わたしは近藤が置いたグラスを持ち上げ、近藤に渡す。彼はちょこっと顔を上げた。その間抜けな顔が、国の一組織の隊長だということが、いまひとつ信じられないのだが。わたしはにこりと笑ってやる。
「よろしく、近藤さん」
そして、一方的に彼の持つグラスと、わたしのグラスを合わせた。
「てか、なんでこんな朝っぱらから宴会なわけ? 真選組って、お巡りさんなんじゃないの?」
ざっくり話を変えたわたしに、近藤は表情を明るくした。
「当番の奴以外は、基本仕事は九時からだからな。それ以外の時間は仕事に支障がでなければ、何しても構わんさ……なにより、今回の宴会はトシが言いだしたんだぜ」
「土方さんが?」
土方を見ると、彼はビールから口を離し、睨んできた。
「んだよ、俺が企画しちゃ、悪いのか?」
「だって、鬼の副長って呼ばれてるんじゃないの?」
「そりゃ、規律にゃうるさい自覚はあるがな……今回は特別だ」
そう言うと、にやりと笑って、
「何せ、今回は、無事に総悟ちゃんを救出できたってお祝いもあるからなぁ、そ・う・ご・ちゃん」
土方はビール瓶片手に立ち上がり、隅の沖田の方へ向かった。
「どうだったよ、悪者にさらわれて、女の子に助けてもらった気分は? 胸キュンしたりしたか? あ?」
「……いい年した男が胸キュンなんて言葉使って、痛いだけっスよ」
座り込んで沖田の肩を組み、土方は沖田のグラスにビールを注ぐ。
「るせーよ。で、どうなんだよ。総悟ちゃん」
――あー、そういうことか。
わたしは自分の頬を何回か掻いた。沖田がずっと拗ねてた理由がわかったのだ。そして、オレンジジュースを一気に飲み干した。
足を引きずらないように、わたしは彼らの元に向かう。わたしもしゃがんだ。
「ちょっとー、てか、なんでわたしだけジュースなわけ? しかも薄いやつ」
土方の持つビール瓶に、わたしの空のグラスをコツコツ当てる。土方は当たり前とばかりに言い放った。
「そりゃあ、お前さんまだ未成年だろうが」
「わたし二十三くらいって話したよねぇ? てか、未成年飲んじゃだめなら、総悟くんこそ飲んじゃだめでしょうが」
「オイ、誰が総悟くんだって?」
口を尖らす少年に、わたしは首を傾げた。
「自分よりも年下の子に対する呼び方として、総悟くんが適切かと思ったんだけど? あ、ジュース持ってきてあげようか。ドロピカーナじゃなくて、ちぃちゃんしかないみたいだけど」
「おまえだってオレと年は同じくらいにしか見えねーじゃねぇか」
わたしはそんな沖田の頭を撫でる。細い髪がさらさらで、頭が小さいのも相まって撫で心地がいい。
「見た目若くても、中身は充分おねーさんなのよ。だからね、総悟くんが無理に背伸びする必要ないんだから。大人しく守られてなさいな」
「なっ」
酒ではまったく顔が変わらない少年の顔が、一気に真っ赤になる。隣の土方が、腹を抱えながらも必死で笑いを堪えていた。今のどこに笑う箇所があるのか、さっぱりわからない。
沖田はわたしを睨んでくる。
「テメェ、オレのペットの分際で偉そうに言ってくれんじゃねェか」
「ペット?」
「近藤さん!」
沖田はわたしの疑問符を無視して、立ち上がり、近藤を呼ぶ。他の隊士と談笑していた近藤は笑顔で振り向いた。
その隊長に対して、沖田はわたしの襟首を引き上げて、宣言する。
「こいつァ、オレが面倒みさして貰いますぜ! オレが拾ったんでさァ、近藤さんとはいえ、文句言わせねェ」
そして、沖田はわたしに顔を近づけた。その目が爛々とわたしを映す。
「そういうわけで、桜。テメェはオレが直々に調教してやらァ。オレなしに生きていけねェくらい徹底的にやるから、覚悟しとけ」
沖田が怒っているということはわかったものの、わたしにはその理由がさっぱりわからなかった。
ようやく第一章完結しました!
もちろん、この話続きます。これからは原作の話を使いつつ、ストーリーを進めていきたいと思います。
とりあえず、次はあの夏祭りの話。ようやく『お兄ちゃん』登場です。桂や高杉も勢ぞろいのあの話を、盛り上げて仕上げていければと……。あくまで理想ですが。
こつこつ頑張っていきたいので、今後もお付き合いいただけたら幸いです。
この作品が誰かの有意義な暇つぶしになりますように。