「おーしっ、主役来たから始めっぞー! みんな、グラス持てー!」
一番奥にいる近藤が杯を掲げる。しかし、近藤も他の隊士も、すでに顔が赤く、出来上がっているようである。近藤の隣で胡坐をかいている土方が言う。
「てめぇら、あと二時間で仕事だかんなぁ。二日酔いで働いたら切腹! 忘れんじゃねぇぞ!」
「ほら、桜ちゃんも持って持って」
へらっとした隊士の一人が、わたしにグラスを寄越してきた。みんな黄金色のビールを飲んでいるようだが、わたしのはどう見てもオレンジジュース。
しかし、わたしが色々と反論するよりも早くに、近藤が立ち上がり、発声する。
「えー……、色々とあったけど、桜ちゃん、総悟の奪還、真選組を代表して感謝する! ありがとう! そして、君のことは将軍の命において、しばらく真選組が預かることになった。そういうことで、これから宜しく、かんぱーいっ!」
それと同時に、隊士たちが飲みかけのグラスを掲げた。そして、わたしに次々に乾杯を促してくる。
――いやいやちょっとちょっと……。
困惑しながらも、群れてくる隊士を掻きわけて、奥へ行く。辿りついてみれば、部屋の隅では沖田が一人ちびちびとビールを飲んでいた。居づらそうな顔をしているが、そんな彼に構うまえに、はっきりさせることがある。
「あー近藤さん? ちょっとどういうことか説明してくれません?」
「おー桜ちゃん、乾杯!」
笑顔で肩を組んでくる近藤ととりあえずグラスを合わせて、
「はいはい乾杯。で、わたしが真選組預かりってどういうこと?」
近藤は笑いながら、さも軽い話のように言う。
「おう、桜ちゃんが将軍の前から離れてからな、将軍と松平のとっつぁんと相談した結果、表向きは行く先のない記憶喪失の少女を真選組が保護したっということになった」
わたしは眉をしかめる。
「記憶喪失ってねぇ……」
「攘夷戦争以降から記憶がないんだから、あながち間違いでもないんじゃないか?」
「それはそうだけど……」
嘆息する。ちびりと持っていたグラスに口を付けた。やっぱりオレンジジュースである。しかも、果汁割合薄い感じの安いやつ。
「真選組で保護ってのも言い方で、ようは軟禁ってことかしら?」
「お? 出かけたいところがあるなら、そんな遠くないならもちろん自由に行ってくれて構わないぞ。ただ、必ず誰かに一緒に行ってもらうが」
「常に監視を付けられるのって、軟禁となにか差があるの?」
近藤が机にグラスを置く。そして、わたしと対面し、いきなり頭を下げた。
「食べ物着るものには不自由させない! もう君に危ない目にも合わせない! この二つは必ず約束する! 絶対に悪いようにはしないから、しばらくここに身をおいてくれっ!」
わたしは再び嘆息した。障子の向こうの空を見る。
将軍……いや、将ちゃん。わたしが操られていたとはいえ、戦争で攘夷浪士を殺めた随一の英雄と知っての、この処遇かい。
「ほんと、どうやったら将ちゃんなんて呼べんのよ」
おそらく、その処遇はわたしの身の安全を一番に考慮してのことなのだろう。
わたしの生存を内密にしつつ、攘夷浪士からも、奈落からも、真選組にわたしを守らせるために。
――まぁ、攘夷戦争の重要参考人の監禁も兼ねているに違いはないけど。
それでも、あの優しい将軍の命と、こんなわたしに真っ向から頭を下げてくる隊長を