川沿いにある小さな町工場。その前には人だかりが出来ていた。
その人だかりの一番奥で、揉めてる男女が一組。
「おいコラ
「あー! 待ってよ
「サビも
どこかの星の文明にチャイニーズという文化があった気がするが、そんな感じの喋り方をし、その文明の女性が着ていたとされる赤いチャイナ服に身を包む十四、五歳の少女。彼女が地味でどこにでもいそうな胴衣を着ているメガネくんに跳び蹴りを食らわせている。その少年も、見た目の地味さにそぐわず、意外と運動神経がいいのか、絶妙に急所は避けているようである。それでも、大げさにすっころんでは、マイクを少女に奪われていた。
流れる演歌。ちょっと音程がずれている歌声。
人ごみの中には、プラカードを持っている人もいた。
騒音迷惑! 移転しろ!
住宅街も近くにあるのか、根本的は抗議はこの工場へ集まったものらしい。確かに、今も機械が擦れる甲高い音や、打ちつけられる音が響いている。
しかし、この演歌と工場音のどちらが騒音かと問われれば、誰もが演歌と答えるのではないだろうか。
――とりあえず、あのスピーカーでも壊すかな。
そう一歩踏み出そうとした時である。
やたら化粧の濃いおばちゃんが、見覚えのある男の襟首を掴んでいるのが、目に入った。
「おいおい
「なんだよクソババァ、いかに普段自分が迷惑かけてるのかっつーことは、自分が体験してみなきゃわかんねーだろ?」
「だからって、これじゃあお前さんたちのほうがうるさいだろー! 早くやめさせろー!」
その男は、一言でいえば、とてもやる気のなさそうな男である。波模様の入った白い着物は片腕だけ出しており、インナーの上下の黒服はどこかジャージっぽい。足もとも長靴を思わせるような黒いブーツである。そして、水色がかった銀髪は、ぼさぼさ――というより、天然パーマなのか。目も垂れ目で、喋り方にも今一つ覇気がない。
そんなどうしようもない男を、わたしはよく知っていた。
ついこないだも、わたしを助けてくれた男。
昔から、わたしを必ず助けてくれた男。
本当は、誰よりも強くて、優しく、頼りがいのある男。
とても、とても大好きな――
「お兄ちゃん!」
わたしは彼に駆け寄り、後ろから抱きついた。
その温かさに安心を覚えるとともに、手が震える。
怖々顔をあげると、振り向く彼の顔は、びっくりしたかのように目が見開いていた。
そして、わたしの顔を確認すると、すっと、目が細くなった。