その時、やけに低い場所で一際大きな花火が点火した。
後ろを向いていても目がくらむほどの明滅。そして、爆音。
何が起きたかと振り返りたいが、目の前の狂喜に満ちた笑みから目を離すことが出来ない。
今や、過激派攘夷浪士の筆頭たる存在であり、鬼兵隊の首領。
そして、昔は――。
だから、わたしは知っているのだ。
この芝居のような言動が、全て本心なことを、わたしは知っている。
この手を取らなければ、殺される。
そんな殺気を感じつつ、わたしは覚悟を決めて口を開く。
「……わたしを、奈落の洗脳から治してくれたのは、高杉でいいのかな?」
すると、高杉は両手を広げて、笑った。
「当たり前じゃないか! 婚約者を救うのが俺でなくて、一体誰だと言うんだ」
「婚約者って……そんな昔の話を、まだ言っているの?」
わたしは周囲を見渡す。人がステージから大慌てで逃げていた。真選組はわたしたちには一視もくれずに、ステージへ向かっている。
爆音が立て続けに鳴る。
わたしを胸中を察するかのように、高杉は言った。
「今ステージでは、素敵なショーをしているからな。誰も俺らのことなんか気にする暇はないさ」
「なに? そのショーはあなたが演出しているわけ?」
「なに、俺はただお膳立てしてやっただけさ。きっと、将軍様も喜んでくれるはずだぜ」
「……祭りの日くらい、仕事さぼりなさいよね」
わたしは顔をしかめる。
この騒動、どうやら高杉が画策した、将軍を狙ってのものらしい。
攘夷活動をしっかりしちゃってくれているようだが、それは非常に困るのだ。
――もう、脱出できたかな?
わたしは振り返り、
が、一歩詰められて、高杉に顔を押さえられた。
「なぁ、婚約者が久々に再会できたんだ。目を逸らすなよ」
「わたし……まだ目覚めてから、一週間くらいだけど?」
両手でしっかり押さえられ、息のかかる距離に高杉の顔がある。相変わらず美形だが、それがむしろ怖い。
怖いけど、怯えるわけにはいかないのだ。
怖いけど、怖気づくわけにはいかないのだ。
「ちゃんとこうやって会話できるのは、五年ぶりだ」
怖いけど、逃げるわけにはいかないのだ。
きっと、彼が壊れたように笑うのは、わたしのせいなのだから。
あのとき、わたしが彼らの前から消えて。
裏切って、彼らを斬ったのがいけないのだから。
だから、わたしは高杉から、目を逸らさずに言う。
「じゃあ、五年ぶりに言うけれど――わたしはもう、あなたの婚約者じゃないわ。家も何も、もうわたしにはないこと、知っているでしょう? そんな約束は、とっくの昔に破棄されているわ」
「んなこと、関係ねぇよ。俺がお前を愛してるんだ。ただ、それだけさ」
「……そんなんだから、女に逃げられるのよ」
「もう、逃がしはしねぇよ」
高杉が、腰に手をかけた瞬間、目の前に白銀がきらめいて。
わたしが後ずさると、目の前でその切っ先が止まった。誰かが手を伸ばし、それを握っている。
その手からは、赤黒い血が滴っていた。