偽訳・銀魂 白夜叉の妹と真選組   作:由比レギナ

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序幕 偽・紅桜篇②

 

 

 

 

 次に意識が戻ったときは、目の前に他の顔があった。

 

「お……おまえは……」

 

 うねっている白髪は血で汚れていた。寝ぼけているような半眼が見開かれていた。

 

「銀時……彼女は、もしや……」

 

 隣にもうひとつあったその顔も見覚えがある。紳士的に整ったその顔に、ざんばらな髪が似合わない。

 

 銀時と呼ばれた男は、眉をしかめる。

 

 ――そんなに困らないで。悲しまないで。

 

 泣きそうな彼に手を伸ばしたいが、やっぱり身体が思うように動かない。上がりかけた腕がすぐに床に落ちてしまう。

 

「あ……」

 

 それに気づく。少しだけど動ける。かすれているけど、声が出る。目だけを思いっきり動かして見れば、途切れたコードがたくさんあった。あれにわたしは繋がれていたのだろうか。

 

 遠くから怒声が聴こえる。ジリジリと何かが崩れていく音がする。煙たくて、焦げているような臭いがする。

 

 すべてが心地良いものではないけれど、それでも。

 

「あ……あぁ……」

 

 わたしは懸命に手を伸ばした。

 

 わたしはなんてズルイのだろう。

 

 わたしはなんて愚かなのだろう。

 

 それでも、わたしは目の前にいる傷だらけの白夜叉にすがってしまうのだ。

 

「たす、けて……」

 

 彼は唇をかみしめる。血がにじみ出ようとも、彼は顔から力を抜かない。そして、わたしから目を逸らさない。

 

 わたしはズルイ。本当にズルイ。

 

 だってわたしは知っているのだから。

 

 ずっと前から、彼がわたしを守ってくれるって、知っているんだから。

 

 それなのに、わたしは彼に手を伸ばす。

 

「助けて……お兄ちゃん……」

「くそっ」

 

 彼は舌打ちして、わたしを抱きしめる。血なまぐさい。だけど、彼の胸はすごく温かい。

 

 わたしはズルイ。本当にズルイ。

 

 それでも、彼の腕の中は心地よくって――

 

 

 

 次に気がついた時には潮の匂いがした。

 

 目を開けてみると、目の前にスルメが揺れている。

 

 スルメは右に揺れて。左に揺れて。

 

 目で追っていると、おなかがぐりゅぐりゅと悲鳴を上げだす。

 

 ぱくっと口でそれを奪ってみた。噛みしめれば噛みしめるほどに、旨みが口の中で広がっていく。

 

 夢中で噛んでいると、頭上からくつくつと笑う声が聴こえる。

 

 見上げると、晴天の空の下で、黒い制服を着た少年がにたにたと笑っていた。

 

 空は晴天。日はちょうど頭上にある。地面がぬかるんでいるから、雨上がりだろうか。

 

 そんな土の地面の上に置かれた段ボールの中に、わたしは膝を抱えて入っているようである。

 

 ――ここは、どこだ?

 

 わが身の状況を確かめようとして、口は動かしながらもあちこち見渡そうとして、気がついた。

 

 わたし、何も着ていない。

 

「うひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 絶望の雄たけびが、能天気な空に木霊する。

 

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