「ねぇ、総悟くんは?」
「お、本当に躾けられだしたか?」
焼きそばを食べ終えた土方の軽口に、わたしは顔をしかめた。
「違うわよ。けど、浴衣姿くらい見せてあげようかなっと思って」
そういうわたしに、土方は「ふーん」と相槌をして、言う。
「あいつならうんこだとよ」
「トシ、女の子に対してうんこなんて言葉使っちゃダメだろう!」
近藤は土方の肩に手を置いた。そんな近藤に土方は口を尖らせる。
「うんこをうんこと言わないで、なんて言えばいいんだよ」
「そりゃ、女の子が使うような言葉で……お花を摘みに行く……とか?」
そのチョイスに、わたしは思わず噴き出した。
「普通にお手洗いでいいじゃない」
それに、近藤はなるほどと手を打つ。わたしが笑っていると、土方は懐からたばこを取り出して、火を付けた。
「しかしまぁ、ついこないだまで夜は辻斬りがいるって騒いでたってのに、もう祭りで楽しもうなんて、現金なもんだな」
「しゅひひり?」
わたしはまた綿あめを食べながら、首を傾げる。 そんなわたしを土方はジト目で見ながら、
「そういや、話してなかったか……お前がうちへやって来るきっかけはな、夜な夜な侍を斬るという辻斬り事件だったんだ。まぁ、その正体が鬼兵隊の一人だったんだが」
そう話し、焼きそばの容器をゴミ箱へ投げ入れる。わたしも、口の中の綿あめを消化させた。
「鬼兵隊って、高杉の組織よね?」
「あぁ。過激派攘夷浪士の集まりだな。高杉がとある刀鍛冶と協力して、
そう問われて、わたしは目を細める。
隣の近藤が、
「おいおい、何も今こんな話をせんでも……」
「じっくり取り囲んだら、話すような奴でもないだろう」
制止しようとするが、土方は再びわたしを見下ろした。片手を刀に触りながら、言う。
「よく出来た話だろう? 高杉は、紅桜なんて名前の兵器を作りながら、桜という名前の女を捕えてたんだ。何か関連があると考えるのが、普通だと思わないか?」
一触即発。
まさにそんな雰囲気を感じ取って、わたしは少し口角を上げた。
離れたところから、祭囃子の太鼓の音が聴こえる。
「桜の花が好きな人なんて、世の中たくさんいると思うけど? 血で紅く染まった桜だなんて、風情があるといえば、あるんじゃないかしら」
「高杉と幼馴染だと言ってたな。出身はどこなんだ?」
「ないしょ」
土方が刀をカチャと鳴らす。
「てめぇ、そんなこと言える立場にないこと、わかってんのか?」
「わかってるわよ。わたしが何か言ったら、関係ない故郷の人に迷惑がかかることくらいは」
わたしは、ずいぶん小さくなった綿あめをかじる。飲み物もなしに、綿あめ一個食べきるには、なかなかに
「まぁ……そうね。昔なじみとして、わたしの目の前であいつがなんかやらかそうとした際には、きっちり止めてやるわよ」
そして、最後の一口をぱくり。割り箸をゴミ箱に投げては、後ろを向く。
「浮いた場所らしいこと言うとね、あいつ、昔からわたしのこと好きだったんだって」
「おい、待てよ――」
呼び止められるが、わたしは手で近藤のお財布を弄びながら、足早に人ごみの中に紛れた。
虫かごの中のカブトムシが、もぞもぞと動き出す。