捨て猫にはむやみに餌を与えてはいけない①
わたしは裸である。うら若き乙女の裸である。
「いやぁ、なかなか食い意地はってる捨て猫でサァ」
しかし、目の前のそういうのが好きそうな年頃の少年はそんなことに気づいていないかのように、にたにたとわたしを見降ろしていた。
少年本体の色素は薄かった。髪も角度によっては輝いているように見え、目もやや赤みがかっているようである。肌も透き通るように綺麗だ。それなのに、金縁の真黒い服と、腰に下げている刀が、彼の美しき儚さを台無しにしていた。
そんなちょっと残念な少年は、屈んで、わたしの顎を持ち上げる。
「なんでェ、そのツラは。捨て猫呼ばわりされて、威嚇でもしているつもりかィ?」
じろじろ見られて、機嫌でも損ねたのだろうか。けど、その割に彼の顔は好奇心でいっぱいという感じで、目が爛々としている。
しかし、その目に映る自分の姿は、とても貧相だった。
頬が少しこけ、元から大きめの目も少し彫が深くなっているように見える。やたら無駄に長い薄紅色の髪にも艶がない。ぼさぼさだ。歳もこの少年とそんな大差はなさそうである。若干わたしのほうが、年上か。
昔はもっと綺麗だった。手入れもほどほどにしていたし、周りからも見た目で賛辞を受けていた。
けど、その昔と、根本的な顔が変わらなすぎてはいないだろうか……。
それはそうと、この少年、顔が近い。
とても近い。相手の目に映る自分が見えるくらい、相手の吐息が顔にかかるくらい、近い。
そんな近い距離で、彼は囁く。
「てか、いつまでもぐもぐしてるんでェ。もう味ねぇだろう」
いや、そんなことはない。てか、そういう問題ではない。てか、こんな距離で言われることでもない。
しかし、わたしはそれどころじゃないのだ。
年下の少年にときめいている場合ではないのだ。
お腹がぐぅと悲鳴をあげる。
久しぶりの食べ物なのだ。いつからかと言われたらなかなか思い出せないし、そもそも今までどうしてたのかもいまひとつはっきりしないが、おそらく久しぶりに何かが食べれたのだ。後生大事に食べないと、罰を食らうってもんである。
だから、わたしは口を閉じて、味のしなくなったものをいつまでも噛み続けていた。
彼はそんなわたしを、同じ距離のままじっと真顔で見つめてくる。わたしの咀嚼につれて、彼の手も揺れていた。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
そろそろ飲み込もうか。でもなんか勿体ないな。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
彼は顔を離した。懐に手を入れ、取り出したのはスルメ。
「もう一本食うかい?」
ごくん。
飲み込むのと同時に、頷く。
自分でも顔がほころぶのがわかった。そして、目の前に掲げられたするめをまた食らわんと顔の伸ばす。
が、そのするめは高く遠のいていってしまった。
わたしはキッとその少年を睨む。それに反して、少年はにんまりと意地悪く笑っていた。
「食いたいか? 食いたいだろう? だったらオレに何か言うべきことがあるんでないかィ?」
――こいつ、性格わるっ!
そう確信し、じっと彼を睨みつける。しかし、彼は笑みを崩さず、
「ほらほら、どうした。物乞いするにはそれなりの態度ってもんがあるんじゃないかィ、桃色子猫ちゃ~ん」
この伸ばす感じの語尾がまた憎たらしい。下町育ちの性格悪さが滲み出ている。
せっかくの美少年なのに、いろいろ勿体なさすぎるぞ。