ根に持ってやがるんでィ」

「だって、まだ許してないもの。許してほしければ、今すぐ土下座でもしてみれば? んで、『桜様、お詫びに吉原に案内させてくだせぃ』とでも、言ってごらんなさいよ」

 

 すると、沖田は舌打ちし、

 

「俺を舐めんのも、大概にしろよ……」

 

 低く唸り、睨んでくる。

 

 わたしは小さく笑って、将軍の肩を叩いた。

 

「将ちゃん、そろそろ起きて。んで、証人になってよ」

 

 それに、将軍はむくりと起き上がり、欠伸一つせず、

 

「証人になれとは、どういうことだ?」

 

 キリっとした顔で、そう訊いてくる。

 

「将軍様っ! お具合はもう宜しいのですかっ?」

 

 狼狽しながらも心配してくる近藤に、将軍は「問題ない」と一言。

 

 ――狸寝入りも甚だしいわね。

 

 苦笑しつつも、わたしは答えた。

 

「沖田総悟と、わたくし桜、この場で勝負し、勝った方が攘夷浪士、高杉晋助の討伐に参ります」

「えっ、ちょ、ちょっと桜ちゃん? なに言っちゃってるの?」

 

 さらに狼狽える近藤に答えつつ、わたしは立ち上がる。

 

「過激派体表の討伐だなんて、強い人が行くのが当然でしょう? 総悟くんよりもわたしの方が強ければ、わたしが行っても何も問題ないじゃない? 近藤さんも、総悟くんが真選組で一番強いから、総悟くんに命じたんでしょう?」

「まぁ、それと花魁に紛れて討伐を謀るのがいいだろうというのもあって、女装が似合いそうな総悟に頼んだけれども……」

「近藤さんや土方さんじゃ、一目で怪しい奴だとバレちゃうもんね」

 

 いかついオカマの花魁姿を想像しながら、わたしはヒールを脱いだ。また足首を捻るなんてヘマしたら、決闘も台無しだろう。

 

 裸足で歩こうとするわたしを、沖田が制する。

 

「オイ、素足じゃ危ない――」

 

 伸ばされる手を、わたしは振り払った。

 

「安心してよ。ガラスの破片で足が痛いから負けちゃったのーなんて、言い訳する気はないから」

 

 絨毯の上は、落ちたシャンデリアの破片が飛び散ったまま。大きな破片を避けることは容易いが、小さなものまで目視するのはなかなか厳しい。

 

 わたしはテーブルから距離を開けるため、数歩動く。

 

 一歩踏み出すたびに、足の裏に痛みが走った。

 

 だけど、そんな痛みも、気にする必要はないのだ。

 

 どうせ、すぐに治る(・・・・)

 

 ――気づいてないでしょう?

 

 わたしは心の中で、沖田に呼びかける。

 

 ――さっき捻った足首だって、もう痛くもなんともないんだよ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。