雀がちゅんちゅんと鳴いていた。今日も快晴。地面のぬかるみもすっかり無くなっており、夏ならではのじめじめ感はあるが、それでも清々しい朝である。
「桜ちゃん! 今度は普通に遊びにきてねー」
「ははっ……じゃあ、将ちゃんに今度
そよ姫とそんな感じで別れて。
無事、真選組屯所前である。
わたしは沖田の肩を借りて、歩いていた。
「ったく、左腕打撲に足首捻挫……ザマァねェなぁ」
「ほんと、面目ない……」
沖田の呆れた声に、わたしは項垂れる。
浚われたヒロインを助けようとして、このザマだ。まぁ、ヒロインが男でヒーローが女だという違いはあるけれど、助けた人の肩を借りなきゃ歩けないというのは、情けない話である。
挙句に、奈落から逃げた後のあとザマ。後になって怖くて動けなくなったとか、年下の女の子に励ましてもらったとか、いくら凹んでも足りない――と思っていると、沖田がぼそぼそ言う。
「……ちげェよ、女に怪我さしたなんざ、オレが情けねェんだ」
「ん?」
「ちっ、なんでもねェ」
舌打ちして、沖田は屯所の門を開ける。
歩きながら、沖田の顔を見ると、唇を尖らせていた。幸い、沖田に大きな怪我はなく、こうして無事に帰ってこれたのだ。何がそんなに不満なのか……。
――あ、そうか。
「ごめんね」
「なにがサ?」
「誘拐されて……怖かったよね?」
「はぁ?」
沖田が大口を開ける。そして、大きなため息を吐いた。
「おめェ……いや、もういい。勝手にしろ」
玄関でわたしを放って、沖田は一人すたすたと広間へと入っていく。とすんとお尻を打ったわたしは、患部をさすりながらその背中を見ていた。
「もう……なんなのよ」
わたしも唇を尖らせて、立ち上がった。そよ姫の手当てのおかげか、ゆっくりならば一人でも歩けるのだ。
広間の扉の前で、一呼吸。
そういや、わたしはどんな顔で扉を開ければいいのだろうか。
一応、もう一度顔を見せるのが筋として、沖田と共に帰ってきてはみた。まぁ、今着ているこの制服も返さなくてはならないってのもある。
けど、これからどうしようか。
土方は処遇が決まるまで軟禁すると言っていた。大人しく軟禁されるか? 特に目的とかもなにもないし、帰る場所もないから、衣食住が確保されるなら、それも悪くないかもしれない。しかし、処遇が決まればどうする? 死刑や切腹と言われたら、大人しく従うか?
――それはないよなぁ……。
わたしは目を閉じて、首を振る。
目を閉じて、頭にある一人の男の顔が浮かんだ。かつてのわたしの兄だった人。優しくて、厳しくて、馬鹿だった人の顔。
どうせ死ぬかもしてないのなら、彼に会ってからにしよう。高杉のところから、わたしを助けてくれたのだ。そう遠くにはいないだろうと思う。
しかし、わたしをここに捨てたのだ。拒絶されるかもしれない。それでも――
――けど、とりあえず、真選組に筋は通さないとね。
覚悟を決めて、扉を上げる。
ばんっと弾けるクラッカーの音。目の前にはひらひらと色とりどりな紙吹雪が舞っていた。
多くの隊士たちが笑っている。その奥の弾幕には、大きくこう書いてあった。
『桜ちゃん、ようこそ真選組へ』