腕で引き寄せてくる男の正体は、顔を見なくてもわかった。沖田が追いかけてきて、怒っているのだ。
しかし、わからないことがある。
沖田は、わたしが泣いていると言う。
沖田は、わたしを泣かせて銀時を怒っているらしい。
――どうして?
思わず、鼻で笑ってしまう。
なんで、何も知らない少年が、怒るのだろうか。しかも、どうやら銀時とは顔見知りらしいじゃないか。
わたしなんかより、以前からの知り合いじゃないか。
だったら、怒られる方は、わたしじゃないのだろうか。信用されるのは、銀時の嘘の方でないのだろうか。
ふと、ずっとじゃれあっていた少年少女が目に入る。彼らはあたふたとしていた。少年が真っ白なハンカチを取り出して。少女がそれを奪い取り、わたしに差しだしてくる。
「ごめんな。銀ちゃんはこの通り甲斐性の欠片もない
「おー、チャイナなかなか言ってくれるじゃねーかィ」
「私は事実を言っているだけアルよ」
そんなことを言いながら、この少女はハンカチでわたしの顔をごしごし
――あぁ、なんか言わなくちゃ。
チャイナ少女も、眼鏡少年も、心配そうな顔でわたしを見ている。お登勢とかいう、派手なおばさんも、同じような顔。
沖田は後ろにいるから顔が見えないが、ずっとわたしの肩を抱いたままだ。
そして、銀時は、ちらりとも、わたしの顔を見ようとはしない。
「最低な男ね……」
わたしは、ぽつりと呟いた。
だって、完全に自分が悪者になろうとするのだから。
これでは、まるでわたしは、悪い男に引っかかった、可哀想な女ではないか。
わたしが、あなたの言うことを聞かなかったばかりに、あなたの大事なモノが全て壊れてしまったというのに。
わたしが、あなたのそばを離れたばかりに、あなたの大事なモノを全て壊したというのに。
あなたがわたしを許せなくても当然なのに、それでもあなたは自分が悪者になろうとする。
だから、わたしは自分が泣いていることを自覚して、笑うのだ。
「本当に、あなたは最低な男ね――」
その時、工場から轟音が響く。
空砲と共に出てくるのは、人の二倍はあると思われる丸っこいロボット。沖田が持っているようなバズーカを肩に掲げて現れる。その背後からは、ゴーグルを着け、作業着を着たずんぐりむっくりなおじさんだった。
「おいテメェら! 人の作業中にいつまで騒いでおるんだ!」
「それはこっちの台詞だジジイ! 毎日毎日でんやでんやゴタゴタうるせぇーんだよ! ちったぁ、迷惑味わえたかコノヤロー!」
「なんだキサマは! 演歌に痴話げんかにやりたい放題なのはどちらだ!」
そのおじさんと銀時が絡み出し、それにおばさんたちも入り出して。
すると、沖田が腕を引いてくる。
「行くぞ」
小さく、低く、そう言って。
「……そうだね」
そんな楽しそうに、馬鹿馬鹿しく騒ぐ銀時の姿を目に納めて、わたしは歩を翻した。
その日はまっすぐに屯所に帰り、夕食を食べずに床についた。
そして、翌朝――というか、また起きたのはお昼過ぎだったのだが。
目が覚めると枕元には、綺麗な浴衣と、首輪と、読みやすい字で書いてある手紙が置いてあった。
手紙にはこう書いてある。
『男を見返すために、女ができる一番の方法は、綺麗になることだ』
今日もお天気はよくて、決して手が届かないと諦めるしかないほどの高い空が見える。そして、清々しいまでにカラっと暑い。
とりあえず、わたしは背伸びをした。
さて、とりあえずカピカピの顔を洗ってみようかな。
前の章とまとめて同じタイトルにするつもりだったのですが、長くなりそうだったので分けました。
自分で書いておいてあれですが、沖田がいい男すぎて怖いです。
そう思うのが私だけだったら、きっと私も男を見る目がないのでしょう。
これから立て続けにカッコいい男たちを書くつもりなのですが、うまく書けるかびくびくしながら、頑張りたいと思います。