――どうする?
わたしは無理やり考える。少女を立てに取り、立ちこもる――寝巻にも関わらず、上質な着物を着ており、何より天守の一部屋を寝室として与えられている少女。かなりの身分に違いない。人質としては十分価値がある。
――奈落と同じことしてどうすんのよ!
次。また窓から沖田を連れて飛び降りる。今度こそ、ちゃんと着地できる保証はない。大怪我でもして、衛兵に見つかればそれはそれでまた問題になる。第一、わたしは今、沖田総悟としてここに来たのだ。本物の沖田総悟と一緒に発見されたら、それこそまた面倒になる。
――第一、死ぬ可能性のほうが高いっての。
ならば、どうする。どうする。
慌てれば慌てるほど、震えは大きくなるばかり。
――どうする!
目をつむり、唇を噛みしめる。
そんなわたしの手を優しく包んできた手は、柔らかくて、温かかった。
「お、お兄ちゃん! ごめんなさい、大丈夫。なんでもないよ!」
布団で震えていた少女が、いつの間にかわたしの手を握ってくれていた。
一瞬間が空いて、外にいる男が言う。
「そうか……ところで、部屋に鞠が転がりこんでこなかったか?」
「鞠?」
「うむ。桜色の鞠なんだが」
「さくら……」
少女はわたしの頭を、色々な角度から見る。
桜色の鞠――まさか……。
「……うん。さっきその鞠、拾ったよ。けど、傷だらけだから、直そうかと思ってて」
「そうか。ならば、その鞠、朝方にでも裏門まで届けてやってくれないか? 余の友達が取りにくるはずなんだ」
「お兄ちゃん、友達いたの?」
少女はからかうように言う。
外の男も、苦笑したようだ。
「失敬だな。余のことを将ちゃんと呼んでくれるくらいの仲だぞ」
「そっか。それはもう友達だね」
「うむ。しかし、まだその者の名前を訊いていなくてな。ついでに訊いておいてはくれないか?」
「いいよ。わかった。ちなみに、どんな人?」
「そよより少し年上の女性でな、物おじしない、仲間想いの優しい娘だ」
「ふーん。私とも仲良くしてくれるかな?」
「おそらく、快諾してくれるだろう」
「そっか、楽しみだな」
そう言うと、少女はわたしの手を一段と強く握り、にこりと微笑みかけてくる。
「じゃあ、お兄ちゃん。朝一番にちゃんと届けておくから。任せておいて! ちゃんとこっそり行ってくるから」
「あぁ、頼んだぞ」
そして、静かな足音が遠ざかっていく。
すると、少女は一息吐いたあと、わたしと沖田を交互に見て、再び笑った。
「私はそよと申します。兄から頼まれたので、お二人の手当てをさせていただきますね」
「えーと……」
わたしが状況に呆気にとられていると、沖田が片膝をついて、頭を垂れる。
「ご面倒おかけして、大変申し訳ございません。真選組一番隊隊長、沖田総悟。このご恩は必ず、お返しさせていただきます、そよ姫様」
「沖田様、気にしないでくださいまし。いつも真選組には江戸の安全を守ってもらっているのですから。ようやく恩が返せるのは、こちらの方です」
少女――そよ姫は、わたしの手をゆっくり離した。気づけば、もう震えは止まっている。
「初対面なのに手を握ってしまい、すいませんでした」
「い、いえ……」
「兄が将ちゃんなら、私のことはそよちゃんと、お呼びくださいね」
将軍の次に、その妹である。もう、この城に足を向けて眠れないな、と思いながら、
「じゃあ、わたしのことは桜ちゃんで」
半ば自棄になりながら、わたしは笑顔を作った。
この章ももう少しで終わりです。
そよ姫好きです。可愛いです。こんな妹欲しいです。
題名に『妹』入れながら、妹要素が未だほとんど皆無ですが、次の章でようやく出てくる予定です。