浴衣は夏に着るものである。それなのに、春の象徴たる桜模様というのは、なかなか珍しい。
よくある紺色ベースに、濃淡それぞれの桜が入り混じる浴衣に、橙色の帯を締めて。同色の鼻緒の下駄を履いて。肩で揃えられた薄紅色の髪を
赤い細身の首輪を巻いていることには、気づかないでほしいと心底願っているのだが。
夜の夏祭り。行き交う人は老若男女みんな楽しそうに笑っていた。屋台にも活気があり、等間隔に並んでいる見張りの黒い制服を着た男たちも、心ここにあらずとそわそわしている。この可哀想な男たちは、祭りに参加する将軍の護衛をして、真選組全員駆り出されているのだ。
真選組全員が徴収された中で、常に監視されなければならないわたしはどうなるのか。
答えは簡単だった。
『一緒に来るに決まってらァ』
言われてみれば、納得である。祭り会場中、真選組の隊士たちが目を見張らせているのだ。監禁ではなく、軟禁されているわたしにはぴったりのお出かけである。
しかし、一緒に突っ立っていては芸がない。むしろ不自然。遊び歩きたいが、お金がない。
そのことを訊いたら、返事はこうだった。
『じゃあ、焼きそば買ってきてくれや。残った分は好きなもん買っていいから。あ、もちろんマヨネーズはたっぷりかけてきてくれよ』
マヨネーズに焼きそばをかけたほうがいいのではないか、と訊いたら、それは情緒がないと言われた。
「なかなかいいアイディアだと思ったんだけどね」
そんなわけで、マヨネーズたっぷりの焼きそばと、綿あめと、虫かごを持ったわたしの足取りは、軽かった。余ったお金でやった型抜きは、見事成功し、商品の黄金のカブトムシを手に入れた。おそらく、ただ塗料を塗ってあるだけだろうが、それでも提灯のオレンジ色に照らされて、黄金にきらきらと輝く姿は勇ましい。虫かごの中で、悠然と佇んでいる。
わたしは
――挨拶くらい、したいけどなぁ。
櫓の真下からは、その上にいる人など、もちろん見えることもなく。
わたしは綿あめをぱくりと口にして、
「ひひはははーん! ふうんん、はってひたほー」
「食べながら呼ぶんじゃねぇ」
ほわんと溶ける甘みを満喫しながら、わたしは土方に焼きそばを渡した。
「ちっ、やっぱりマヨが少ねぇな」
――だから言ったのになぁ。
と内心思うものの、わしゃわしゃと勢いよく食べだす姿を見て、まぁいいかと黙っておく。
隣にいた近藤は、羨ましげに言ってくる。
「いいなぁ! ねぇ、桜ちゃん。俺にはないの?」
「え? 土方さんにしか、頼まれてなかったよ?」
「んもー、桜ちゃんのいけずー」
ゴリラみたいな男にいけずと言われても気持ち悪いだけなのだが。
それを言うのも我慢して、わたしは手を差し出して、にこっと笑った。それで察したのか、近藤も眉をしかませながらも笑って、懐に手を入れる。
「桜ちゃんはなかなかの商売上手だなぁ。じゃあ、俺はタコ焼きをお願いしようかな」
そう言って、財布をまるまる渡してくる。それなりに重みがあった。
「ちょっと多くない?」
わたしが財布を手で弄ばせると、近藤は大口を開けて笑う。
「祭りなんて久々なんだろ? こんな可愛い桜ちゃんの姿も見れたしな。遊んでおいで。でも、全部使わなくていいんだからね」
「全力で全部使ってくるわ」
つられて、わたしも笑う。わたしは周りを見渡した。このあたりは将軍の傍だからだろう、真選組の幹部らしき人たちが多めに配置されているようだが、ある人物がいないことに気づく。