次に意識が戻ったときは、目の前に他の顔があった。
「お……おまえは……」
うねっている白髪は血で汚れていた。寝ぼけているような半眼が見開かれていた。
「銀時……彼女は、もしや……」
隣にもうひとつあったその顔も見覚えがある。紳士的に整ったその顔に、ざんばらな髪が似合わない。
銀時と呼ばれた男は、眉をしかめる。
――そんなに困らないで。悲しまないで。
泣きそうな彼に手を伸ばしたいが、やっぱり身体が思うように動かない。上がりかけた腕がすぐに床に落ちてしまう。
「あ……」
それに気づく。少しだけど動ける。かすれているけど、声が出る。目だけを思いっきり動かして見れば、途切れたコードがたくさんあった。あれにわたしは繋がれていたのだろうか。
遠くから怒声が聴こえる。ジリジリと何かが崩れていく音がする。煙たくて、焦げているような臭いがする。
すべてが心地良いものではないけれど、それでも。
「あ……あぁ……」
わたしは懸命に手を伸ばした。
わたしはなんてズルイのだろう。
わたしはなんて愚かなのだろう。
それでも、わたしは目の前にいる傷だらけの白夜叉にすがってしまうのだ。
「たす、けて……」
彼は唇をかみしめる。血がにじみ出ようとも、彼は顔から力を抜かない。そして、わたしから目を逸らさない。
わたしはズルイ。本当にズルイ。
だってわたしは知っているのだから。
ずっと前から、彼がわたしを守ってくれるって、知っているんだから。
それなのに、わたしは彼に手を伸ばす。
「助けて……お兄ちゃん……」
「くそっ」
彼は舌打ちして、わたしを抱きしめる。血なまぐさい。だけど、彼の胸はすごく温かい。
わたしはズルイ。本当にズルイ。
それでも、彼の腕の中は心地よくって――
次に気がついた時には潮の匂いがした。
目を開けてみると、目の前にスルメが揺れている。
スルメは右に揺れて。左に揺れて。
目で追っていると、おなかがぐりゅぐりゅと悲鳴を上げだす。
ぱくっと口でそれを奪ってみた。噛みしめれば噛みしめるほどに、旨みが口の中で広がっていく。
夢中で噛んでいると、頭上からくつくつと笑う声が聴こえる。
見上げると、晴天の空の下で、黒い制服を着た少年がにたにたと笑っていた。
空は晴天。日はちょうど頭上にある。地面がぬかるんでいるから、雨上がりだろうか。
そんな土の地面の上に置かれた段ボールの中に、わたしは膝を抱えて入っているようである。
――ここは、どこだ?
わが身の状況を確かめようとして、口は動かしながらもあちこち見渡そうとして、気がついた。
わたし、何も着ていない。
「うひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
絶望の雄たけびが、能天気な空に木霊する。